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snow white  作者: 小山 優
後章
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第二十五章 己と相手のために

 空で魔女と天使が向き合った。

「久し振り……なのかな? 私は会ったことないけど」

 ハイルディが尋ねれば、

「おう。千年振りだな、てめぇの十代ぐらい前の祖母さんに会ったっきりだ」

ヒャッヒャと楽しむようにウリエルが笑った。

 双方が、相手が何者であるかはわかっている。先ほどの戦いを横目で見て、そしてお互いが生み出している魔法の効果を見て、だ。

 そして、この場にいる者の心には「戦う欲求」以外に何も存在しなかった。

「で、ウリエルさんだっけ? 一応聞いときたいんだけど……」

「ああ、俺もてめぇに聞きてぇことがあるな。魔女娘」

 背中に天輪の翼を生やした男と、身に魔女のドレスをまとった女が対峙する。

「「さっきのは本気じゃない――」」

 よね?、と魔女が聞く。

 よな?、と天使が聞く。

 相手の質問を聞いたそれぞれは、答えを言う必要も聞く必要もなくなったと、距離を開けた。

 魔女は、座っていた箒から、空中に立ち上がり、その箒を、魔法で呼び出した異空間に投げ込む。

 天使は、魔力を制御するために両手につけていたグローブを脱ぎ捨て、同じように異空間に放り投げる。

 両者はため息をついた後、

「『古の祖の力の源の証よ、私はお前を呼ぶ』」

「『堕落の我の中の救いの魂よ、私はお前を呼ぶ』」

 互いの呪文を聞き、その内容に笑う。

――相手が自分と同等の強さを持つ証だ。

「「『『具現せよ』』」」

――金色が溢れた。

 呪文の完成と同時に、二人の体が金色の魔法光に包まれる。

 金色の光は、布や糸のように体に巻き付き、服を分解し、そして別のものに再構成した。

 一瞬の後、そこには姿を変えた二つの体があった。

「これ、重いからあんまし着たくないんだけどね」

 ハイルディの格好は、紫を基調とするドレスであるのは変わらないが、先程までのタイトドレスではない。

 固い盾のような形の金属が連なってスカートを作り出し、それが貴族が着るドレスのように足元まで伸びている。

 靴は低いヒールに厚底。帽子は三角帽子。背にはマントを羽織る。

 体のラインをくっきりと浮き上がらせたドレスの上は、大きく胸元を開き、その豊満なボリュームを見せつけている。

「俺は楽で良いがな」

 ウリエルは、やはりその肉体を見せ付ける。

 下半身はゆったりと白く大きい腰布で覆われ、上半身は布地を纏いながらも、古代ギリシャのような肩掛けで、肌のほとんどを露出させる。

 何より目を引くのは頭と背中。

 背には、何メートルあるのかと言う、鳥のような真っ白い羽を背負い、頭には輝く小さな輪が浮いている。

「――変な格好だね」

「――てめぇもな」

 その服は、一千年前、救世主達が実際に纏っていた神衣。神や伝説級の制御や増幅の力を持ち、着るものにそれを授けるものだった。

 満月が深く傾いた夜空で、天使と魔女は見つめあった。

「じゃあ――」

「――始めようぜ」

 二人はそれぞれの腕や足に金色をまとわりつかせる。

「私を倒すなら、リヴァイアサンぐらいの奴持ってこないと相手にもならないよ?」

「リヴァイアサンなら、ちょうど一昨年ブッ飛ばしたな。バハムートでも俺は構わねぇぜ?」

 挑発に、二人は口角を上げる。

――最高にワクワクさせてくれる!!

 両者は小さく踏み込みの姿勢を取った後、

「「―― !」」

楽しい戦いの時間を始めた。


「一隊から三隊は南側を包囲! 四隊と五隊は突入準備!」

――女王の指令が前線を舞う。

 現在、城外の守備隊を追った傭兵団の代わりに、モンタギュー騎士団とその後続であるバチカン王立軍がパリの城の包囲を進めている。

「ルクレツィア女王! 突入班に指揮官の数が圧倒的に足りません!」

 誰とも知らない団員が叫んだ。

「アロルドはどうした!?」

「北の包囲の総指揮を取っています。他の幹部陣や指揮経験のある者も、負傷か手一杯です」

 く、と苛立ちを呟いた。

 戦闘では、細かく現場指揮する者を必要とする。そうでなければ、各々が好き勝手に行動し、戦術が乱れていく。特に今のような突入戦では、小隊や分隊レベルで指揮官をつけた方がよい。

「最低何人要る!?」

「あと三人……いえ、二人です! 二人でなんとかします!」

 いくら戦闘技術が優れていても、指揮官がいなければその力を発揮しきれない。

「モンタギューと私が行く! エンリコを前線に来させろ!」

 了解、と違う伝令が叫んで駆けていく。

「偵察班は戻ってきたか!?」

 最初の団員に聞き直す。

「はい! 敵主力は宮廷魔術師です!」

 頷き、視線を正面、王宮に向ける。

「突入班は強化盾を用意!」

 横には、別の場所で指示を飛ばしていたモンタギューが戻ってきていた。

「準備は良いか?」

「いつでも良いですよ」

 笑みとともに返答が返る。

「それじゃあ、」

 再び視線を正面に戻し、王宮を見据える。

「突撃だ」


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