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かごめの詩  作者: an-coromochi
最終章 あの頃を迎えに
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Daer My Sweet Baby

――ふぅ、ふぅ…、全く、酷いことになった。


20☓☓年、○月△日、時刻は…くそ、もうそんなことはどうでもいい。


山ノ瀬のジジイの私室で、本を無断で漁っていたところ、銃撃を受けた。幸い、散弾銃じゃない。玩具みたいな拳銃だ。まあ、玩具みたいでも拳銃は拳銃。僕を追い詰めるには、十分過ぎたみたいだがね。


弾は、肩と腕を貫通してる。

撃ったのは、風見千代。この村の葬儀役を務めている。信じられないことかもしれないが、まだ二十歳にもなっていない少女だ。


トリガーを引いた彼女のことが忘れられない。ああ、もちろん、一目惚れしたわけではないよ?

彼女、酷く怯えていたんだ。


当たり前のことだが、あの子は、初めて人を撃ったんだ。初体験を捧げたわけだが、残念ながら気分は最悪だね。


はぁ、はぁ、だ、だが、痛みと引き換えに収穫もあった。


本だ。『籠目村祭儀禄』。きっと、これを手にしたことが彼女の逆鱗に触れたんだろうな。


目を通してみて、ようやくここがどんな異常な場所か分かった。そして、何故、僕がこんなにも警戒されていたのかもね。


はは、まあ、基本的にどこへ行ったって、僕たちの仕事は煙たがられるものだから、妙な扱いに慣れてしまっていたのも裏目に出たね。


…とにかく、全てを知ってしまった以上、彼女も、そしてジジイも、僕を生かして帰すつもりはないらしい。


何となく、妻の生まれた場所を一目みたい、なんて考えたのが運の尽きだったよ。胡散臭い伝承の臭いに、僕がつられないわけがなかったのにね。


だが…、僕だって、黙って殺されてやるわけにはいかなくなった。

なんとかして、この村の風習がこれ以上の犠牲を生み出すのを、阻止しなければ。


問題は、彼女らが僕の話を聞いてくれそうにもないこと、実証や理論の構築のための証拠を得る時間がなさそうなことだ。


だから、今までの経験に基づいて、一旦、全てを推論でまとめる必要がある。


…色んな古い儀式を見てきた。

地域独特なもののほとんどが土着信仰に基づくものだったことから、この本における災厄も、それに近いものだと思える。


鬼…は、どうだろう。本物を見たことはない。それに近いものなら経験はあるが、何人も殺めることが出来るレベルのものは、やはり見たことがない。


今はとにかく、鬼がいるものだとしよう。

後は、人柱についてだ。


…忌々しい。時代錯誤もさることながら、この手の生贄文化の行き着く先が、幸福だった試しはない。

それなのに、どこの文化圏でも必ず確認出来てしまう。人間の浅ましさ、ここに極まれり、だ。


村を巡って分かったことだが、道祖神と社は村の四方を囲むように設置されている。かごめかごめと同じ要領で村を囲い、結界を作っているんだろう。


ふぅ、喋り疲れそうだが、そろそろ本題に入ろう。腕の痛みには慣れてきたが、下手すると失血死するかもしれないからね。


本題、そう本題だ。どうすれば、この村に根を張る呪われし習慣を排除出来るかだ。

そのためには、ただ脱出出来ればいい、というわけではない。それなら人柱を立ててしまえばいい。絶対にごめんだけれど。


結論から言おう。この悪習を消し去るには、その鬼とやらを殺すしかない。


そうしなければ、言わずもがな、この地獄は永遠に繰り返される。


大のために、小を犠牲にする。

芸がないと思わないか、全く…。


とにかく、一つ、僕は仮説を立てた。


人柱が欠けることによって作り出される、村の四方を囲む結界は、邪悪な鬼が外に出てしまわないように封じ込めているのに役立っている一方、その力を高めてしまっているのではないか、というものだ。


もしも仮に、夕陽が西から昇り、真上で輝くような事態が本当にありえるのだとしたら、その場所はもうすでに常世ではない。


そうなると、その領域では自然とこの世ならざるものの力は増す。それこそ、水を得た魚のようにね。


そして、この仮説が正しいのだとすれば、鬼を常世に引きずり出すことさえ出来れば、倒すことが可能かもしれないと思うんだ。あくまで可能性だよ?


だがそうなると…、今度は結界が邪魔になる。


おそらくこの結界は、人柱たる巫女が四人揃えば、鬼を幽世に押し留めることが出来る代物だが、三人では幽世の影響を受ける範囲を村の中だけに抑え込むので、精一杯になる。


つまり、僕たちが鬼と対峙するときは、いつだって幽世で、ということになる。

それじゃあ、鬼はいつまで経っても不死身のままだ。殺せない。


そこで僕はさらに考えた。

そもそも、儀式の巫女を殺して人柱にするのは、その存在を幽世に近いものにするためだ。


常世のものでは、幽世に対して壁を隔てた状態でアプローチすることになるんだから、効果は薄い。だから、殺めて向こう側に送り、結界を十分なものにする。


そここそが、不死身の怪物の盲点だ。


生きた巫女を人柱として扱い、儀式を行う。そうすることで、半端な状態を維持する。


3.5人分の結界。四人だと鬼を幽世から引きずり出せず、三人だと、今度は村ごと幽世になってしまう。


ならば、その間を取れば――可能性は十分にあると思わないかい?


とにかく、僕はこの方法を風見さんに話してみるつもりだ。山ノ瀬のジジイは頭が固くなっているだろうが、彼女はまだ若い。説得の余地はあるはずだ。


…それに、僕は彼女の良心を信じている。だって、彼女は僕を撃って、かなりのショックを受けていたんだ。まあ、娘とそう離れていないから、ついつい気にかけてしまっているのかもね。


――この記録は、山ノ瀬のジジイが不可侵にしている部屋に背広ごと隠しておく。

何でも、人柱になったジジイの妹の部屋らしい。元々人柱になる予定だった従姉妹が逃げ出したんだとさ。


…本当に、失う辛さを知る人間が、馬鹿な真似を続けるもんだ。


もしも…もしも、僕が説得に失敗して、消されたとする。

さらに、何も変わっていないおぞましい籠女村を訪れた者がいて、この記録を偶然手にすることがあったとしたら…。


すまないが、○○市にある、『月刊オカルトゴシップ』という会社にこのデータを送ってほしい。


名刺も残せないで申し訳ないが、僕はそこでライターをやっている者だ。

…変人の巣窟のような場所だが、きっと、データを有効に使ってくれる。


さて…、そろそろ行かなくちゃ。

たまには、僕だって本気を出さないと。


なんてったって、かわいい娘が未来の人柱にされるかもしれないんだから。


…死んでも、止めるさ。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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― 新着の感想 ―
[一言] 親父さんホントすげえな。そして鬼のようなものは見たことあるんか・・・
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