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かごめの詩  作者: an-coromochi
三章 探索と捜索
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老人 1

かごめは渋面を作りながら大広間に戻った。床に座り込んでいた鶴姫の姿がなく、一瞬だけ慌てたが、すぐに窓際に彼女の小柄な姿を見つけることが出来た。


じっ、と外を眺めている背中に近づく。こちらから声をかけるより先に、鶴姫が窓の向こうから視線を逸らさぬままで言った。


「見て、かごめ」

「なにを?」


念のため警戒しながら、彼女の視線の先を確認する。


背の高い木の壁の向こうに、赤々とした空が広がっているが、特段変わったところはない。


「…別に、何もないじゃない」

「よく見てよ、おかしいじゃん」


もう一度、外を見る。

おかしいと言われても…。そもそも、木の壁以外、空しか見えないのだ。


オレンジの光条を撒き散らす夕焼け。

薄い雲に反射して、幻想的な光景だった。


緊張感に凝り固まった体が、その風景でほんの少しだけ軽くなる。


――いや、待てよ?


ようやく鶴姫の言いたいことが理解できて、かごめは再び体を硬直させた。


「夕日が、沈んでない…」

「それどころじゃないよ、かごめ」と鶴姫が窓の外を指差す。「沈むどころか、昇ってるよ。あの太陽」


確かに、鶴姫が言うとおりだった。夕日は山際ではなく、西の空のやや上の位置にある。


「一体、どうして…」


かごめは、ぼそりと呟いた。


「どうなってるの、かごめ」


「分からない。でも…、やっぱり、何かが根本的におかしい。化け物がいること、妙な歌が流れたこと、夕日が昇っていること…。もう、この村、一体どうなってるのよ」


「う、歌…?」


そうか、繋がらない電話からかごめ唄が流れたことは、自分しか知らないのか。


かごめは、一通りのことを説明した。


「気味が悪い…。誰かのいたずらなんじゃないの?」

「私も、そう思えたら良かったけどね」


皮肉のつもりはなかったのだが、鶴姫はムッとした顔つきになった。ただ、こちらに噛み付いてくることはなく、何か考え込むように黙って、床板を見つめていた。


彼女が何か口にするのを待つべきかとも思ったが、あまりに長い沈黙だったので、かごめは、ふと気になったことを尋ねた。


「ねぇ、この村って、何で『籠目村』なの?由来は?」


鶴姫はそのとき初めて、かごめ歌と村の名前の繋がりに気付いたらしく、青ざめた表情を浮かべた。


それから少し経って、小さく頭を振り、「知らないよ」と答える。


先ほどのメモの件もあったので、本当かどうか一瞬だけ疑ってしまう。


鶴姫は、パーカーの袖の上から二の腕をさすっている。とてもではないが、嘘を吐いているようには見えない。


彼女が何も知らないのは、些か残念ではあったが、何かを隠しているわけではなさそうだと分かっただけで、安心することはできる。


――…もしも、メモの書き手が暗に恐れていたことが、真実ならば…。


今後、生存者を見つけても、気をつけなければならない。

事実、自分は二度、化け物の餌にされかけている。


頭の中を軽く整理し終えた(解明できたことはないが)かごめは、ふう、と息を吐いた。それから自分の太ももを叩き、気合を入れる。その音で鶴姫がビクッ、と驚いていたのが滑稽だった。


「とにかく、他に生きている人がいないか、探しましょう。まだ、一階を探してないから…」


言葉を区切りながら、こちらを恨めしそうに見ている鶴姫を一瞥する。


「えっと…、どうする?鶴姫も来る?」


「行くに決まってるじゃん。かごめ一人にしてたら、またドジ踏みそうだしね」


「はいはい。どうして素直に、心配って言えないのかしら」

「はぁ?ち、違うし!」


素直になれない、青々しい鶴姫のことは適当に受け流し、一階の中央の扉へと進む。その後ろから、ついてくる鶴姫が、ぼそりと言った。


「ま、まぁ、風見さんを見つけるついでに、白雪さんもね…」


かごめは、ドアノブに手をかけながら、ぴたりと足を止めて首を傾げた。そのまま振り返ると顔をほんのりと赤く染めた彼女がいた。


「…鶴姫って、もしかして…」

「な、なに?」


頭に浮かんだ疑問を口にしようとして、すんでのところで思いとどまる。


いや、何と言って尋ねるのだ?


――鶴姫って、風見さんのこと好きなの?

ダメダメ、直接的すぎる。もっと遠回しな…。


――鶴姫って、女の人が好きなの?

論外だ。というか、私はこの極限状態で、一体何に脳細胞を費やしているんだ。


かごめは大きく息を吐き出し、「いや、やっぱりなんでもない」と口にしてドアノブを回した。背中で鶴姫がぶつぶつ小言を言っているようだったが、気にせず扉を開ける。


 扉の向こうには長い廊下が伸びていた。両側の壁にはよく分からない装飾品や、絵画がかけられている。扉も左側に一つ、突き当りに一つ、右側に二つ、という具合だ。


左の扉を開ける。中はキッチンとリビングのようだ。二十畳以上ある広さだったが、薄暗く、人の気配はない。念のため奥まで見て回ったが、誰もいないし、手がかりもなさそうであった。


部屋から出ようとしたところで、鶴姫がどこにもいないことに気が付いた。慌てて足早に廊下に戻ると、ちょうど右側の扉から出てくるところだった。


「黙っていなくならないで、心配するでしょ?」

「え?あぁ、ごめん」


思いのほか素直に謝罪されて、きょとんとしてしまう。こうして素直であれば、容姿も相まってとても可愛らしく思えた。


「こっちは誰もいなかった」

「そう…。こっちもよ」


先ほどよりも、単純に人手が二倍あるので、探索はサクサク進みそうだ。


なんとなく昔やったホラーゲームを思い出すが、今考えると、あんなにもアイテムが落ちているのは不自然だよな、とついつい口元が綻ぶ。


残った扉は突き当りの扉だ。ここにも誰もいなければ、使えそうなものを回収して、また化け物のいる外へと戻らなければならない。


鶴姫だけはここに残してもいい、とかごめは内心考えていた。もちろん、彼女がそれを承諾しないことも、何となく分かっている。


前後に並んだ状態で、ドアノブに手をかける。


物音一つもしないので、中には誰もいないだろうと踏んでいた。だからこそ、扉の真正面のデスクに人が座っていたことで、心臓が縮み上がるほどに驚いた。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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