一年生三月:球技祭②
試合が行われるコートの外で、ヨスガはかつてのチームメイトと鉢合わせた。
「あれ、陽太。今日は補習も無いんだ」
今はプロサッカーチームの下部組織のユース生として活動している陽太だった。特待生クラスの九組は基本的に学校行事に参加する事は無い。
九組の生徒はそれぞれの活動で授業を休める代わりに、学校行事や長期休暇に補習がねじ込まれる事が多々ある。
「久々だな。今日はなんも無いからサッカー観に来たんだよ。中学ぶりにゆえのプレーも見れるしな。あと、セレクションとか練習参加で見た事あるやつらがどうなったかとかも気になってね」
陽太に付き合う形でヨスガは元来た道を戻る。
「お、ちょうどいるじゃん」
コートに戻ると早速陽太が目当ての選手を指差した。それは別府だった。
「あぁ、そういえばユースのセレクションに参加して落ちたとか言ってたな」
ヨスガは春先に聞いた話を思い出す。
入学時点で別府は一目置かれていた。中学時代の活躍は同じ地域の同年代なら知ってる者も多かった。
そんな別府が全国大会に行った事の無い程度の柏陽台高校に入ったのは、セレクションに落ちた時に試験官に勧められたからだった。
プロサッカーチームと提携している柏陽台高校は、ユース生の受け入れと引き替えに、指導者の派遣を受けている。
別府はそれを受けるために実績ある強豪校には目もくれず、柏陽台高校の門を叩いた。
「しっかりAチームで活躍してるよ」
ヨスガが別府の今を陽太に解説する。
「ふぅん。随分と成長したんだな」
「セレクションの時はどんな選手だった?」
ヨスガが陽太に訊ねると、陽太は怪訝な顔をした。
「俺らも戦った事あるぞ。完封したけど」
「必死だったから全然覚えてなかった」
ヨスガの答えに陽太は呆れる。
「まぁ、俺もセレクションで会うまで忘れてたけどな。その時話したんだけど、俺達とやった時は良いパスの出し手が怪我して出てなかったんだってさ」
陽太の言葉にヨスガはピンとくる。
「あぁ、そういう事か。そういう意味なら別府は変わってないよ」
「ん?」
陽太は再び怪訝な顔でヨスガを見る。
「まぁ見てればわかる」
ヨスガがコートを指差して観戦を促す。
試合が終了し、五組が勝利した。
別府が獲得したPKを自分で沈めての勝利だった。
ゴールの角に正確に蹴り込んだ素晴らしいPKだった。
PKのジャッジは贔屓目に見ても怪しかった。
「なるほどね。まぁ確かに」
陽太が納得した。
「でもまぁ、自分の武器はしっかりと伸ばしてるよ。それを使いこなす選手も揃ってる。ただ球技祭じゃ苦戦するだろうね」
ヨスガが捕捉をする。その様子に陽太は目を丸くする。
「お前、まだ一度も別府と同じチームでやった事無いんだよな?そんなにトップの試合観る機会あるのか?」
「いや、無いよ。ちょっとこの球技祭を勝たないといけない理由があって、同じクラスのAチーム経由で映像を貰ってスカウティングしたんだよ」
ヨスガの返答に陽太は驚く。
「そこまでするのかよ」
「ちょっと事情があってね」
陽太とゆかりは顔見知りではあるが、ゆかりの事ついてはぼかした。
「そっか。五組と当たるのは決勝か?楽しみにしてるよ」
「ユース生を楽しませられる試合になるかねぇ」
「バカ言え。別府が同学年のサッカー部員に球技祭にサッカーで出る様に求めてる理由はユース組にも流れてきてるんだよ。お前の事情はそれだろ?」
「知ってたならなんで隠したんだよ」
ヨスガがジロリと陽太を睨む。
「いやいや、話したのは芸術鑑賞会の時だけだったからさ、そこからどういう関係になっていったのかも俺はわからないワケ。それでわざわざ結川さんの名前を出すのも野暮だろ」
陽太の反論にヨスガは黙る。納得しかなかった。
「協力してくれる人がいるとはいえ、一人でスカウティングまでするくらい勝ちたいんだろ。外から全力で試合に取り組むヨスガが見られるんだ。楽しみに決まってるだろ」
陽太はそう続けて肩を叩く。
「頑張れよ」
「おう」
ヨスガが陽太の激励に応える。目覚めつつある闘争心がグツグツと煮えたぎっているのを感じた。
ふとヨスガの視界、陽太の背後から全力疾走してくる影が映る。
影は綺麗な踏切りから陽太の背中目がけて脚を伸ばす。
ヨスガが警告する間も無く、陽太は跳び蹴りの餌食になる。
陽太が痛む間も無くヨスガの方に倒れ込み、ヨスガは陽太の下敷きになった。
「ごめん、ヨスガ」
影は当然ゆえだった。
「ゆえ、陽太は今良い状態なんだからマジでやめてやってくれ」
「いてぇよゆえ」
倒れた男二人がゆえに文句を言う。
三人の間ではいつものやり取りだが、そんな事を周囲の人間が知るはずも無く、周りは呆気に取られていた。
ゆかりが五組のチームメイトの輪から抜けて駆け寄ってくる。
「二人共大丈夫ですか?」
ゆかりの心配そうな声に、ヨスガも陽太も大丈夫と親指を上げる。
「次、ゆえの試合だろ。楽しみにしてるぞ」
よろよろと立ち上がった陽太がゆえを激励する。
「ゆえの初戦はもう終わったぞ。次は午後」
ヨスガが陽太の勘違いを訂正する。
「え、マジ?」
「女子の試合が楽しみって、視姦でもするの?」
冷めた視線でゆえが陽太を見る。
「んなワケねぇだろ。ゆえの活躍をだよ」
そんな視線を意にも介さず陽太は正しく意図を伝えた。
「勝手に見てろ」
そう言うとゆえは一組女子のグループへと帰っていった。
「あいつ、俺に蹴りを入れるためだけに来たのかよ……」
陽太の情けない声にヨスガは笑いを堪えた。
昼前最後の試合がヨスガ達二組の出番だったが、ヨスガにボールが回ることも無く完勝した。
人物紹介
縁堂縁:ヨスガ。
古淵ゆえ:陽太を蹴り飛ばすためだけにやってきた。
照島陽太:ヨスガとゆえを応援しにきた。トーナメント表は見ていない。




