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かごめの詩  作者: an-coromochi
二章 夕日の昇る村
24/62

記録

 鶴姫にはここにいるように言い残し、建物の中を見て回ることにする。

 彼女は明らかに心細そうな顔をしたが、ここでじっとしていて、事態が好転するとは思えない。


 幸いここは死角もないし、逃げ込めるドアもたくさんある。ちょろちょろしている自分よりは安全だろう。


 まずは、二階から確認する。窓から外を確認したいという狙いもあってだ。


 階段を上がり、一番手前のドアを開ける。中はどうやら、オーディオルームだ。ヴィンテージの大きいスピーカーがいくつも立ち並び、壁面近くの天井には格納されたホワイトスクリーンが見える。


 本革張りのL字ソファをぐるりと回り込み、サイドテーブルの上に散乱したDVDやら、CDやらを調べる。


 これといって面白味のあるものはない。どうやらここの主はジャズが好きらしい。別に構わないが、村長の外見から考えるに演歌でも置いてあるほうが、納得できた気はする。


 スクリーンの邪魔にならないよう配置された大きな棚に近づく。やはり、ここも気になる点はない。


 何も収穫はなさそうなので、さっさと部屋を出る。

 二階から下を見下ろすと、鶴姫は相変わらず膝を抱えて床に座り込んでいた。


 先ほどの流れで、他の部屋も見て回った。


 階段は建物の入り口のある壁の端から左右に広がっており、ホールの半分ほどの位置から、真っすぐとした廊下に変わる。それからぐるりと部屋を囲むように伸びている。


 左の階段から上がり、一番手前の部屋から、オーディオルーム、蔵書室、娯楽室、ツインの客室、といったところだった。


 トイレは言わずもがな、娯楽室のほうも大して何も収穫はなかった。まあ、金持ちの道楽とは、どうしてこうも無駄が多いのか、と思ったぐらいである。


 カラオケ、ビリヤード、ダーツ。

 …後半の二つなんて、高齢者の多いこの村で好き好んでする人間がいるのだろうか。


 蔵書室も、当然ながら本以外は何もない。

 手がかかりがないとも限らないが、今はもう、本を読みたくはない。


 このまま部屋の探索を続けていても、意味なんてないのではないだろうか、と自分のやっていることを疑い始めて客間を訪れたとき、変化があった。


 客間は整然としていて、置き去りにされたぼろぼろのクマのぬいぐるみ以外、誰かが使っていた形跡はなかった。

 ベッドのシーツには皺一つなく、カーテンも閉じられたままだ。


 そもそも、こんな辺境の村に客人などほとんど来ないだろう。一度も使われたことなどないのではないか。そう思い、何となくクローゼットを開けたときだった。


「あれ」と声が漏れる。


 横長に伸びたステンレスのポールに、一着だけスーツジャケットがかかっていた。かなりくたびれていて、妙な臭いがしている。


 籠目村に来て、背広の村人など見たこともない。正装、という意味で持っているのかもしれないが、客室に置いてあるのはおかしい。


 以前、この村を訪れた人が忘れて行ったのか、と何となく手を伸ばす。


 嫌な湿り気がまとわりついた上着は、手にした途端、悪臭を放った。触っていると、目に見えない小さな虫が付きそうで顔を歪める。


 すぐさま元の位置に戻そうとしたが、上着のポケットに何か重みを感じた。

 何となく気になって、ポケットの中を探る。

 指先に固い何かと、乾いた紙の感触を感じ、かごめはそれらを取り出した。


「これって…」かごめは、手の中を見つめ呟いた。


 彼女の掌には、随分と型落ちしたICレコーダーと、くしゃくしゃに丸められた紙がちょこんと乗っていた。


 何か重要なデータが残っているのでは、と思いレコーダーの再生ボタンを押すも反応がない。電源ボタンがオフになっているかと思ったが、そちらはオンに切り替わっている。


「…まぁ、そうよね。明らかに古臭いもの」


 一体、何を期待していたのか、と馬鹿らしくなる。


 しかし、真剣味を失っていたかごめの眼差しは、ついでに程度の気持ちで広げた紙の中身を目で追ったとき、みるみるうちに、歪んでいった。


 かごめは、長くはないものの、ショッキングな一言が綴られた文章に釘付けになった。


 ――…この村は、何かがおかしい。


「どういうこと…?」


 かごめは、ミミズが這ったような文字を声に出しながら読み上げていた。


『この村は、何かがおかしい。閉鎖的でありながら、よそ者に対し、非常に歓迎的な態度を演じてみせる。僕には分かる。あれは、本心からの歓迎ではない。


 今では豪華な食事で温かく迎え入れてくれているが、彼女の名前を出すまでは不審感の塊のような態度だったのが、その証拠だ。


 とにかく、これらの疑念が決定的なものになったのは、滞在中にお世話になっている村長のジジイの家で、誰かが僕の手帳を勝手に見た形跡に気付いてからだ。


 こちらの目的を勘ぐられるような内容は書き込んでいないつもりだが、頭の良い人間は察したかもしれない。


 それにしても、どうして僕を疑うような真似をしたのだろうか…。

 やはり、何か、気づかれたのかもしれない。職業上、妙な目を向けられるのは慣れているが、それでも気持ちの良いものではない。


 それに、この村の各所にある道祖神も、僕の不安をかき立てる。

 初めて見る代物だった。この地特有の宗教、信仰があるようだが、妙に気になる。


 それに、この村の中央にある紙垂の巻かれた白い大岩は、一体…。


 とにかく、今後は手帳には書き留められない。

 調査が進めば、はっきりとした内容をまとめてメモする必要のあるときが来る。

 それを見られれば、色々と不利益を被る。


 とにかく、悲しいことだが村人は疑ってかかるのが得策なようだ。

 まあ、勘ぐるのも慣れているが…。


 そして、ここでの記録についてだが、重要な内容はレコーダーで音声記録を取ることにした。


 …いやはや、彼女も妙な村に生まれついたものだ。』

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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― 新着の感想 ―
[一言] 確か老人向けのビリヤードを簡単にしたやつがあったはず(20年前にやったけど名前忘れた そしてこの手紙の主はだれなんだー(棒)
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