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感覚

 死んだ猫が人間から教わった歌、その歌を歌っていたのは唐雛セイナらしき女と見られる。猫の知り合いが唐雛セイナの可能性が出てきた。それに…


「その猫、茶色い毛か?」


<はい。茶トラといって、薄い茶色と白の毛が生えています>とグレー。


<何で知ってんだよ?>と茶々をいれるクマネコ。茶だけにってか。


「実際に見たわけじゃねえんだが、刑事のやつが唐雛セイナの部屋、現場に茶色い毛が落ちてたってな」


<もしかして、唐雛セイナがその猫を?>


「うーん、どうなんだろうな。その猫の爪の血が争ったときのものなら、唐雛セイナにそういう傷があったって刑事が言ってそうな気がするしな。ストーカー男も同じだ。爪の血は別でついたって可能性もあるが」


<あの、彼は人の家には入らない気がします。汚すのが申し訳ないって気にするタイプなので>


「おい、聞いたか?」


<うるせえ。箱の中に入ってるだろ>


「じゃあ、入る理由があったのかもしんねえな。けど窓開けなきゃ入れねえしな」


<唐雛セイナが入れたか、彼女を殺したやつがいれたかってことか>


「事件に関係があると仮定すればそうだな。けど、犯人が猫を部屋に入れる意味がわかんねえ。それに猫の爪の血が誰の血なのか気になるな。警察なら鑑定とかできるが、そもそもその猫の血が証拠になるはずもねえし」


<唐雛セイナが死んだときの血ってことはないのか?>


「そうだとしたらそばに犯人がいることになるが、そんなとき猫はどうするかな」


<オレだったら逃げるか、それとも…>


「それとも?」


<犯人に襲い掛かる。唐雛セイナと仲が良かったらそれくらいするかもな>


「何だそれ?犬じゃあるまいし」


<いえ、猫にも、特に人間と仲が良くなると、そう思う者もいるのでは、と思います>と黙って聞いていたグレーが話す。つがいの茶トラはそんなやつだったのだろうか。


「その猫、いいやつだったんだな」


<はい。そう言っていただけると彼も喜びます。でも、あなたもいい人だと私は思います>


「そんなことねえと思うけどな。その、現場行ったら匂いとかで、その猫が来たかどうかわかんねえか?」


<わかるかもしれないが、こいつ、連れてかないといけないな。オレはその、亡くなってからのいろいろ混じった匂いしかわからねえから>


<お役に立てるのなら、わたしを連れて行ってください>


「ほんじゃお願いできるか?」


<はい>


<待っといてくれ>


 2匹は唐雛セイナの部屋のベランダに向かった。待ってる間、スマートフォンでニュースを見たら、事件のことが載っていて、やはり容疑者はストーカーのやつ、追見供介って名前も発表されていた。そういう幕引きか。関係ねえな。まだやれることはあるって気持ちと、他にやることがねえって現実、この二つが後押ししてくれる。


 時間はまだ朝7時過ぎ、全体を見回しても公園には誰もいない。こんな時間に出かけることなんて最近じゃほとんどなかったし、わざわざ目の前の公園でベンチに座るなんてことも初めてだ。昼間ほどの気温ではないし、日陰っていうのもあって居心地は悪くない。


 土の匂いが風に乗って鼻に入る。ひさびさに嗅いだな、この匂い。わざわざ嗅ごうなんて思う匂いじゃねえけど、嫌いじゃないってことに気付いた。けど、部屋に戻ったらそんなこと忘れちまうんだろう。だから今、目を閉じて存分に味わっておこう。いつもみたく部屋でぼーっとしているより、いくらか人間らしいんじゃないだろうか。わたしみたいなカス人間の感覚だから、たぶん間違っているんだろうけどな。


 


「みゃおう!」


 猫の鳴き声に気付いた。クマネコだ。眠っていたようだ。早起きしたからな。


<おう、行って来たぜ>


「どうだった?」


<はい。彼の匂いがしましたし、毛も落ちていました。あの部屋に行っていたのは間違いない…と思います>


「そうか、ありがとな」


<やっぱり、あの猫と犯人が接触したってことだな?ひっかき傷でもあるやつを探すか?>


「可能性はあるが、あの血は唐雛セイナのものってこともある。けど、その猫があの部屋に入ったってことだけで十分だ。あと、この辺の猫にも話聞きたいな」


<では、わたしはこれで>とグレーがお辞儀をするような動きをした。


「送ってくよ。それにガキたちにこれやらねえとな」と、スティックを見せる。


<おう、行こうぜ>




 グレーを送ったあと、マンション前の公園に戻る。


 カラビナロックのSNS投稿から、めぼしいファン、スタッフらの写真をピックアップして、付近の猫に見せて回る。スティックの効果もあってか、情報はすぐに集まった。総合すると、事件の日、7月3日に猫らが見たのは、唐雛セイナと追見の二人。その他の人物は目撃されてはいない。ただ、追見はその日がしばらくぶりだったということ。それまでは、厳重注意されたのをきちんと守っていたようだ。それ以前だと、事務所のスタッフと相方の六帆キルカは時折、唐雛セイナの部屋に立ち寄っていたようだ。


 クマネコと部屋に戻って、再度ニュースをチェックする。結構な騒ぎになっているようだ。批判の矛先は警察に向けられている。けれど、今のわたしはそんな喧騒に構っている場合ではない。事務所からのアナウンスでは、明日7月6日のライブは追悼イベントとしておこなわれるという。当然、チケットはソールドアウト、だがこっちは確保済みだ。


「ちょっと質問なんだが、猫が人間に話しかけるときって、周りがうるさくても伝わるのか?」


<音、じゃねえからな。やってみるか?>


「そうだな」とイヤホンをしてスマートフォンで音楽を、爆音で聞く。


<どうだ?聞こえるか?>


「おう、全然問題ねえな」と、イヤホンを外す。


<だろ?>


「これ、大人数でもいけるのか?」


<届くくらい強く送ればな。さじ加減だ。そこは声と同じようなもんだ。干渉はしないが。それがどうかしたのか?>


「まあな。あと明日、ちょっと遠出、つっても2キロくらいだが、付き合ってくんねえか?」


<いやだよ。遠すぎる>


「カバンに入れて、近くまで運んでやるから、な?」


<それ、事件に関係あるのか?>


「ああ、わたしの感覚が正しければな、もしかしたらわかるかもしんねえぞ」


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