セルダンの街
セルダンの街に着くと彼らの案内で宿屋に向かった。
街の中でも、マクシミリアンとセシルは注目の的である。
マクシミリアンの美貌が目立つのだ。
「綺麗な人だねー、だから女に飽きて子供になったのかね。」
小さな声で話しているつもりでも、地声が大きいのだろう、丸聞こえだ。
マクシミリアンはいまさら、と取り合わないが、セシルは違う。
私の姿が子供だから、と怒っている。
それを見ているのは街の人々だけではなかった。
気配を悟られぬように、見ていたのはルージュ、魔族だ。
魔界からマクシミリアンを追いかけてきた。
マクシミリアンの側には、忌々しい女王がいる、魔術も使えない、大人にも成れない、出来損ないの女王。
マクシミリアンもいつか目を覚ますはず、私の方がいいとわかるはず。
いくら気配を消してもマクシミリアンは気づいていた。
こんなところまで追ってくる女、油断できるはずもない。
マクシミリアンにとって、セシルに害を及ぼしそうな女は放っておけないが、ここは魔界ではない、人目がありすぎる。
セシルがマクシミリアンの手を握ってきた。
「ルージュがいる。」
「気づいていたんですか?」
それに答えるようにセシルが言葉を続ける。
「いつもマクシミリアンを見てた。
その私が同じようにマクシミリアンを見てるルージュに気づかないはずないでしょ。」
セシルの手の力が強くなる。
「ルージュはとても綺麗だと思う。女性らしい身体つきだし、男の人はああいうのがいいんでしょ?」
「私はセシルがいいです。」
マクシミリアンが、そんなことないと言う。
「私が婚約者じゃなかったら、立場が反対になっていたかな、と思ってた。
ルージュは意地悪とかしてこないの、いつもマクシミリアンを見てるだけ、なんかセツナイけど、譲ったりしない。」
「いつも見てられて気味が悪いですよ。
ここまで付いてくるって異常でしょ。何度も断っているんですよ。」
きっと、私が子供の姿じゃなかったら、諦めてたんだろうな、と思うセシルだけど口にだしたりしない。
ルージュのやり方は間違っているけど、気持ちがわからないわけではない。
きっとマクシミリアンに自分を見て欲しいのだろう。
ルージュは無視して宿屋に入ると、早速お昼ご飯だ、部屋に荷物を置くと、セシルは食堂に突進する。
「お腹すいたー!」
早く早くと椅子に座っている様は、周りの人々の微笑みを誘う。
「可愛いね、家の者達と一緒に来たんだって。
お嬢ちゃんはいくつかな?」
宿屋の女将が話しかけてくる。
「彼女は自分が幼いことを気にしているので、聞かないでやってください。」
マクシミリアンがやんわりと止める、嘘はついてない。
「あらら、彼氏さんと年が離れているからね。
悪かったね、気にしなくてもいいのに。」
お詫びにと、街の外れのリンゴ園で採れたリンゴのジュースを置いて行った。
「美味しい!
マクシミリアンと半分こね!」
「全部飲んでいいですよ。」
マクシミリアンは大人の対応だ。
「わかってないわね。
ジュースだけじゃないの、嬉しいことも、悲しいことも半分こしたいの。
今は美味しい気持ちを半分こしたいの。」
その言葉を聞いたマクシミリアンの頭の中ではイケナイ妄想が駆け巡る。
「私もですよ、楽しいことも、気持ちいいことも半分こしましょう。」
マクシミリアンのにやけても美しい顔がゆがむ。
セシルがマクシミリアンをテーブルの下で蹴ったのである。周りはどうしたかと驚いている。
「マクシミリアン、いやらしい考えが飛んで来たわよ!」
「スミマセン、押さえきれなくって。」
バレたかとマクシミリアンが言う。
「チビッ子の方が主導権あるみたいだぞ。」
「蹴られて喜んでいるんじゃないか。」
「美人なのに、もったいないね。」
注目の的なのである、テーブルの下で蹴られたのもバレている。
「はい、今日のランチだよ。
最近小麦が高くなってパンが値上がりしたんだよ、悪いね。」
「いえ、いい香りだ、美味しそうだ。」
マクシミリアンが女将に礼を言って受けとると、既にセシルは食べ始めている。
「美味しい!これ何て料理?」
魔族の女王の威厳もなく、口いっぱいに頬張っている。
「セシー、口の中に食べ物を入れて話してはいけません。」
はい、ママ、と返事しそうになる。
しかも、こぼしてますよ、とナプキンで拭いているマクシミリアン。
マクシミリアンの愛情を疑う訳ではないが、母性愛かと思いたくなる。
「今日は街の探検をして、明日王城に行きましょう。」
「宿屋に来る途中の雑貨屋に行きたい。」
「セシーが見とれていると思ってましたよ。」
仲良くランチを食べる二人は、その雑貨屋でトラブルに巻き込まれるとは思ってもいない。




