王家の鏡
「あそこでは秘密に話が出来そうになかったので場所を変えていただきました。」
全員が椅子に座り、マクシミリアンが印を切ると、セシルと王妃の顔色が良くなる。
「お分かりだと思います。私の魔術で一時的ですが防ぐことができる。つまり誰かの魔術によるものが原因だからです。
その誰かに知られたくないので場所を変えていただきました。」
「ごもっともです。
それで魔術が原因とは?」
王が早く知りたいと聞いてくる。
「わかりません。
ただし、セシルはここに来たばかりなのに影響を受けた。
つまり、魔力が高いからだ。
侍女達は魔力のない者が多いのでしょう、反対に王妃や王太子妃は他国の王女であるなら魔力が多少おありでしょう。
王家や高位貴族は魔力を持つ者が多い。」
「はい、母も妻も他国の王女です。」
答えたのは王太子だ、その妻は出産で亡くなっている。
「魔力のある者が影響を受ける、女性の方が感性が豊かで繊細なので影響を受けやすい、そして男性より女性の方が体力がない、幼児や乳児はもっとないのでさらに影響をうける魔術がこの城にかかていると考えております。
だから条件が揃えば男性が影響を受ける時もあるのでしょう。」
「なんてひどい魔術なの!王太子妃は出産で体力を落としてしまったのね。」
セシルは泣かんばかりに瞳がうるんでいる。
「この城は空気がおかしいと入った時から感じてました、それが魔力の影響なのか、別の原因かはわかりません。
犯人がいるのか、それが誰かもわかりません。
ただし一つわかっていることがあります。」
「なんですか!?」
王太子が身を乗り出してくる。
「これだけの規模の魔法をかけれる人間はいない、という事です。」
「魔族だというのですか?」
「魔族では絶対ありません。」
マクシミリアンは、やはり何でも魔族になるんだな、と思いながら話を続ける。
「どうしてそんな事がわかるのですか?」
言い切るマクシミリアンに王太子が尋ねる。
「原因が多分、私達が探している鏡だと思うからです。」
「鏡?」
「力のある鏡は少しの魔術を何倍、何十倍もの威力に増幅させるからです。
それは憎悪もきっと増幅させるのだろう。
これだけの城だ、何もないなどないでしょう。」
王も王太子も第2王子も信じられないと顔をしている。
「王妃が南の離宮が体調がいいと言われるのなら、きっと北にあるのでしょう。」
マクシミリアンの言葉に反応したのは王太子だ。
「リンドソーズ公爵家の手紙が来て鏡を探したのだが、どこの宝物庫にも見当たらなかった。
北には古い塔があるのでそこかもしれない。」
「セシー、さらに気持ち悪くなるかもしれませんが、一緒に行きましょう。」
マクシミリアンにはセシルを置いて行くという道はない。
「もちろんよ、案内するわ!
私が気持ち悪い方向にいけばいいのよ!!」
「こんな小さな女の子が頑張るのに私が逃げるわけに行きません。私も行きます。」
王妃が王の手を取り立ち上がる。
「母上は長年苦しまれています、無理なさらないで。」
「王女を何人も亡くしました、今、母が行かねばどうするのです。
頭痛のする方へ行くのなら行きます。」
王太子の言葉を跳ね返すように王妃が歩みを進める。
王妃が皆を引っ張るように北の塔の階段を登って行く。
王が身体を支えているが辛そうである。
セシルも顔が青い、マクシミリアンに抱かれているが口をひらかない。
塔の階段の途中で王妃が頭を押さえて蹲った、セシルもマクシミリアンにしがみ付いている。
王太子と第2王子がそこにあった部屋に飛び込むが誰も居ないし、何もない。
部屋の中は、長らく誰も入ってないのだろう、埃が積もり、カビの匂いがする。
閉め切った窓と作りつけのクローゼット、木のテーブルと椅子、色あせたリネンが椅子の背にかけられている。
開けた扉からの光を受けて何かが床で光った。
王太子が駆け寄り床の埃や散らばったままの紙類をのけると鏡が落ちていた。
「王太子!割って!!」
マクシミリアンが叫んだ、その声の反動の様に王太子は鏡を拾い上げ床に叩きつけた。
ガッチャーン!!!
鏡が割れる音と同時に何かが身体を駆け抜けるような感覚が走った。
「マクシミリアン、もう気持ち悪くない。」
セシルがマクシミリアンに嬉しそうに報告するが、マクシミリアンの顔はさえない。
「この鏡も違いましたね、貴方は変わっていない。」
そうか、私、子供の身体のままなんだ、セシルは何のためにこの城にきたか思い出す。
「ユージュナ。」
王太子は鏡が割れた時にケガをしたようだ、手から血を流しているが、そんなことが気にならないのだろう、割れた鏡を見ながら泣いている。
呼んだ名前はなくなった王太子妃の名。
「ユージュナ、レリアン。我が妻、我が娘、いつも愛しているよ。」
出産で妻と娘を亡くした王太子にはどれ程どの悲しみだったのだろうか。
全員で元の部屋に戻って来た、王妃にもう頭痛がないと言う。
マクシミリアンが説明を始めた。
「この城の悪い空気は変わりません。
つまり、今までの影響は誰かが悪意を持って魔術をしたのではなく、ここに渦巻くたくさんの感情や憎悪などに鏡が反応して最初は小さな影響だったのが年月とともにどんどん大きくなったのでしょう。」
「それではまた?]
王が訪ねる言葉にマクシミリアンは首を横に振る。
「いいえ、もう鏡は割れました。
これほどの力のある鏡だからこそ被害がでたのです。
もう2度と起こらないでしょう、王女が産まれても無事に育つはずです。
ただし、この城には負の澱みがあります。
私がこの後一掃しますが、集まりやすいところなのでしょう。
少しづつ澱みますので、王族の方に浄化をお教えしますから、年に1度でも実行してください。
こまめに行えばこれほどの事にはなりません。」
「私が。」
「僕も。」
手を挙げたのは王太子と第2王子だ。
マクシミリアンが立ち上がり手を広げ、呪文を唱える。
マクシミリアンの美しい身体が神々しい程の光に包まれる。
右手が流れるような動きで印を切る。
そこに居る全員が空気が清浄されたとわかった。
「すごい。」
王の口から言葉が漏れ出た。
「でしょ!うちのマクシミリアンすごいのよ!」
空気をぶち壊したのはセシルだ、冷たい程の清い空気に温もりが入った。
得意顔でどうだ、とする幼児の姿は過去の悲しみから未来への希望のようだ。
マクシミリアンが王太子と第2王子に浄化の魔術を教えて城をさがった。
鏡面の部分は割れたが、装飾細工は素晴らしい鏡をお土産にもらった。
「マクシミリアン、すごーーーくカッコ良かった!!」
セシルが真剣に褒めちぎるので、マクシミリアンも機嫌がいい。
「セシー、王太子と第2王子も私のことを魔王だと思っていたみたいで、どうしてでしょう。」
「えー、私が魔王なのに!」
「セシーは天使みたいだと言ってましたよ。」
仲良く歩く二人は、勇者と魔術師が広めた魔王マクシミリアンの噂を知らない。




