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かごめの詩  作者: an-coromochi
四章 地獄は生者たちの中で
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疑心

 いくらかすっきりした面持ちで、風見と話の続きをしようと考えたかごめだったが、相手の責めるような眼差しに面食らって、頬をかいた。


 思ったよりも感情をはっきりと出すものだ。もう少し、ポーカーフェイスなタイプだと想像していたのだが…。


 もしかすると、自分の補佐役である鶴姫のことは、ちゃんと大事に思っているのかもしれない。


「子どもの言うことを、真面目に受け止めてはいけないわ」


 案の定、こちらを諭すような言葉をぶつけてくる。


「分かってますよ。まあ、確かにやりすぎたかも…」

「やりすぎだし、馬鹿!」


 足元で喚いている鶴姫に、本当に懲りないやつだ、とため息を吐く。


「とにかく、そういうことだから、この村からは出られないのよ」


 何が、そういうことだから、だ。簡単に諦めてしまうなんて。


「じゃあ、どうするんですか。救助…は期待できないんでしょ」

「まあ、そうね」今度は心の底から困ったような顔になった。「電話も通じなくて」


「私が外に連絡しようとしたときも、そうでした。まともに繋がらないどころか、『かごめ唄』が流れ出して…」

「かごめ唄?」


「そうです。『かーごめ、かーごめ…』っていうやつ」


 かごめのその言葉に、辺りが少しずつざわめきに満ちていく。


 なんだか、様子がおかしい。


 顔を突き合わせた村人たちは、ひそひそ声で言葉を交わしていたものの、その異様な熱気は隠しきれず、かごめの元にまで届いている。


「あの、一体どうしたんですか?何か、心当たりでも?」


 こらえきれずにかごめが尋ねる。それに対して、風見が素早く切り返した。


「いや、ないわ」


 それは明らかに、欺瞞の影を落とす言葉だった。風見自身、このままでは疑いを持たれると思ったのか、なんでもないことのように付け足す。


「ただ…、みんな、こんなことが続いているからね。不気味なことには、過剰に反応を示してしまうのよ」


「…そう、ですか」


 どうやら嘘吐きが紛れ込んでいるようだ。あるいは、ここ自体、嘘吐きの巣窟なのか。


 風見の隣に立っている鶴姫は、何のことだか分からないふうに、周りの人々の顔を代わる代わる見つめている。


 どうやら、鶴姫は本当に何も知らないようだ。まあ、分かりやすい彼女には不都合な真実を隠しているのかもしれない。


 しばらくすると、埃と蜘蛛の巣だらけの倉庫に、鈍い沈黙の帳が下りた。砂を噛んだような気持ちの悪さに顔をしかめ、かごめはちらりと白雪のほうを確認した。


 白雪もまた、みんなと同様の沈黙を保ってはいたが、その白い顔には何か疑心のようなものが芽生えていた。


 パッと、その憂いに満ちた視線とぶつかる。オニキスの瞳が蛍光灯の光を吸い込んで、銀河のごとく瞬いている。


 こくり、と誰にも気付かれない程度に白雪が頷いた。彼女のことを注意深く見ていたものだけが、気付くことが出来たであろう仕草だ。


 もしかすると、隣にいつまでも張り付いている忌々しい女は、何となく察したのかもしれない。


 白雪からの声なきサイン。私に向けて、何かを伝えようとしているみたいだ。


 瞳をゆっくりと閉じてから、また風見へと視線を戻す。その際に浅く頷いた。


 傍から見たら、風見に対し相槌を返しているように見えるだろうが、今のサインは白雪に向けたものだ。


 どうやら何か話したいことがあるらしい。奇遇なことに、私のほうにも確認しなければならないことが山程あった。


「分かりました。ええ、問題が山積みだってことは」

「そう、残念ながらね」


 肩を竦めて苦笑する風見からは、どこか余裕のようなものすら感じられた。そう演じているだけなのかもしれないが、どこか引っかかる態度だ。


「とりあえず、あちこち走り回って疲れたので…、少し、休ませてもらっても構いませんか?」


 深いため息と共に、かごめがそう提案する。今のは八割ほど演技で出したため息だ。ついでに、「再会した友人とも、またきちんと話せていませんし」と、白雪のほうを横目にしながら付け足す。


 かごめの提案に快諾を示した風見は、一階付近にある休憩スペースを使うといい、と答えた。布団も置いてあるが、おそらくダニだらけなので、使わないようにと忠告ももらえた。


 一先ずお礼を言い、未だに顔を赤くして、恨みがましくこちらを睨む鶴姫に、嫌味っぽく笑ってみせる。それで頬を膨らませる彼女がやはり可愛らしい。


 倉庫から出ていく途中、白雪のほうに顔を向ける。歩きながらではあったものの、白雪はしっかりと頷き、長篠からゆっくりと離れたのを確認する。


 彼女に追いすがろうとする長篠だったが、はっきりと白雪がそれを拒否した。


 初めから、そうやってきちんと拒絶すればいいのだ。全く。


 廊下に出て、一階に下りる階段の直前で白雪が追いついてきた。


「ご、ごめんね、かごめちゃん」

「なんで謝ってんのよ」


 折角二人だけになれたのに、条件反射みたいにして、相手を責めるような言葉が出てしまった。


 まるで、少し前に戻ったみたいな冷たさに、白雪はもちろん、かごめ自身もがっかりするような心持ちになっていた。


 また、あの頃みたいに戻れるかも…。

 そう思っていられた時間は、化け物に奪い去られた。


 いや、そうじゃない。あの、長篠とかいう女にだ…。あぁ、くそ。女郎蜘蛛め。


「ごめん」ともう一度呟いた白雪に、ふん、と鼻を鳴らす。それから、風見の言っていた休憩室に至るまで、互いに無言のままだった。

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