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かごめの詩  作者: an-coromochi
一章 ようこそ、籠目村へ
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宵 2

 それが分かった途端に、白雪は渾身の力を込めて、その何だか分からない人型の物体を突き飛ばした。


「きゃああぁ!」


 白雪とかごめの間に位置していた物体は、自然とかごめのいる方向に倒れ込み、彼女に激しくぶつかったようだった。


「ちょ、何?え、白雪!?」


「違う違う!それ、私じゃないよ!」


「はぁ!?え、じゃあ、誰!」


「知らない!」


 かごめは何がなんだか分からず、とりあえず人影を抱きとめていたようだが、白雪の慌てぶりによって、不審者の闖入(ちんにゅう)に気付いた。


 それから、素早くベッドのマットにその人影を押し付けると、声を荒げて、「電気、電気点けて!」と叫んだ。


 覚束ない足取りのまま、ばたばたと白雪は電気の元へと向かった。途中、こけそうになって、つんのめったが、何とか体勢を立て直して電気を点ける。


 眩しいフラッシュのような光に一瞬だけ目が眩むが、二人ともそれどころではない。


 かごめが全力で抑え込んでいた人影の正体が、昼間、自分たちをここへと案内した人物であったからだ。


「う、うぅ…」


 マットに抑え込まれて、まともに呼吸も出来ていないらしい彼女を慌てて解放する。


 ぎしりと反動で戻ってくるスプリングに同調するかのように、そいつは体を起こし、大きく息を吸った。


「え、と…、鶴姫?何してるの?」


「もぅ、いいからどいてよ!痛い!」


「あ、ごめん」と体をどかしたかごめに代わって、白雪が鶴姫の体の上に乗った。


「ぐえ」


 あまりに俊敏な動きであったため、かごめが止める間もなかったし、鶴姫を両腕で力の限り封じ込めている白雪の顔が、あまりにも鬼気迫っていてとてもそんな勇気も出なかった。


 どうにも出来ずに固まっているかごめに向けて、白雪のほうから声をかけてきた。


「かごめちゃん、警察」


「え」


 何を大げさな、とやっとまともな思考が戻りつつあるかごめの思考を読んだのか、ぎろりと、白雪が今までかごめに見せたことのない表情を向ける。


「この子、私の体触ってきた。わざとだよ。絶対許さない」


「さ、触ったって…。誰かと間違えて抱きついたんじゃ…」


「胸!触ってきたの!」


「え…」


 血反吐でも吐くのではという訴えに、かごめは思わず口をつぐんだ。


 頭をマットに埋められた鶴姫が、何か抗議するかのような声を上げているが、モゴモゴとばかりで、何と言っているのか全く分からない。


 かごめは、白雪の肩にそっと手を置いて、大型の犬をなだめるような調子で提案した。


「とりあえず、事情があるかもしれないんだし、放してあげなって」


 明らかな不満を隠そうともしない白雪は、「かごめちゃん…」と非難するような声を上げた後、渋々といった様子で手を緩め、鶴姫が呼吸出来るようにした。


 当然のように、のしかかった体はそのままである。


 先ほどと同じように、水の底から浮上してきたかのように大きく息を吸った鶴姫は、上半身をねじり、自分の上に馬乗りになったままの白雪に噛み付くように言う。


「お前だって触ってきただろ!変態!」


 反省する素振りのない鶴姫の腕をひねり上げた白雪は、相手の苦悶の声を耳にしながら、平坦なイントネーションで無感情に応じた。


「勘違いしないで、あれはかごめちゃんだと思ったから触ったの」


 ん?今の、どういう意味だろう…。


 困惑するかごめをよそに、二人の言い争いは続いていく。


「何だそれ、やっぱりお前レズだろ」


「違う。私はかごめちゃんが好きなだけ」


「は、うける」


「何が」


「そういうのを、レズっていうんだよ!変態」


 …これは、聞かなかったふりをするのがいいんだろうか。


 最後の一言に、また怒りが抑えられなくなったのか、白雪は最初のときよりも強く鶴姫の体をマットに抑えつけた。


 激しい抵抗をものともしない力で、彼女をベッドに埋め込もうとでもしている白雪は、顔を真っ赤にさせて、物騒な言葉を吐いた。


「その生意気な口、二度ときけなくしてあげる…!」


 よもや本当に殺すつもりなのか、と疑わしくなる必死さで、鶴姫を抑えつけているのを見て、さすがにかごめが止めに入る。


「ちょっと、白雪!本当にやりすぎだって!」


「と、止めないでかごめちゃん!」


「いや、止めるから!っていうか白雪、いつからこんなに力強くなったのよ」


 何とか彼女を鶴姫から引き剥がしたかごめは、また同じことが起きないように二人の間に割り込む形で座った。


 今にも飛びかかってきそうな白雪と、寝転がったまま懸命に酸素を吸い込んでいる鶴姫。どちらも可愛らしい容姿に反して、獣のような獰猛さをその身に宿しているようだった。


 意味の分からないことばかりだが、今はとにかく、事態の収拾を図るべきだ。うん、そうしよう。


 話が出来るほどに落ち着いたらしい鶴姫に近寄り、どうしてこんなことをしたの、と問いかける。


 やはり、血の繋がりがあるからだろうか、こんなときでも自然と優しい口調になってしまう。それが不満らしい白雪は、小さな唸り声を上げてこちらに非難の意思をぶつける。


 鶴姫は最初のうちは頑として口を割ろうとしなかったのだが、かごめが根気強く聞いたことや、白雪が、「やっぱり警察に」と呟いていたこともあって、とうとう本当のことを喋り出した。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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