肖像画の姫君
「魔族のせいとは、聞き捨てにできませんね。」
マクシミリアン達が魔族とは思ってもいない王や王太子は、マクシミリアンが魔族に興味ある、ぐらいにしか、受け取ってない。
「彼女は結婚式間近に魔族に浚われて、結婚式はできませんでした。
もう10代以上前の話です。
王は生涯独身を通し、短い命であったそうです。」
マクシミリアンは話を聞きながら、王家の家系図を思い出していた。
セシルの曾祖父が人間の花嫁を迎えている。
人間として彼女が寿命を迎えた後、魔王は早々に代を息子に譲ったと聞く。
「不思議なことに、何百年も経つのに彼女の肖像画は色褪せないのです。」
「見せて頂いてよろしいてますか。」
マクシミリアンの言葉に王太子と王が顔を見合わせ、
「ちょっと歩きますが。」
と了承をした。
歩きながらも話は続く。
「彼女は見事なブロンドで、その後生まれたブロンドの王族は18歳を迎える前に亡くなります。
彼女は18歳で嫁ぐ予定でした。
だから我が王家はブロンド以外と結婚するようになりました、ブロンドの子供が生まれないように。」
セシルはマクシミリアンから離れるのを嫌い、付いていくと言い張った。体調はすこぶる悪そうだったが、マクシミリアンに抱えられて静かにしている。
王家の住居部分になるだろう回廊を歩いた奥にその絵はあった。
豊かなブロンドの美しい乙女。
古いスタイルのドレスから年代の古さを伺わせるが、昨日出来上がったかかのような鮮やかさ。
絵の具の劣化や焼けを感じさせない。
ここに来るまでに並べられていた絵に劣化があるのを比べれば異様と言うしかない。
ルージュに似ていると思って思いだした。
ルージュはセシルの従妹、セシルと同じ血の流れを汲んでいる、だから王宮にも出入りできるのだ。
「美しいお姫様ですね。」
やさしく微笑んでいる姿は若い女性特有の初々しさがある。
「きゃあああ!!」
突然、セシルが頭を押さえてマクシミリアンの腕の中で身体を屈めた。
一瞬の曇天のような感覚の後に襲ったのは浮遊感。
マクシミリアンでさえ初めての感覚にとまどっているのだ、王、王太子となるとお互いを支え合って冷静な状態ではないらしい。
「落ち着いてください、大丈夫です。何かの魔術の中に入ったようですが様子を見ましょう。」
マクシミリアンの言葉にやっと冷静になって来たようだ。
「嫌よ、嫌よ。」
セシルではない、若い女性の言葉が響く。
そこは、どこかの屋敷の中だった。
多分この女性の部屋なんだろう、二人の女性がいる。
マクシミリアン達がすぐ側にいるのに、まるで気づいてないように会話が続く。
「姫様落ち着いて、もうすぐお式なのです、今さら止めれません。」
「王には側室がすでに3人もいて、王子も王女のいるのよ。
そんなところに嫁ぎたくない。
ずっと嫌だと言ってきたじゃない、嫁ぐぐらいなら死ぬわ。」
侍女が姫に駆け寄り手を取る。
「公爵家の姫として、それが出来ないからここまできた、とわかってらっしゃるのでしょう。」
カウチに倒れ込むように泣き始めた姫の顔は肖像画のものだ。
ブロンドが波打ち、泣き続ける姿も美しい。
「これは。」
王が、姫の顔を食い入るように見つめている。
「こんな魔術があるとは知りませんでした。
姫の絵に込められた想いが過去に私達を引きづり込んだのでしょう。」
「そんなことがありえるのか。」
「とんでもない魔力量が動いてます、それはセシルの。」
え、と王太子と王がセシルを見る。
「魔術は別の人間の者ですが、セシルの魔力が使われています。
別の言い方をすれば、セシル程の魔力量を持つ者が来ることが鍵だったのでしょう。」
「この小さな彼女にそんな魔力が。」
「はい、セシルは魔力が使えず、魔力が蓄積されていたのです。」
それは魔王の膨大な魔力、だからこそ作動した魔術。
「我々はその魔術の傍観者になったようだ。」
しかも、とマクシミリアンは続ける。
「私の魔力は使われていない、セシルのブロンドも鍵の一つかもしれません。」
もしかして血筋も鍵かも知れない、と思いながら口には出さなかった。
「エディに会いたい、エディ、エディ。」
姫が別の名を口にする。
「姫様なりません、姫様は国王に嫁ぐ身です。あの画家は追放しました。」
侍女が首を横に振りながら、姫をさとす。
あの絵を描いた画家か、と皆が瞬時に悟った。あの絵の姫は見る者を惹きつけた、それが姫と画家の関係だったのだろう。
「エディ以外嫌よ!エディがいいの!」
その時だ、部屋の扉が音もなく開いた。
「呼んだか、クレメンティーヌ。」
入ってきたのは一人の若い男。
「エディ。」
姫は侍女の手を振り払い、エディと呼ばれる画家に飛びつく。
「私を連れて逃げて、エディがいいの。」
「それは、全てを捨てるということだよ、いいのか。」
「エディがいいの、他はいらない。」
よく言ったとばかりに男は姫を抱きしめる。
「誰か!誰か来て!」
侍女の叫び声に駆けて来る足音が聞こえる。
男の腕の中で姫のつぶやきが聞こえる。
「エディと一緒なら死んでもいい。」
男が愛しそうに姫の髪をなでた。
たくさんの足音と共に警備兵と公爵だろう男が部屋に飛び込んできた。
「お父様、ごめんなさい。国王には嫁ぎません。
好きな人がいるの。」
結婚前から3人も側室のいる王は、恋する二人を引き裂いで姫を娶ろうとしているのだ。
画家の男では公爵も許しはしないだろうが、姫は国王に嫁いでも辛いだろう。
王も王太子も自分たちの祖先である王が姫だけを想っていた、との伝えとは違う史実に戸惑っている。
これが本当の事実かもわからない。
ただ、王亡き後、弟が後を継いだとは史書に書いてあるが、その時に継承権争いがあったのだ。
王の側室の息子は王子ではあるが、継承権は低い。
王に子供がいなければ、王弟の継承で問題がないはずなのに継承権争いが起こっている。
結婚していない王の継承権を王弟と争う誰かがいたのだ。




