生存者、集合 1
これより、四章がスタートとなります。
今後とも、よろしくお願いします。
白雪に通された部屋には、二十人近い村人が身を寄せて集まっていた。避難所として使われているこの部屋は、いくつも並んだ棚から鑑みるに倉庫のようだ。
かごめは、こんなにも大勢が生き残っていたとは想像もしていなかったため、酷く驚いた顔でぐるりと群衆を見やった。
そして、彼らのほうも無遠慮にかごめのほうを観察していた。ここにきてようやく、よそ者への冷徹さが垣間見えた気がしたかごめは、目を細め、その視線と真っ向から向き合った。
すると、その集団の中から、自分や白雪と歳の変わらない女性が歩み寄ってきた。
田舎者らしい、薄汚れた黒のズボンを履いた女は、一度かごめのほうを恨みがましい目で睨んだかと思うと、どうしてか、白雪の手をぎゅっと掴んだ。
「あの、大丈夫でしたか?姫川さん」馴れ馴れしく、白雪の手を空いた片手でさすった。
「ええ、なんとか」
そっと女の手をのけようとした白雪だったが、握られた手がそのまま、ほっと一息吐いた女の胸元に運ばれタイミングを失う。
白雪は困ったような表情で女のほうを見つめていたのだが、かごめの物言いたげな視線に気づいて、バツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「あの、かごめちゃん、紹介するね。彼女はここで働いていた方で、長篠萌さん。私がここに避難した後、色々とお世話になっていたの」
長篠は白雪の紹介に不服そうに頭を下げ、「どうも」と無愛想に呟いた。
そんな明らかな『非』歓迎ムードに、元々人と衝突しがちなかごめは、臆すことなくじろりと相手を睨んだ。
鶴姫と違い、華がない。まあ、山間の芋と考えれば、むしろ自然か。
かごめは長篠のつま先からつむじまで、じっくりと観察した。
作業着らしきズボン、飾り気のない黒シャツ、ほつれの目立つデニムジャケット。くっつかれた白雪にまで、その野暮ったそうな雰囲気が伝染しそうだ。
とどのつまり、かごめが何を考えていたのかというと…。
――白雪と並び立つには、不釣り合いな女だ。
じっとりとした眼差しを、今度は白雪に向ける。その視線を受けて、白雪はそっと目を逸らした。
その仕草が、どこか自分の中の幼い部分を刺激する。
「ふぅん、『色々と』…ねぇ?」
「えっと、かごめちゃん?」
こちらの顔色を窺うような面持ちになった白雪から、ワケの分からない女と繋がれた白い手へと視線を移す。
「…随分、仲が良いのね」
「あの、かごめちゃん。何か誤解があるみたいなんだけど…、萌さん、とても良い人で…」
「へぇ、萌さん。ほー」
「話せば長くなるんだけど…」
「あぁ、別にいいわ。聞きたくない」
きっぱりと言い切ったかごめを、彼女らの話を耳にしていた人々が責めるように見つめていた。
私に対しては、こんなふうに猜疑心を剥き出しにしているのに、どうやら白雪について村人たちはすっかり信頼を置いているようだ。
その事実も、馴れ馴れしく繋がれた手も、何もかもが気に入らなくて、かごめは鼻を鳴らしながら背中を向ける。
「あ、ごめんね、かごめちゃん…。でも、話を聞いて――」
「こっちは至るところで化け物に襲われて、死ぬ目に遭いながらアンタを探してたってのに…」
ずんずんと、部屋の出口へと足を進めながら嫌味を呟く。
誰も私を止めないことが、無性に腹が立った。
白雪もその場に立ち尽くしたまま、私の名前を呼ぶばかりである。わざわざ追う価値はない、と言われているようで、胸の中のモヤモヤが爆発的に加速する。
ねじれを戻すゴムのような勢いで体を反転させたかごめは、3、4mほど離れたところから、悠長にこちらを見つめている白雪に向かって忌々しそうに声を上げた。
「アンタは見知らぬ女と懇ろってわけね。はっ、心配して損したわ」
「ち、違うよ…?」
「助けてくれて、どうもありがとう。じゃあ、さよなら」
「待って、どこに行くの?外は危ないよ」
一応心配してくれているらしい、と自分の発言を反省しかけたかごめだったが、いつまでも白雪と手を繋いだままの長篠が彼女に顔を近づけ、「放っておきましょうよ」と言ってのけたことで腸が煮えくり返った。
長篠の発言をやんわり断る白雪。その態度だって納得できない。
どうしてはっきりと断れないのか。つい最近、私に見せるようになった、あの強い白雪はどこに行ったのだ。
歯を食いしばり、長篠と白雪を交互に睨む。
「鶴姫を助けに行くのよ。あぁ、アンタたちは、せいぜいこの小汚い部屋で震えているといいわ」
ところ構わず撒き散らされた敵意に、座り込んでいた村人たちの何名かが勢いよく立ち上がった。
やる気か、こいつら。
化け物と死のレースを繰り広げた後なのだ、人間など微塵も怖くない。
かごめがそう思って、仁王立ちの姿勢を取ったそのとき、突然、大きな声と共に背後から強い衝撃に襲われた。
「かごめぇ!」予期せぬ一撃に、かごめは正面から床に倒れ込んだ。「ぐえぇっ」
持ち前の反射神経によって、顔面を強打することだけは避けられた。しかし、肋や肩、手のひらを打って、じんじんと鈍い痛みが各所に走る。
誰かが自分の上に馬乗りになっている。重くはないが、骨ばった感触と、柔らかな感触のコントラストに、息が詰まりそうだった。
首だけをひねって誰なのか確認する。いや、本当はすでに何となく察しが付いていた。ただ、自分のこの目で、彼女が生きていることを確認しなければ気が済まなかったのだ。
そこには、涙ぐんだ月野瀬鶴姫の姿があった。
生きていて良かった、と伝えようとした刹那、グーを作った両手で何度も背中を叩かれて、言葉の吐き出しようがなくなる。
「馬鹿、馬鹿、かごめの馬鹿!どうしてあんな危ないことしたのよっ!囮になるなんて、何を考えてるのよぉ」
「し、しょうがないでしょう?あのときは、ああするしか…」
「それでかごめが死んだら、何の意味もないじゃない!」
「…二人とも死ぬぐらいなら、私が…」
その先を紡ごうとしかけて、かごめは慌ててやめた。
口にしても、ろくなことにならないと分かっていたし、心配してくれている相手の気持ちを無下にするとも分かっていたからだ。
しかし、続く言葉を予知した鶴姫は、泣いた顔のまま器用に目くじらを立てて、叩きつけるようにかごめを叱責した。
「それで生き残ったとして、私が喜ぶとでも思ったの?」
あぁ、おっしゃるとおりで…。
心の底から反省しつつも、またあの場面に遭遇したら、同じことをするんだろうな、とかごめは内心だけで苦笑を浮かべた。
「ごめん、鶴姫」
体を無理やり仰向けに変えて、その小さな頭を撫でようとした。だが、ここからでは届かず、自然と鶴姫の頬を撫でる形になる。
すると、鶴姫は自然な手付きで、頬に添えられたかごめの手に自分の手を重ね、涙を一筋流しながら告げた。
「…もう、二度とあんな真似しないで」
鶴姫のどうしようもない悲壮に満ちた表情を目の当たりにして、かごめは今度こそきちんと後悔し、反省した。
そうか、私は自己満足のためだけに、こんな幼い少女の背に人の命という重荷を背負わせようとしていたのか。
…それは、きっと間違っているよな。
みなさん、お疲れさまです。
みなさんのちょっとした楽しみになれればと、執筆しておりますが、
一ミリくらいはそうなれているでしょうか?
何はともあれ、ご覧になって頂きありがとうございました!




