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一年生三月:球技祭練習①

「あの、ヨスガくん。ゴールキーパーを教えてください」

 三月に入って卒業式も間近になったある日、ゆかりがヨスガに指導を求めた。

「え、どういう事?」

 妥当五組に気持ちを新たにしたヨスガは突然の申し出に困惑する。

「球技祭でゴールキーパーをやる事になったんです。なので、教えて欲しいなぁと思いまして。どうでしょうか」

 ヨスガは悩む。球技祭は卒業式から数日後に開催され、あまり時間が無い。

 普段の部活動での練習に加えてヨスガ自身の対策にも時間をかけたかった。

「ゆかり、やるね」

 ゆかりの魂胆などお見通しなゆえが呟く。

「五組の女子で一番背が高かったのであかねちゃんに抜擢されたんです」

 本当のところは青井あおいの入れ知恵と赤羽根あかばねの根回しの賜物だった。

 ヨスガは悩んだ末に怪我をしないようにするためにゆかりの練習に付き合う事にした。

「わかった。多分女子サッカー部も普通に出ると思うから、勝ち負けよりも怪我をしない方向で身体を動かしていこう」

「はい!よろしくお願いします!」

 ゆかりは元気よく返事をした。


 ゆかりとの最初の練習はヨスガが休みの月曜日に行われた。

 人工芝の練習場を使うのは悪目立ちしてしまうので、校庭の中で芝生が生えていてフカフカな場所を探して練習を始めた。

「あれ、キーパーグローブの貸し出しなんてあるの?軍手でやらされるかと思ってた」

「あかねちゃんが持ち出してくれたんです」

「あぁ、そうなんだ。それなら怪我の予防にもなるね。良かった。じゃあまずはボールに慣れるところから始めようか」

 軽く準備運動をしてからゆかりにキャッチの基本を教える。

 その後は座った状態で地面に身体に慣らす練習をした。

 さらに発展して、身体を投げ出す練習まで進んだ。

「多分ここまで思いっきり跳ぶ事は無いとは思うけど、正しい着地を身につけた方が結果的に怪我の予防になるから、少し怖いかも知れないけれど思い切って跳んで欲しい」

 ヨスガが身体を投げ出して跳ぶ手本を見せる。

 ゆかりは拍手をして見守っていた。

 ゆかりもおそるおそる跳んでいたが、回数を重ねる内に慣れてあっさり身体を投げ出して着地するまでの動きを身につけた。

「ヨスガくんの練習を覗いていた時に観てたからイメージしやすかったです」

 満足げにゆかりが言う。ゆかりの飲み込みの早さにヨスガは感心した。

「今日はこんな感じかな。ボールを持ち帰れるなら持ち帰って、ベッドに飛び込んで身体を慣らす、ってやり方も出来なくはないからやってもいいかもね。でもまずは怪我をしない事」

「はい。ありがとうございました」

 ゆかりが礼をする。

 クールダウンをして二人で寮の方に戻る。

 人が多いのもあるが、二人の距離は普段より遠かった。

 汗をかいたゆかりが恥ずかしがって距離を取っていた。

 ヨスガは普段から自発的に距離を縮める事は無い。それがゆかりにはありがたかった。

 ヨスガが自分の初心者時代のエピソードや松井まつい達にレクチャーした経験を思い出しながらゴールキーパーの小話をしているとゆえと鉢合わせた。

 ゆえもジャージに身を包んでいた。

「ゆえさんも練習ですか?」

 ゆかりがゆえに話しかける。

「うん。ゆっことボール蹴ってた」

 ゆえはクラスメイトのサッカー部のゆっこと一汗かいていた。

「お、縁堂えんどうくんだ。お隣さんは噂のメイド様か」

 ゆえの後ろからゆっこが現れた。

結川ゆいかわゆかりです。ゆえさんの絵の話を知っているんですね」

 ゆかりがゆっこに自己紹介する。

「ご丁寧にどうも。ゆっこです。一組で一番ゆえを溺愛してます」

 ゆかりがゆっこの自己紹介に困惑し、ヨスガの方を見る。

「実は俺もゆっこさんの本名知らないんだ」

 苦笑いしながらヨスガが応える。

「謎が多い方が女は美しくなるってね」

 ゆえの友人だなぁ、と自分自身の事を棚上げにしてゆかりは思った。

「ゆかり、今失礼な事思ったでしょ」

「心を読まないでください」

縁堂えんどうくん達はキーパー練?」

 ゆっこがヨスガに声をかける。

「うん。怪我の予防にレクチャーしてた」

「あー、だから芝生の方から来たのか。私達は普通に土でやってたから硬いもんね。自由に人工芝が使えたら良いんだけどねぇ」

 ゆっこがぼやく。

「そこはもう仕方無いよ。ゆえ、球技大会までは適当にボール蹴ってるか?」

 ヨスガはゆっこを宥めつつ、ゆえに今後の予定を訊く。

「そのつもり」

「そっか。それならゆかりさんも混ぜてくれないか?」

 ヨスガの提案に、ゆえはゆかりの方を見る。

「ゆかりはヨスガを頼ってるけど?」

「俺も普通に練習あるし、ゆっこさんもそうだろ?ゆかりさんに基本の部分は伝えたから、一緒に付き合ってくれると嬉しい」

「ゆえさん、わたしからもお願いしたいです。せっかくなら良い準備したいですし」

 ヨスガの返答にゆかりも加勢する。

 ゆえは少しだけ考えて「わかった」と承諾した。

「色々決まった?んじゃ、ご飯でも行こーう」

 ゆっこが仕切って前を歩く。

 着替えを終えたら四人で夕飯を食べる事になった。


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