魔草
「ここがそうです。」
「薄気味悪いね。」
セシルとマクシミリアンは帰国するのを延ばし、隣国の森の中に来ていた。
国務大臣の屋敷から没収した資料の中に、魔物育成の記録があったのだ。
ここで魔界の植物を餌として与えていたらしい。
歩き廻るセシルが、おかしいと言う。
「何が?」
マクシミリアンがどこもおかしくない、と言うのをセシルが否定する。
「花がどこにもないの。」
「花が咲く木や草ばかりではないでしょう。」
「そうなんだけど、この時期に花がないなんてありえないわ。
花が咲いて実がなるのよ。」
なるほど、この後実りの季節が来るはずだ、花も蕾もない。
どういう事だ、季節がここだけ違うのか、気温が違ってきていると言うことか。
「ね、マクシミリアン、少し肌寒いね。」
今日の天候だと思っていた。
これが、ずっと続いているのなら、氷系統の魔術かもしれない。
魔界の魔力を持った植物を食べ続けて魔力を持ったとしたなら、魔界の植物を食べている限り魔術は続く。
だが、単純に食べたら魔力を持つわけではあるまい、他にもなにかあるのかも知れない。
「マクシミリアン、いやな予感がするの。」
「私もですよ。」
二人で手を繋ぎ森を探索する、それは魔力を辿って森の奥へと続いていく。
セシルは相変わらずあまり魔術が使えない。
身体は大人になったが、過去を見るという魔術に魔力を使われたせいか今は魔力も少ない。
その気配に二人は緊張を高める、何かいる。
「これは魔族の女が何故ここにいる。」
そこに現れたのは魔族の男だった。
セシルが大人になったことは、まだ知られていない。
マクシミリアンは、やはり魔族が関わっていたかと舌打ちする。
草むらから出て来た男は、マクシミリアンを見て眉をひそめる。
「参ったなぁ、宰相までいるとなると太刀打ちできない。」
マクシミリアンの魔力は魔界一なのである。
マクシミリアンはセシルを抱き寄せると男と対峙する。
「へえ、女王陛下の婚約者のくせに女がいるのですか。」
やりますね、と男が嘲笑っている。
男の後ろに更なる魔力を感じて、マクシミリアンは手に魔力を集める。
そんなマクシミリアンの準備を知っていても黙っていないのがセシルだ。
「小物ね。」
ルージュはちゃんと魔力の質で私を認めたわよ、と思いながら挑発する。
男がセシルの魔力なら勝てると思ったのだろう、セシルを攻撃しようとするが、それを許すマクシミリアンではない。
男がマクシミリアンの魔術で後ろに弾き飛ばされた。
「きゃー、マクシミリアン、カッコいい!」
ヤレ!ヤレ!と応援するセシル。
何もしていないセシルだが、鼻高々にしている。
男の背後から大きな獣が飛び出してきたが、気配を感じていたマクシミリアンの敵ではない。
ジュッと音と共に獣の焼ける匂いが辺りに漂う。
「よくやったわ、マクシミリアン。」
褒美よ、とばかりにセシルがマクシミリアンの頬にキスをする。
「我が女王陛下。」
マクシミリアンが男を睨みつけながら言う。
セシルを抱いたまま、マクシミリアンが男の前に立つ。
「部下を呼びましたので、直ぐに参るでしょう。
この男の情報は魔界にもどってからですね。」
魔術で男をロープで縛り周りを確認する。
「まだいますね。」
「突入するわよ!」
セシルの言葉にマクシミリアンが悲鳴をあげる。
「させるわけないでしょ!!」
「女王の命令です、マクシミリアン先頭に立ちなさい!」
突入するのはマクシミリアンで自分は後ろを付いて行くと言うセシル。
「女王?」
縛られている男が不思議そうにつぶやく。
ほほほ、と高笑いをしながらセシルが男の方を振り返った時にマクシミリアンの部下達が到着した。
「宰相、お待たせしました。」
5人の男達が姿を現したが、セシルを見てビックリしている。
「女王陛下!大人に成られたんですね!」
「おめでとうございます。」
彼等は宰相付きの事務官らしく、セシルの魔力の質がわかるレベルの魔力を持っているらしい。
「ほら、貴方達も突入するわよ、私の後ろに続きなさい。
一人はそいつを連れて帰って、国の魔術師団に預けたら戻って来なさい。」
セシルは皆に指示を出しているが、自分を戦力として数えてないことに、皆が安心する。
森の奥からは複数の魔力を感じる。
魔族の敵になる程ではないが、油断することはできない。
「行くぞ。」
マクシミリアンは部下達に声をかけるが、返事をしたのはセシルだ。
「いつでもいいわよ!」
やる気に満ちているが戦力にはならない女王陛下である。
だが、いるだけで皆の緊張がほぐれる。
「マクシミリアン、頼りにしているわよ。」
「女王の安全は必ず守りますから、私から離れませんように。」
マクシミリアンを先頭にセシルを守る陣形で一群が森の奥に進んで行く。
マクシミリアンに守られている、それだけでセシルの口元に微笑むが浮かぶ。
暗い森も知らない土地も怖くない。




