人間の悪意
傷は回復したが、セシルの体力はなくなっていた。
幼児の身体で大量出血したのだ、魔族として保護呪文がかけてあるがマクシミリアンがいなければ大事になっていたろう。
マクシミリアンはセシルを抱き上げ、鞄の中から非常食を出してセシルに食べさす。
けっして離そうとはしない。
「ほら、水分もちゃんと取って。」
「うん、ありがとうマクシミリアン。」
セシルがマクシミリアンの手を握る。
「私が歩きたいって意地張ったから、心配かけちゃった、ごめんね。」
「私も油断してました。
自分達の魔力に過信していたのです。」
セシルの血を吸ったあの獣は灰になっても許せない。
「あの人間が何かしているのでしょう。関与してないはずがありません。」
セシルを休ませてから、二人は家を探検することにした。
まだ魔力を感じるのだ、何かがいる
それは直ぐにわかった。
扉を開けると、目に飛び込んできたのはたくさんのゲージ。
大小様々な動物が飼育されているが、形が異形なのだ。
コブのあるもの、背中が曲がっているもの、尾っぽがたくさんあるもの、様々である。
「マクシミリアン、あれ!」
セシルが指差す先にあったのは、魔界では見慣れた植物だが、人間界にはないはずである。
「これを餌として食べさせられていたのですね。」
魔界の奥深くで魔力の影響を受けて育つ植物。
獣たちは魔力のある食物の摂取で身体の異常をもたらしたか。
「セシーには言ってませんでしたが、植物が大量に魔界の外に持ち出されていると報告は受けていました。
こういう事に使われているとは思いませんでした。」
「さっきの老人が犯人?」
首を横に振ってマクシミリアンが答える。
「彼は関与しているでしょうが、一人だけという事はありえないでしょう。
他にもいると考えるのが自然でしょう。」
動物で実験して、最終的には自分たちの魔力を高めようとしたのかも知れませんね、とマクシミリアンは言う。
「この動物達はどうするの?」
「もうすでに部下を呼びました、もうしばらくしたらこちらに着くでしょう。」
何度か瞬間移動を繰り返して来るのだろう。
魔力に応じて、瞬間移動ができる距離が違う、遠くになれば何度か繰り返すということになる。
「そう。」
一言発したセシルはそれから何も言わない。
「セシー?」
「さっきは凄く痛かったんだから、魔王の逆襲を見せてやるわ!」
「頼もしいな。」
「当然よ、魔界の女王様よ!
さぁ他の仲間を見つけに行くわよ!」
セシルの鼻息は荒い、やる気いっぱいの子供である。
到着した部下に指示を出したマクシミリアンは国の様子を尋ねるが、いたって平穏のようである。
魔王も宰相も留守で問題ない国、それが魔界なのだ。
多分、獣の力試しに人を襲わせているのだろう。
獣に魔力をつけさせ人を襲わせる人間の方が魔族よりも悪意を感じる。
セシルは膨大な魔力なのに念話ぐらいしかできないが、一つだけ出来る大きな魔術がある。
それは代々の魔王が受け継いできた力、世界の崩壊である。
セシルの魔力全てを使って天変地異を起こし崩壊せしめる、というものなので1度使えば全てが終わる。
つまりは使えないのと同じである。
代々の魔王もその魔術を行ったことがないので、現実にできるかも怪しい。
こんなセシルが魔王を続けているのも誰も王位を奪おうとしないからである、魔界は平和である。
人間界の方がずっと危険だ、とセシルもマクシミリアンも思った。
お互い長い間、接点がなかった為に間違った認識があるのは人間だけでなく、魔族もだった。
「ねえマクシミリアン、人間って怖いわね。」
「何言ってんですか、魔王でしょ。」
「そうね!魔王として威厳を取り戻してみせるわ!」
「適当に頑張ってください。」
マクシミリアンにとって人間がどうなろうと関係ないが、セシルが元気になってくれるならそれでいい。
「たかが葉っぱ食べただけだわ!」
「まず、鏡です。」
「えー!やる気になっているのに、悪人退治は!?」
やる気になってもセシルは役にたたない。
「二兎追う者一兎も得ず、一度に両方と欲張るとどちらもダメになります。
初志貫徹、鏡が優先です。」
マクシミリアン、堅い。
マクシミリアンのその顔でちょろっと誑かせば鏡の持ち主も貢いでくれるんじゃない、という言葉をセシルは飲み込む。
きっと、長いお説教が始まるからだ。
マクシミリアンいい人なんだけどなぁ・・




