一年生三月:球技祭①
球技祭当日になった。
サッカーは男女、学年別のトーナメント方式で男女交互に人工芝のハーフコートで行われる。
参加するのは八クラスで、三回勝てば優勝となる。
試合時間は二十分一本勝負で同点なら即PK戦のサドンデスで行われる。
男女共にサッカー部員が多いクラスが優勝候補ではあるが、学校行事である球技祭は普通の運動靴で参加しなければならない。スパイクのように足の裏に突起がついているわけでもなく、微妙に勝手が違う。
ゴールキーパーのヨスガは、とっさの時に滑らないと良いなぁと思っていた。
最初は女子チームの一回戦が行われ、ヨスガは次の試合の審判をするために横で待機していた。
「まずは一勝。ぶい」
初戦を終えたゆえがピースサインでヨスガの下にやってくる。
「お疲れ。大活躍だったな」
「もっと褒めて良いよ」
胸を張ってゆえが言う。
「優勝したらな」
ぽんぽんとヨスガがゆえの頭を軽く叩く。
「わかった」
聞き分けよくゆえが返事をして立ち去っていった。
ゆえとヨスガのふれあいを一組女子達が生温かく見守っていた。
ヨスガが審判の仕事を終えると、今度は入れ替わりでゆかり達五組の出番だった。
「ヨスガくん、審判お疲れ様です」
ニコリとしながらゆかりが挨拶をする。今日は気合いを入れてゆえと同じ様なポニーテールにしていた。
「ありがとう、ゆかりさん。怪我に気をつけてね」
ヨスガが返事をするとゆかりは嬉しそうに微笑んで手を振りながらコートに入っていった。
その後ろから赤羽根と青井もやってきた。
「青井さんもサッカーで出るんだ」
「うん、手を使わないからサッカーが良いかなって思って。あかねちゃんもゆいちゃんもいたし」
吹奏楽部でパーカッションを担当する青井は手の怪我を嫌ってサッカーに参加する事にした。
「縁堂君、お疲れ」
赤羽根がヨスガを労う。
「それとごめん。次勝ったら八組と当たる可能性あるんだけど、審判も中立じゃないかも」
声を落としてヨスガに伝える。
赤羽根がヨスガと交わした対抗策は実る事はなかった。
悔しそうに顔を歪める赤羽根をヨスガが気遣う。
「そこはしょうがないよ。ちゃんと試合見届けるから。赤羽根も頑張れ」
ヨスガの言葉に赤羽根も気を取り直して「わかった」と返事をした。
ゆかりの初戦は怪我する事も無くほどほどに出番もありつつ無事に勝利した。
「見てましたか?」
嬉しそうにゆかりがヨスガに駆け寄る。
「もちろん。ちゃんと見せ場もあったね」
ヨスガの感想にゆかりは上機嫌になる。
「次も頑張ります!ヨスガくんの弟子対決になるかもしれませんしね」
すっかり松井と打ち解けたゆかりが意気込みを語った。
ヨスガは八組と当たる不安を飲み込んで「そうだね、どっちも応援してる」と応えた。
「そこはわたしだけ応援してくださいよ。でも、嬉しいです」
頬をぷくっと膨らませてゆかりが愛らしく抗議する。
身体を動かした直後で興奮しているからか、周囲に人がいるにも関わらず、ゆかりはわがままに振る舞う。
それを次の試合をする五組の男子チームも見ていた。
ざわつく五組の選手を置いて、別府がヨスガ達の下にやってきた。
「あ、別府くん。これから試合ですか?頑張ってくださいね」
ゆかりの表情が即座に普段の穏やかなものに変わる。
別府は出鼻をくじかれて「おう、見ててくれよ」と応えてコートに入っていった。
他の五組男子は怪訝な目でヨスガの事を見ていた。サッカー部の人間は睨んでいた。
「ちょっとはしゃぎ過ぎちゃいましたね」
別府に水を差されてゆかりが落ち着いて自身を省みる。
「それじゃあ、わたしはこれで」
ペコリとお辞儀をしてゆかりは五組のチームメイトの下に合流して観戦のために座った。
ヨスガがコートの方に目をやると別府と目が合った。
居心地が悪くなってヨスガもその場を立ち去った。




