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第五話

ヴェンルの叫び声にも似た泣き声が建物内にこだます。


ヴェンルは堅苦しい建物に放り込まれていた。


孤児というやつになったのだろうか。


あれから母を見ていなかった。きっと、母はもう戻ってこない。


母は、悪いことをしていたんだ。ずっと信じていたのに……。


母に、裏切られたんだ。


そう思うと、胸がきゅっと痛くなった。


それに、母が可愛がってたフーちゃんまでいなくなった。


起きているうちは涙が止まらなかった。


消灯時間になると、寝ようとは思うのだが、あの瞬間を思い出して寝れなくなってしまうのだった。


⸻


もう、ヴェンルの涙は枯れ果てていた。


母を失って悲しくない、というわけではなくて、ヴェンル自身もわからないが、なんだろう、悲しいとか、たすけてやればよかったとか、そんなことを思うことはなかった。


悪いことをした母なんか、守ってはいけないから。


でも、それでも大切な母だった。たった1人の家族だった。


それなら、ヴェンルが守れば良かったのに。引き止めればよかったのに。


でも、やっぱり母は悪人だ。


母を守るのは、正義じゃない。


母の自業自得だ、仕方なかったんだ、と、ヴェンルは初めて自分を騙した。


今ヴェンルのこころというものはからっぽだった。


あるのは、母はもういないという現実だけだった。


⸻


その日は土砂降りだった。


泣き疲れてベッドで体を預けていたのだが、今日のは特別強いと思って、耳を傾けていたのである。


なんのためのものなのか、鉄格子がついている窓に雨粒が叩きつけられている。


ふと、外に出てみようかと思い立ったが、しばらくの間、雨の音を聞いていた。


急に破裂音のような雷鳴が轟いて、我に返った。


ぱっと視界が明るくなる。


雨がいっそう強くなった。


やっぱり外に出てみたくなり、起き上がる。


ずっと寝ていたせいか、体がかたまっていた。


廊下を歩いて、中庭に向かう。


中庭に着くと、部屋から見ていたより雨は強いようだった。


当たり前だが、他のこどもがいる、ということに心底驚いた。


しばらくこどもを見ていなかったからだろうか。


こんなに土砂降りなのにも関わらず、きゃっきゃと笑いながら走りまわっていた。


ヴェンルより年下だろう。


ヴェンルが近づいていくと、「あっ」と指を指される。


「お前の母さん、反逆罪で逮捕されたんだろ?」


体が勝手に動いていた。


ヴェンルの腕に衝撃が走る。


鈍い音がなった。


周りにいたこどもの注目が集まる。


しばらくすると、大人も来た。


ヴェンルの部屋の警備は、一層厳しくなった。


⸻


またしばらく経った。


どれくらいかはわからない。


職員さんが重い扉を開けた。


「引き取り手が見つかったわよ」


なんか、睨まれているような気がする。


「引き取り手、医者だって。あなたにお似合いじゃない?」


母がよく言っていた。


人を助けられる人になりなさいと。


医者というのはそういうものらしい。


学校の先生は、医者という言葉を毛嫌いしていた。


医者の代わりには、呪い師がいる。


かかりつけの呪い師の自慢話をすることもあった。


クラスメイトに医者になりないと言った子がいたが、その子は何処か遠いところに行ったらしい。


医者って、いい人なのかな。


でも、母さんが言ってるんだ、きっといい人なんだろう。


「返事もないの?無愛想な子、やっぱり所詮反逆者の子ね」


そう言って、廊下に戻っていった。


反逆者の子。


その言葉が、妙に胸に響いた。

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