セシルの魔術
街の近くまでマクシミリアンに抱かれてセシルは瞬間移動する。
「セシー、どうしました?
さっきからじっと見ている。」
「マクシミリアンを見たいの。」
ニヤニヤと嬉しそうにマクシミリアンが笑う。
「絶対、マクシミリアンの魔術を獲得してやる!
女王様が魔術出来ないって情けないもの。」
「そっちですか、いいじゃないですか。
私はセシーの僕なのだから。」
「何言うの、自立した女よ、男の力でなんて恥ずかしいわ!」
もし、聞いている人間がいたら、子供のくせにどこで覚えてきたんだろう、と思われるにちがいない。
マクシミリアンでさえそう思っている、失礼な男である。
ぶつぶつ言っているセシルの指先に灯りが灯る。
「見て!見て!出来たわ!!」
子供でも出来る魔術だ、それが今まで出来なかった事の方が不思議なのだ。
呪いが弱まっているのか、セシルの魔力が高まったのか。
「セシー、凄いですね。」
ほんの少し、残念に思ったのだ。
何も出来ないセシルはマクシミリアンに頼るしかない、セシルを独占してきたのが壊れる不安を思ったのだ。
「マクシミリアン、顔が笑ってない。」
「セシー?」
「こんな事で喜んで、バカらしいって、子供でも出来る魔術だって。」
セシルがマクシミリアンの腕から降りようとする。
「暴れないで!セシー!危ない!」
「マクシミリアンなんて嫌い!」
瞬間、セシルが消えた。
初めての瞬間移動だ、きっと遠くには飛べてないはずだ。
マクシミリアンは起こったことを頭の中で整理しようとするが、思考が出来ない。
セシルがいない。
「セシー!!」
どこだ、どこだ!!
遠くには飛べてないはずだ、近くにいるはず!!
早く見つけないと連れ去られてしまう。
あんなに小さく弱くて可愛いんだ!
誰かに盗られてしまう!!
「セシー!!」
「セシー!!」
「マクシミ・・・痛い」
小さな声のする方に駆け出す。
セシルは草むらに踞まっていた。
そっと抱き上げてみると体中に擦り傷と足が腫れていた。
「空中に跳んだみたいなの、そのまま落ちて、ここまで戻って来たの。マクシミリアン。」
マクシミリアンはセシルの治癒の為に膝の上に抱え直す。
「直ぐに治すから。」
「嫌いにならないで。」
セシルがホロホロと泣いている。
「嫌いなんてならないよ、大好きだよ。」
「マクシミリアンのところに帰りたかったの、でも上手くできなくって。」
「ずいぶん遠くに跳んだんだね、凄いじゃないか。」
セシルの能力が作動し始めていると思うしかない、まだ魔術を操れていないのに、この魔力量は危険だ、セシル自身を傷つける。
「嫌いなんて嘘よ、ごめんなさい。」
「知っているよ。」
「大人になりたいの、マクシミリアンを誰にも取られたくないの。」
「それは、私も同じだよ。」
「セシルが魔術を使った時、私から離れていきそうで、躊躇したんだ。それがセシルを不安にさせたんだね、ごめんね。」
「バカ、マクシミリアン。離さないで。」
本人達は真剣だが、幼女と青年の怪しい会話だ。
周りを気にしなさすぎる、ここは街のはずれとはいえ、街の近くだ。
見ている者がいたのだ、それもたくさん。
「仲直りしたようだけど、年の差ありすぎじゃない。」
「さっき傷だらけのように見えたけど、もうないよな。」
「魔術師だな。」
「そうだな。」
マクシミリアンがあれだけ大声でセシルを探したのだ、気づかれないはずがない。
周りの騒ぎにさすがの二人も気が付いた。
「え?」
「え?」
見ている方も、見られている方も驚いている。
きゃああー!!
とセシルがマクシミリアンの後ろに隠れるけれど、マクシミリアンの方は動じていない。
「こんにちは。」
挨拶までしている。
「セルダンの街に向かっているのですが、街の方ですか?」
うんうん、と頷いているが、マクシミリアンに話しかけられて動揺しているのがわかる。
マクシミリアン恐るべし。
街の宿屋の人々で、馬の餌の飼い葉を採りに来たら、マクシミリアンのセシルを呼ぶ声が聞こえたらしい。
「今までは、客の馬に野菜のクズや麦がらをやっていたんだが、麦が高くなって、がらも手に入らなくなったのさ。」
「それで不足分を森の雑草で補っているのですね。」
その宿屋に泊まることにしたため、一緒に街に向かいながら話す。
「あんたも大変だな。」
何が大変か、は言われたマクシミリアンにはわかっていない。
「偉い魔術師さんだろが、その趣味は認めてもらえなくて二人で逃げてきたんだな。」
一瞬で悟った。
この人達は、マクシミリアンがロリコンの魔術師で、セシルと二人で逃げていると思っている。
多分、明日には街中にそう知れ渡るだろう。
「いや、あの。」
マクシミリアンの言葉を遮るように、人々の言葉は続く。
「最初はその子を攫って来たかと思ったが、抱きついてキスしてるし、二人で逃げて来たと分かったよ。」
全部見られていた。
「魔術師さん、すげー綺麗だから、これが魔族かと思ったが、泣きながらキスしてるしなー。」
メガトンパンチが落とされた。
マクシミリアンもセシルも赤くなるだけで返す言葉がでない。
自分達の行動を他人から言われるというのは恥ずかしいものである。




