王太子エルダー
マクシミリアンと王太子は客室の1室で会議をしていた。
「本気なのですか。」
マクシミリアンがルージュの事を聞いている。
「そうですよ、祖先の血に引きつられたかもしれません。
あの時、大臣に腕を捕まれている彼女が、まるで連れ去られようとしているクレメンティーヌのようだった。
最初は私自身が驚愕するような状態でしたが、それも私であると受け入れたのです。
何より、彼女は魅力的ですから、私自身の意思でもあります。」
「ルージュは魔族です、王太子よりはるかに長く生きます。」
「そんな事は些細なことです。
生き残る彼女が可哀想ですが、それまでは誰よりも強く愛します。
どうぞエルダーと呼んでください、親戚になるのですから。」
ルージュを手にいれたい王太子と、ルージュを追い払いたいマクシミリアンの利害は一致している。
「私のことはマクシミリアンと。」
ルージュに与えられた寝室ではルージュとセシルが話している。
「バカじゃない。人間に捕まるなんて。」
セシルに言われるのをルージュは黙って聞いていたが、
「だって、人間界ではあまり魔術を使ってはいけないって。」
セシルが呆れかえっている。
「でも、触られたのはさっきのアレだけよ。ずっとガードはかけていたから。」
「じゃ、ずっとかけてれば良かったのに。どうして外したの。」
「マクシミリアン様の気配に気を取られて、ガードが弛んだみたい」
「バカじゃない。」
セシルの言葉にルージュが下を向く。
「セシルなんて嫌いよ。マクシミリアン様の側にずっといて。
それに大人になるなんて。」
「私もずっとルージュが嫌いだったわ。
私はいつまでも子供のままなのに、ルージュは大人になって、ドンドン綺麗になっていったから。」
「ずっとずっとマクシミリアン様が好きだったの。」
シーツを握りしめて、ルージュが呟く。
「絶対にあげない、マクシミリアンは私のものよ。
もう大人になった、直ぐに結婚式よ。」
ルージュが言葉を無くしてセシルを見る。
セシルはルージュの手を取ると、バカね、と言う。
「わかっているんでしょ。
ルージュは従妹だから、幸せになって欲しいと思う。
好きな人に愛される幸せをルージュも知って欲しい。」
だって、とルージュが言おうとするのをセシルが止める。
「マクシミリアンより好きになる人を探せばいいのよ!」
「そんなの無理よ。」
セシルもルージュがマクシミリアンをずっと見ていたのを知っている。
「だって、マクシミリアンは絶対にルージュの事、好きにならないもの。
いつも見られていて嫌がっていたもの。」
セシルだって、きつい言葉だとわかっているが、甘い言葉など出てこない。
ライバルは徹底的に潰したい、それがルージュの為でもあるのだ。
マクシミリアンとエルダーが大臣の屋敷で手に入れた資料で小麦の貯蔵庫や隣国との内約を見つけ出し協議していた。
そこに、ルージュの寝室からセシルが出て来た。
「ルージュは寝たわ。
ロレンツォの名前を呼んだ事を覚えてないみたい。
街を歩いている時に、大臣に見初められてここに連れて来られたって。
私、言い過ぎちゃったの、可哀想なぐらいね。」
「それは、私には大チャンスですね。」
エルダーが立ち上がり、寝室に向かう。
「王太子、ルージュは大臣に触られたのはさっきのだけだと言ってます。
ずっとマクシミリアンを好きだったから、他の男性の免疫が無くて純粋培養なの。
優しくしてあげて。」
エルダーはセシルに微笑むと、
「もちろんですよ。
清い乙女は大好きですからね。
しかも弱っている。」
セシルがその言葉を聞いて、エルダーを止めようとするのをマクシミリアンが止める。
「マクシミリアン!離しなさいよ!」
それに答えたのはエルダーだ。
「女王陛下、人間はね、ズルいんですよ。
手に入れる為には何でもします。」
そう言って寝室の扉を閉めた、魔術で鍵のしまる気配がする。
「セシル、その方がルージュの為でもある。
エルダーは遊びじゃない、真剣にルージュを想っている。」
「そんなの、見てればわかる。」
セシルがマクシミリアンの拘束から逃れようと暴れるが、弛みもしない。
「エルダーだって、無理やりなんてしないよ。
ルージュが大事だからね。
ルージュは本気で抵抗したら王家の魔力があるんだ。」
「そ、そうよね、心配しちゃったわ。」
そうですよ、セシル、とマクシミリアンは心の中でほくそ笑む。
無理やりではなく、丸め込むつもりですよ。ルージュは弱ってますからね、確率は高いでしょうね。
「ルージュの事は王太子に任せて、我々は小麦の貯蔵庫の事を王に報告に行きましょう。」
セシルもマクシミリアンに丸め込まれて、客室をあとにした。
「何ですってー!!」
翌朝、セシルの叫びが聞こえる。
そこにいるのは、セシル、マクシミリアン、エルダーだ。
「ですから、国内の小麦の貯蔵庫は王に任せて、私は準備が整い次第、隣国に出兵します。我が国を狙った事を後悔させてやりますよ。
隣国を制圧します。」
「それは、勝手にやって。
違う、その前に言った事よ!」
セシルがエルダーに詰め寄る。
ああ、あれですか、とエルダーが繰り返す。
「ですから、出兵して、私にもしもの事があると大変なのですよ、王子は私だけですからね。
上手くルージュが孕んでいるといいのですが。」
「うちのルージュになんて事してくれるのよ!!」
「結婚式は急ぎますよ。だから、言ったでしょう、人間はズルいって。」
もうルージュの頭の中にはマクシミリアンはいませんよ、私の事でいっぱいですよ。
ルージュにとって私は何もかもが初めての男ですからね。
私には、あなた達程の魔力はありませんが、魔力で全てが決まるわけではありません。
出兵するエルダーにすがりついてルージュは涙を流しながら、生きて帰って来るように魔術をかけた。
結婚式ではルージュはクレメンティーヌのウェディングドレスを着た。
話を聞いたルージュが希望した、エルダーに押し流された感のルージュだが自分で選択したのだ。
長い時をかけてロレンツォとクレメンティーヌが結ばれた。




