第六話
若い女性と、顎に短い髭を生やした男性が大きい扉の前に立っている。
やっぱりこれは正門なのだろうか。職員の人が、ここまで案内してくれた。
「私はリシェル・アルバーン。これからよろしくね」
きれいなお姉さん、という印象だった。
「僕はアレクシス。よろしく」
(おっきい)
リシェルとは年齢が近そうだ。
(なんとなく夫婦っぽいな)
「よろしく、おねがいします……」
リシェルがヴェンルに微笑んだ。
「ふふ、そんなに硬くなくていいのよ、さあ、行きましょうか」
扉の外へ歩き始めた。
ヴェンルが知らない道へと進んでいく。
久しぶりの外の空気だった。
「シャバの空気……」
それを聞くと、アレクシスはこっちが恥ずかしくなるほど大きい声で笑った。
「はははっ、そんな言葉知ってるのか?」
リシェルはアレクシスを睨みつける。
「ああ、ごめん、ごめんよ、リシェル」
リシェルはヴェンルの方を向くと、
「そんなギャングみたいなこと言わないの、わかった?」
「うん……」
アレクシスはその様子を見てまた笑いだしそうになったので、慌てて口を押さえていた。
⸻
「ヴェンル、着いたわよ」
前の家よりもずっと大きくて、周りには草木が生い茂っていた。
リシェルがドアを開けると、人の家の匂いがした。
(ここ、これから僕のおうち?)
玄関にゆっくり入る。
「これからはここがお前の家だ」
ヴェンルはアレクシスに心を読まれたと思って、思わずアレクシスの青い瞳を見つめた。
アレクシスは笑いかけてくれたけど、でもなんだか気まずくなってきて、目を離す。
「ほら、上がって」
きれいな廊下に踏み入れ、音を立てないように歩いた。
廊下の先には、広いリビングがあって、整理整頓されていた。
大きい本棚がある。
「ヴェンル、改めて、これからよろしくね」
「……うん」
⸻
「ヴェンル、起きて!」
ヴェンルは家の2階に部屋をもらった。リビングは一階だ。
たぶん、今の声はリシェルで、リビングから呼ばれている。
ベッドから重い体を起こし、パジャマを脱いだ。
なんとなくかっこいい、新しい服を手に取った。
すんすん匂いを嗅ぐ。
やっぱり慣れない。
(お母さん……)
ごしごしと手首で目を擦った。
服を着替えると、一階に降りていった。
「ヴェンル、おはよう」
アレクシスがマグカップを手に持って、新聞を読んでいた。
「おはよう」
「ヴェンル、ちょっと聞いて?」
リシェルが椅子に座ったので、ヴェンルも座った。
この椅子も、なんだか柔らかくて、慣れない。
「魔法って、知ってる?」
魔法。勇者はあんまり使わないやつだ。
(そういえば、お母さんが使ってた……)
「名前は知ってる」
「そう?物知りね」
リシェルが迷うことなく本棚から一冊の本を引き出した。
そしてペラペラとページをめくった。
リシェルがそのページを見せながら説明する。
「今は最低限だけ説明するわね」
ヴェンルがこくりと頷く。
「魔法は不吉に感じられるかもしれないけど、使い方によっては人を救うこともできるものなの」
リシェルは本の図を指差した。
「ヴェンルは将来何になりたいんだっけ?」
「えっと……ドラゴン使いの勇者」
「いい夢ね。実はそのドラゴンを操るにも魔法が必要なの。それに、あなたは強くなる素質を持っているのよ」
ヴェンルは、ぱぁっと目を輝かせた。
「ほんと!?」
アレクシスがこちらに目を向けた。
「この説明でヴェンルはわかったのか?」
「うん」
「ははっ、頭いいみたいだよ、リシェル。医者もできるんじゃあないか?」
「ヴェンルが疲れちゃうでしょ?」
ヴェンルは首を傾げて、視線を2人の間で行ったり来たりさせた。
「えっとね、ヴェンルには魔法の訓練をしてほしいの。ヴェンルに強くなってほしくて。毎日、朝と夕方、頑張ってくれない?」
「うん!」




