森の魔獣
セシルとマクシミリアンは森に来ていた。
ガンダルトの鏡を訪ねて行く途中の街では、奇妙な生物が森に出没するという。
しかも、既に何人も襲われて亡くなったり大ケガをしている。
「魔力を感じる。」
セシルの言葉にマクシミリアンが頷く。
その時にはセシルを抱いていない方の手が魔術を繰り出していた。
光が弾け散り、爆音が響く。
「ちぃ、弱めすぎたか!」
人間界では強い魔術は使わないようにしている為、威力が足りなかったようだ。
マクシミリアンの攻撃を受けても怯まず突進してくる。
初めて見る生き物である。
牛に似ていなくもないが、かなり大きいし角の数も多い、体は四角ぽく手負いで攻撃的である。
マクシミリアンは手に魔剣を出して握りしめる。
魔剣で仕留めるのが、音や光や振動もなく街に気づかれない一番の方法と考えたようだ。
「マクシミリアン降ろして。」
「ここは危ない!」
「ここで見ているから、直ぐに倒して迎えにきて。」
魔剣は魔力に連動する、マクシミリアンの魔剣は強剣だ。
セシルを地に降ろすと獣に駆け寄って行く。
マクシミリアンが獣に向かい剣を両手で持ち振り上げる。
魔力で飛び上がり獣の頭上から斜めに斬り裂く。
ギャアアア!!!
獣が断末魔を叫んで倒れ落ちる。
反り血を浴びたマクシミリアンがあわててセシルの元に駆けて来る。
「セシー、大丈夫か?」
「マクシミリアン、カッコいい!!見とれちゃった!!」
セシルが興奮して誉めまくるから、マクシミリアンもまんざらでもない。
これからずっと魔剣を出していようかな、などと思っている。
魔術で着いた血を消してマクシミリアンがセシルを抱き上げる。
「マクシミリアンは何でも出来るのに、私はお荷物だ、ずっと抱かれて片手をふさいでいる。」
「バカですね、何暗くなっているんですか。セシーのできない分が出来るように頑張ったんですよ。」
「私の手はプクプクの子供の手。マクシミリアンの手伝いもできない役立たずの王様。」
「誰よりも役に立ってますよ。こうやって私に抱かれてくれる。
セシーを守っている実感が私のエネルギーですよ。」
セシルの涙を舐めながら、マクシミリアンが言う、泣く必要なんてありませんよ。
「大人になりたいの。」
「大人になって私と結婚式をしましょう。」
マクシミリアンがセシルを抱いたまま獣に近づいて調べ始める。
「元は普通の獣だったのでしょうが、魔力がありますね。」
「魔力によって変化したってこと?」
「その可能性は高いですね。」
「変よね?」
「そうです、何故魔力があるのでしょう?」
突然変異か、近くに魔力の強い者がいて影響を受けたか。
魔力のある獣が暴走して、このように人間を傷つける。
それは魔力の強い魔族は危険と繋がる。
「調べないといけませんね。」
マクシミリアンの言葉にセシルも頷くが、不安が拭いきれない。
魔力の残滓をたどり、森の奥深くへと歩みを進める。
「お化けが出そうじゃない、苦手なのー。」
知ってますよ、と楽しそうにマクシミリアンが言う。
マクシミリアンの前をおっかなびっくりで歩くセシルの足は遅い。
抱いて歩くと言うマクシミリアンに意地を張ったのはセシルだ、その方が速いのはわかっているがセシルのプライドである。
「きやああ!マクシミリアン!!」
セシルの悲鳴に抱き上げようとしたマクシミリアンの手が空を切る。
セシルの足もとに穴があき、セシルが落ちたのだ。
マクシミリアンが躊躇いなく穴に飛び込むが、思ったより深く落ちて行く。
真っ暗な穴の底にセシルはいない、セシルの魔力を追うが凄いスピードで移動している。
さっきの獣のような何かがセシルを連れて移動している。
直ぐに地下の穴から地上に出た、その先には一軒の家があった。
マクシミリアンが追い付かないスピードなどありえない、何かがセシルの魔力を使っている。
セシルは自分で魔力を使うことが、ほとんどできない。
マクシミリアンが飛び込んだ部屋にはセシルをくわえた獣と一人の人間がいた。肩を噛まれているセシルからは血が流れている。
「セシルを放せ!!!」
マクシミリアンが叫んだ時には、獣の前に移動していて剣で斬っていた。
獣の口からセシルが落ちるのをマクシミリアンが受け止めたが、セシルの小さな身体に牙が突き刺さっていたせいで血が吹き出ている。
マクシミリアンは止血をし、抱き抱える。
「凄い魔力だ。」
人間が興奮している。
老人であろう男性は、マクシミリアンの一刀のもとに倒れ落ちた。
マクシミリアンに斬られた獣は、セシルの血から魔力を吸ったのであろう、まだ生きている。
マクシミリアンが魔力の炎で焼き尽くす。
揺れる青い炎の中で獣が苦しみもがいて吠えている。
やがて獣が倒れ動かなくなると炎も消えた。
マクシミリアンはセシルをソファーに寝かし、魔術で治癒を始めた。
「マクシミリアン、痛いの。」
セシルが声を出した事で安心したマクシミリアンだが、怒りで爆発しそうだ。
「油断しちゃったわ、後が残ったらどうしてくれるのよ。」
痛い、痛いと愚痴りながらセシルが傷口を押さえて魔力を与えているマクシミリアンの手に動く方の手を添える。
マクシミリアンの心配や安心、怒りなどがセシルに流れ込んでくる。




