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かごめの詩  作者: an-coromochi
二章 夕日の昇る村
19/62

目無し 1

 祖母の家を出ると、鮮やかな夕日にまた目を奪われた。山の際から頭を出している様子は、こちらを覗き込んでいるようにも見えたが、じきに沈むだろう。


 そうなれば、夜が来る。

 怪物が夜行性ではなければむしろチャンスだが、昼夜問わず襲ってくるなら、むしろ危険だ。


 人間は、夜に行動するようには出来ていない。

 暗闇のベールは、死の気配を探る感覚を鈍らせるし、恐怖を増大させる。


 怪物のあの瞬発力は、後手に回れば死を意味する。

 もちろん、見通しの効く時間帯であっても、曲がり角で鉢合わせでもしたら終わりだ。


 あいつ一体だとも限らない。食事量を考えれば、一体ではないと考えたほうが自然かもしれない。


 常に、最悪を考える。『かもしれない』運転だ。


 かごめは整地された道から逸れて、木の柵の横をしゃがむようにして抜けた。常に化け物の消えた森の奥を気にしながら、周囲を警戒する。


 叔母の家までは、距離にして100mほど。当たり前のように、誰ともすれ違わない。


 まさか、全員殺されたのだろうか。いや、ここに来て以降、この道では鶴姫以外誰ともすれ違っていない。


 村の最奥に位置するこの場所は、怪物がどこから来たかによるが、ある意味安全だったのかもしれない。


 怪物が人を食料と考えているのであれば、人の多い村の中心を第一に狙ったことだろう。


 しかし、裏を返せばここは最奥なのだ。村の外へと避難するための車からは、一番遠い。


 叔母の家の軒先まで来たところで、かごめは深く息を吐いて額の汗を拭った。少なくとも、ここから見える建物に、地震で窓が割れている以外の異変はない。


 白雪が避難するなら、最初にこの家を目指すはずだ。叔母たちが祖母の家で殺されていたことを考えると、怪物が一度あそこを訪れたことは間違いない。

 白雪の遺体が一緒に転がっていなかったことを鑑みるに、彼女は逃げ出したに違いない。そう信じている。


 鶴姫の安否も確かめなければならないだろう。彼女は、おそらくこの家にいるはずだ。あるいは、もっと頑丈そうな建物に逃げたか。


 どのみち、中に入ってみなければ…。


 かごめは、警戒を緩めず叔母の家に入った。


 想像していたよりも室内は平穏そのもので、平屋のためか、地震の被害もほとんど見受けられなかった。もちろん、四方に血の飛び散っている部屋もない。


 各部屋を見て回ってもみたが、誰もいない。鶴姫の部屋らしき、ピンクの装飾が各所に散りばめられている一室も確認したものの、誰かが逃げ回った形跡はなかった。


「鶴姫…、いないの?」


 一応、小さな声で呼びかけてみる。だが、返事はない。空蝉のような沈黙だけが響いていた。


 どこかに避難したのだろう。しかし、どこに…。


 考えられるとしたら、村の中心部にある村長の家ぐらいだろうか。集会所としても使われているらしい建物は、前を通ったときはまあまあ大きく、立派な建物に見えた。


 仕方がないので、居間にまで戻る。


 パントリールームだけは確認していない。どうしようか、とかごめが迷っていると、ふと、昔に観た映画のことを思い出した。


 映画で少女は、殺人犯が家に侵入してきたことに気が付くと、パントリールームの床下収納に隠れたのだ。


 女児ではないので、隠れられない可能性のほうが高いが、念には念を、だ。


 そして、実際彼女の判断は正しかった。


 屈みこみ、床板と同化した取手を探し出す。引っ張り開けると、驚いたことに地下への階段が姿を現した。


 下からはわずかに明かりが漏れており、誰かがいてもおかしくない様子だ。


 なぜ、こんなものがここに、と思いながら階段を下りると、その理由がすぐに分かった。


 積み上げられた缶詰、並んだレトルト食品、カロリーメイトなどの保存食、水入りのペットボトル…。

 どうやらここは、食料保管庫のようだ。備蓄室といってもいいかもしれない。


 鶴姫はここにいるのではないか。こんな規模の保管庫ならば、シェルターとしても使えるだろう。わざわざ外に避難する必要はない。


 保管庫は十畳ほどの広さで、木で出来た棚でほとんど埋め尽くされていたが、奥には寝泊まりできそうなベッドまで置かれていた。

 ボロボロになっていて寝心地は良くないだろうが、ないよりマシだ。


 だが、かごめの期待とは裏腹に誰もそこにはいなかった。


 まあ、安全に耐えられそうな場所を見つけたので良しとする。白雪を見つけ出したら、一先ずここに隠れるのもアリかもしれない。


 適当にカロリーメイトを取り、ポケットに捻じ込む。緊急事態だ、泥棒とは誰も言うまい。


 来た道を戻り、叔母の家を出る。そのまま裏手に回って、塀越しに村を見下ろす。


 しん、とした静寂が蔓延る村は、ところどころで、破壊の痕跡が見られた。遠くのほうの道には、何本か手足が散らばっているのも見える。正面からは分からなかったが、やはり、怪物は村の中心から狩りを始めたようだった。


 村長の家を目指すべきか、一旦車に向かい、救助を呼ぶべきか…。

 いや、待てよ。確かに携帯は圏外だったが、備え付けの固定電話なら電話が通じるのではないか?


 かごめはそう判断して、足早に住居に戻った。電話を探し、居間でそれを見つける。


「良かったぁ…」


 電話がある、ということは繋がるということだ。


 すぐに警察に連絡する。人が死んでいるということだけを報告すればいい。化け物の話をすると、イタズラだと思われかねない。


 コール音が鳴って、電話が通じることを確信する。


 しかし、ガチャ、という音と共に受話器越しに聞こえてきたのは、かごめが全く予想していなかったものだった。


 ――かごめ、かごめ。籠の中の鳥は、いついつ出やる…。


「ひっ」


 びくっ、と体を反応させたかごめは、投げ捨てるようにして受話器を放り投げた。コードで本体と繋がった受話器が、壁に激突して、何度か伸縮した後だらりとぶら下がる。


「な、何なの、今の…」


 幻聴だっただろうか、とおそるおそるもう一度受話器を手にして、耳に当てる。


 ――後ろの正面、だぁれ?


「…っ!」


 かごめは、ガシャン、と今度こそ受話器を本体に叩きつけた。そのまま、恐ろしいものを見やるように手を縮め、一歩後ずさりながら電話を見つめる。


 今のは、有名な童謡、かごめ歌だ。


「…かごめ」


 閃光のように、この村の入り口に立っていた看板が思い起こされる。


 この村は、籠目村だ。

 偶然だろうか…、いや、こんな偶然があるか。

 得体の知れない化け物、通じない電話から聞こえてきた『かごめ歌』…。そして、籠目村という名称。


 これらの全てが繋がりを持っているように思えてならない。


 怪奇小説好きの血がそういう類の妄想をさせるのか、父の影響か…。だが、尋常ならざることが起きていることは確かだ。


 ぞくりとした不気味さで粟立った肌に、ちくりと、何かが刺さるような感覚を覚え、かごめは振り返った。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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― 新着の感想 ―
[一言] かごめかごめ割と最近まで後ろの少年だと思ってました
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