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かごめの詩  作者: an-coromochi
二章 夕日の昇る村
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赤と胃液と怪物と 2

早速評価いただき、ありがとうございます。


どのような評価であっても、私のために手間をかけていただき、


感謝感激でございます!

 散らばっている手足の数からして、このリビングに存在する遺体は三つだ。そのうち、女性の遺体が二つ、男性のものが一つ。


 未だに信じられないが、その中の一人が…。


「…母さん」


 かごめは自分の寝室に戻っていた。ベッドに腰掛け、この常軌を逸した状況を整理しようと考えたのだ。


 ゴミ箱の中にあったのは、苦痛と恐怖に歪んだ母親の顔だ。血みどろになっていて、年の割に血色の良い顔色は真っ青だった。


 そして、床に転がっていた遺体は叔父と叔母だった。


 口からだらりと垂れていた叔父の舌は、黒く変色し始めていて、死んでからある程度時間が経っていることが予想出来た。


 叔母のほうも、殺され方が問題だ。


 彼女の場合は顔がなかった。いや、頭部そのものがない。

 恰幅の良い体型、服装の様子からかろうじて叔母であることは分かるだけだ。


 遺体の紛失はそれだけではない。


 手足の数に異常はなかったが、三人分とも胴体と呼べる部分が見当たらないのだ。


 立ち上がり、部屋の中をうろつく。かごめは片目を手で覆ったまま、気もそぞろな様子でぶつぶつと独り言を繰り返した。


「まずは、そう、まずは状況の整理。夢かどうか?いや、違くて、そう、考えなきゃいけないことがたくさんあるわ…」


 問題をまとめる。


 一つ、殺され方。


 いわゆるバラバラ死体。しかも、あれは何かで切断した、という様子ではなかった。なぜなら、壁や天井にまで血が飛び散っていたからだ。


 誰かが故意に血を撒き散らしたか、よほど凄まじい勢いで血飛沫が舞わない限りは、ああはならない。


 …いや、本当にそうだろうか?

 鋭い刃物で頭と体を両断すれば、あれくらいは血が飛ぶのか。

 …気になるなら、四肢か、頭の断面でも確認すればいい…。


 それが出来るならば、だが。


 二つ目は、胴体と首の行方。


 前述したように、叔母の頭と、三人分の胴体が行方不明だ。

 誰かが、何かの目的で持ち去ったには違いないが、その理由が想像出来ない。


 三人分の胴体なんて、簡単に持ち運び出来るものではないのに…。それだけの労力の対価は、一体何だ。


 三つ目は、今ここにいない白雪。


 これは謎でも何でもないが、現状、一番確認するべき点だ。


 さっさと救助を呼ぶべきだが、ここは電波が届いていないうえに、深山幽谷の地。


 徒歩で下りることは不可能なので、車で誰かに麓まで連れて行ってもらうしかない。


 白雪が村の中に避難しているのだとすれば、合流する必要があるし、あの惨劇を起こした相手から逃げ回っているのだとすれば、今すぐ助けに行く必要がある。


 かごめは、大きく息を吐いた。


「どのみち、動くしかないわ」


 かごめは動きやすいジーンズとTシャツに着替えると、太腿を自分で叩いて、一階に下りた。


 途中、真っ直ぐ叔母の家へ向かうか迷った末に、リビングへ足を向けた。


 先ほどは誰が殺されているのか、白雪は無事なのかを調べるために、手足の数や服の端切れだけに注意して見ていたのだが、今度は、断面を確認しておこうと思ったのだ。


 鉄臭い、異臭の立ち込めるリビングは、初めのうちこそかごめの胃と脳を揺さぶり、何もかもをぶちまけさせようとしていた。しかし、一度冷静になると、自分でも気味が悪いくらいこらえることが出来た。


 神経が麻痺していると、自分でも分かる。


 物心ついたときから魅了され続けてきた怪談やホラー、スプラッタ(は少し違うが)の影響もあって、これだけ五感で異様さを認識しても、現実と空想の境界が曖昧なままなのだろう。


 ある意味で、慣れ親しんだ光景だ。

 当然、今までそれらとは画面を挟んでか、イマジネーションを刺激する文字としてしか、私は付き合っていない。


 窓のそばに落ちている、少し太い足のそばにしゃがみ込む。異臭が鼻を刺激するが、息を止めればいい。


 叔母か、母のものだろう。

 彼女らの足などじっと観察したことはないが、まあどちらでもいい。

 死んでいる、という事実が変わらない以上は、もう意味はない。


 現場保存、という意味を考えても触るべきではないのだろうが、どのみち警察が来る頃には虫に集られるか腐るかして、精確な情報を得ることは出来ない。


 ならば、今自分が触れても大した問題ではない。


 そう判断したかごめは、おそるおそる、足の一本を手に持った。


 想像していたよりもずっと重い足を、断面が見えやすいように角度を変える。血が下に流れてくるかと思ったので、また持ち替えてしっかりと観察する。


 てらてらとした肉の断面は鮮やかさを失っており、血液もほとんど固まりつつある。


 かごめはそのハムの出来損ないのようなものを凝視しながら、眉をひそめた。


 よくよく考えれば、私はプロではない。検視官などではないのだ。本物の死体なんて見たこともないし、傷口から凶器を割り出せるほど、妙な勉学に傾倒していない。


 とはいったものの…。


 手に持っていた足を置き、次は、近くにあった腕を掴んだ。


 やはり、こちらも同じだ。


 断面は、少なくとも真っ直ぐ断ち切られたもののようには見えない。


 ここからは生半可な知識と想像でしかないが、これらは切れ味の悪い刃物(それこそ、中世の西洋剣みたいな)で何度も叩き潰されたものか、まさかとは思うが引き千切られたかである。


 とにかく、犯人は凶器を所持している。しかも、大型のものだ。まあ、懐に忍ばせていないことが分かっただけでも収穫か。出会う相手を疑わずに済む。


 それじゃあ、村の中央のほうに移動しよう。くれぐれも辺りに気をつけながら、白雪や、鶴姫を探すのだ…。


 そう考えながら窓枠に手をかけて立ち上がった、そのときだった。


 ――走れえええぇ!


 虫の音すら聞こえない静寂の黄昏の中を、ガラスを叩き破るような怒号が木霊した。


「な、なに…っ?」


 悲鳴にも似た叫びは、一つではなかった。窓の外から、何人分か響いてきている。


 かごめが少し前に下りてきた斜面を、三人の人間が駆け下りてきていた。

 あんな急勾配の坂を駆け下りるなんて、どうかしている。死にたいのか。


 中年の男女が二人、それから、彼らよりかは少し若いだろう女性が先頭を走っている。


 すると、さらに、もう一人、丘の上から遅れて現れた――いや、あれは…。


 かごめは、反射的に家の入口のほうに向かった。足がもつれかけたものの転倒せずに済んだ。


 玄関口から斜面のほうを向いたかごめの目に飛び込んできたのは、到底信じがたいものだった。


 青い血管の走った、真っ白い体表。

 ガリガリなのに、異様なほど筋肉質で長い四肢。

 頭はつるりとしているが、頭蓋骨が変形しているのか、ところどころ凹凸のある頭。

 血走り、瞳孔が開きっぱなしになっていて、顔の半分近くのサイズがある双眸。

 そして、顔の残り半分を占めるように、端から端まで裂け、ガタガタの並びをした歯をたくわえた大口。


 B級ホラー映画か、ホラーゲームのクリーチャーでしか見たことのない生き物が、大きくけたたましい咆哮を上げて、両腕を広げ、天を仰いだ。


 ――怪物だ。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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