表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かごめの詩  作者: an-coromochi
一章 ようこそ、籠目村へ
11/62

宵 3

 彼女の話をまとめるに、どうやらこれも、村のしきたりだとか、風習だとかいうものの一部らしい。


 夜這い、なんて。

 全く、一体いつの時代なんだ。

 確かに、古い村にはそういう風習があり、客人を喜ばせて、村の血筋を絶やさなかったという話を父に聞いたこともあったが…。


 いくらなんでも退廃的すぎるだろう。


 こんな歳の女の子に。

 しかも、私は女だ。

 さらにいえば、鶴姫は私の姪だ。


 馬鹿らしいにもほどがある…。

 一体、何のためのものなのか。


 大きなため息と共に、かごめは立ち上がった。二人が自分を注視しているのを感じながら、ガチャリと扉を開ける。


「ほら、そんなことしなくていいから、もう帰りな?」


「え…」と鶴姫が呟く。


「生憎と、私は望まない関係を誰かと持たなきゃいけないほど、性に飢えてないから。まあ、ちゃんと口裏は合わせるよ」


 それでいいよね、と白雪にも確認を取る。


 今回の件で一番の被害者といえるのは、かごめと間違われて襲われた(?)白雪だ。ただ、さすがの彼女も自分の意志と関係なく、春を売るような真似をさせられた鶴姫に同情を禁じえなかったのだろう、黙って頷いた。


 だが、最初の気迫も失いつつあった鶴姫は、しゅんとした様子で首を横に振った。


「私、今夜は帰ってくるな、って言われてるから…」


「…そこまでするんだね」


 同様に先ほどとは別人のような口調になった白雪が、心の底から彼女に憐憫を抱いたように目を細め、苦々しい表情を浮かべた。


 かごめはふと、あまりに不思議になって鶴姫に尋ねた。


「そんなにも、村のしきたりってやつが大事?」


「大事だよ」ぴしゃりと少女が答える。「逆らえない、よそ者には分からないだろうけど。それくらい、恐れてる」


「恐れてる?」


 しきたりを守らないことに対して、恐れている、という表現はどこか違和感のあるものだった。


 大事にされているというなら、まだ分かるのだが、恐れているという言葉では、まるでそれを守らぬことで、著しい不利益を被るみたいではないか。


「何をですか?」と白雪が補足して尋ねる。


 すると、鶴姫は俯きがちに首を傾げながら、「分かんない」と言った。


「でも、お父さんも、お母さんも、怖がってる」


「何か、よく分からないものを…ですか?」


「うん」


 何だ、お前らまともに会話できるじゃないか。


 内心でそう呆れていたかごめだったが、すぐに思考を本題に戻す。


 形も何も分からないものを大人が恐れるなんて普通じゃない。


 しかも今回は、それのために娘を捧げているに等しいのだ。


 こういうとき、父に聞いていた話を参考にして考えると、いくつかの可能性が浮上してくる。


 一つ目は、閉鎖的な村では、しきたりを守らないことで村八分に遭うという可能性。

 これが一番可能性としては高そうだ。


 特にあの風見とかいう女性の、有無を言わさぬ威圧感。彼女からは、そういう閉じられた世界における、独特の支配力のようなものを感じた。


 年功序列でもなく、ただ、葬儀役である、という理由だけであの場の全権を握っているようにすら思えたのだ。


 二つ目は、神格化されたその形の見えない何かを、村全体が本気で信じている、という可能性。


 これは次にありえる。というか、一つ目と二つ目が両方当てはまっているという可能性も低くはないだろう。


 こんなろくに電波も届かない、深山幽谷に暮らしている人々だ。近代科学の恩恵のないこの土地では、原始的な思考が信仰されていても何も不自然ではない。


 そして、最後に。

 これが一番ありえないのだが…。


 村中が恐れている、形の見えない何か…が実際に存在している、という可能性だ。


 分かっている、これが一番ありえない。


 この第三の可能性はひとえに、ホラー好きな性格と、父から色々と聞かされたことで生み出された、ただの妄想家の産物だ。


 いけない、こういう妄想はしないと決めたのに…。


 太腿を叩いて、思考をリセットする。


 急にパシッ、という乾いた音を立てたことで、二人が少し驚いたふうに目を見開いた。


「とにかく、それならしょうがないね。ここに泊まっていきなよ」


「か、かごめちゃん?」


「このまま帰して、鶴姫が折檻でもされようものなら、私たちだって寝覚めが悪いでしょ?」


「それは、まぁ…。そうだね」


 白雪は、体を触られたという。この提案に乗り気でないのは仕方がないことだろう。


 その後、間に自分を挟んで寝る、ということで二人の同意を貰うことが出来た。セミダブルなのでかなり手狭ではあるが、女三人でなら眠れないこともないはずだ。


 電気を消し、端に寝た二人の間に身をねじ込む。腕と腕が触れ合うかどうかの間隔。意外にも余裕があるようだ。


 さすがに三人とも簡単には眠れないようで、誰かが身じろぎをすると、つられてみんなもぞもぞと動く、というのを繰り返していた。


 不意に、鶴姫がぼそぼそと言った。


「かごめ、色々とごめんなさい。それと、ありがとう」


 照れ隠しなのか、ツンとした口調は相変わらずではあったものの、やはり最初よりは角が丸くなっていた。


 何だ、歳相応に可愛いところもあるじゃないか。


 でも、本当に謝るべきなのは私にじゃない。


「鶴姫、もっとちゃんと謝らないといけない人がいるでしょ?」


「う…」


 言葉を詰まらせた少女は、しばらくもぞもぞとしていたのだが、ようやく覚悟を決めたようで、さっき以上に小さい声で白雪への謝罪を口にする。


「すみませんでした」


「誰に言ってるの?」と意地悪く聞き返す。


 これだけ自分が白雪の名前を口にしているのだから、鶴姫ももう、何となくは覚えているはずだ。


「し、白雪さん…、すみませんでした」


 それまで無言だった白雪も、急に息を吹き返したように、「構いません」と声を発した。


 どこか落ち込んだ様子だったが、白雪も色々と思うところがあるのだろう。


 というか、なんだかんだとんでもないことを白雪の口から聞いた気がするし…。


 妙な空気のままで眠るのは二人ともバツが悪いだろう、と気を利かせたかごめが、話をまとめるつもりで口を開く。


「まぁ、これで安心したけどね」


「何が?」


「だって、鶴姫が私にトゲトゲしかったのは、こうして夜這いに来なきゃいけない相手だったからでしょ?責任は私になくても何となく八つ当たりした、みたいな」


 こういう言い方をすると、彼女は子ども扱いされたみたいで腹を立てるかもしれない。


 そんなふうに思っていると、予想外なことに鶴姫はやたらとドライな口調で、どうでも良さそうに言ってのけた。


「いや、あれは、かごめの顔と態度が偉そうでウザかったからだけど?」

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


ご意見・ご感想、ブックマーク、評価が私の力になりますので、


応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ