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一年生一月:風邪引きのヨスガ

 冬休みが明けて一月最初の三連休の土曜日、ヨスガは風邪を引いた。

 幸い、出席停止になるような感染症にはかからなかったが熱にうなされながらベッドで横になっている。

 寮暮らしからもうすぐ一年経つが、ここにきてヨスガは一人でいる事の心細さを感じている。

 元々家事全般は中学時代からしっかり仕込まれていたのもあって、ヨスガは寮生活で不自由した事は無かった。

 体調を崩してようやく家族と住むありがたみを実感している。

 眠りすぎてぼんやりとした頭でヨスガは部活の事を考える。

 ようやくBチームに定着してきたが、また振り出しだな、とヨスガは思った。

 Cチームに甘んじているメンバーも着実に実力をつけてきて、差は無いとヨスガは思っていた。

 それならそれで、成長した松井まついを見る事ができるなと思いながらヨスガはもう一度眠りについた。


 熱で朦朧としたヨスガは物音で目を覚ました。

 廊下にある冷蔵庫が開く音がする。

 ガサガサとビニールが擦れるような音がした後、ゴトゴトと音がした。

 ヨスガは冷蔵庫に食料が補充されているのだと思った。

 ヨスガの部屋に勝手に入れるのは鍵を持ち出しているゆえしかいなかった。

 ヨスガは幼馴染みの存在をありがたく感じた。

 ゆえが冷蔵庫の扉を閉じ、足音が近づいてくる。

 電気を消していたリビングが一瞬だけ点灯する。

 目を瞑っていたヨスガは瞼越しに眩しさを感じて眉間に皺を寄せる。

 即座に照明のスイッチを操作して照明は常夜灯に切り替わった。

 ヨスガはゆえがベッドの横に近づいてくるのを感じる。

 目を開く気力も無かったが、なんとか口を開いて感謝の言葉を口にする。

「ゆえ、悪いな。ありがとう」

 しばらく声を発していないヨスガの喉は掠れ気味に感謝を伝えた。

 ゆえは何も言わずにヨスガの額に触れた。

 触れられた手がひんやりとして気持ち良かった

 額に触れた手がヨスガの髪に触れ、優しく撫で始める。

 ヨスガはその撫で方に覚えがあった。

「ゆかりさん?」

 ヨスガが声を発すると撫でる手が一瞬だけ止まった。

「ゆかりさんも来てくれたんだ。ありがとう」

 ゆえだと思っていた手がゆかりのものだとヨスガは確信し、感謝を伝える。

 ヨスガは、ゆかりが触れた所から安心感が流れ込むように感じた。

 ヨスガはそのまま眠りに落ちた。


 翌朝、ヨスガはすっかり体調が回復した。

 寝間着が汗で気持ち悪かったが思考はクリアになっていた。

 シャワーを浴びてから冷蔵庫を確認すると、ドリンクゼリーとスポーツドリンクで溢れかえっていた。

 その中に『早く治せ』とゆえの書き置きも紛れていた。

 昨夜、ヨスガはゆかりも訪れていたと思っていたが、実際にはゆえだけがお見舞いに来ていたようだった。

 ゆえが書き置きをしている横で、ゆかりが書き置きをしないとは思えなかったからだ。

 ヨスガは眠りに落ちる前の事を思い出し、ゆえの事をゆかりと勘違いした事を詫びないといけないと思った。

 ゆえに連絡を入れようと携帯電話を確認すると、ゆかりも入れ違いで風邪を引いてしまったと連絡が来ていた。

 ヨスガは心配に思いつつ、まずはゆえに連絡を入れた。

 返信を待っている間に窓から外を眺めると、雪がうっすら積もっていた。

 ヨスガが寝込んでいる間に雪が降っていたようだった。

 ヨスガは雪予報があった事すら知らなかった。

 ゆえから返信が来たが、その内容が要領を得ず、ヨスガは怪訝な表情を浮かべる。

「なんでゆかりさんの話になるんだ」

 ゆえからの返信は『ゆかりに風邪を感染すな。元気になってよかった』と言う内容だった。

『昨日差し入れしてくれたのはゆえだったろ。なんでゆかりさんの話になるんだ』

 ヨスガが返信すると、すぐに既読がついたが十分経っても返信が無かった。

 時間を要するような内容じゃないにも関わらず、ゆえにしては返信が遅かった。

 さらに五分経つと、ヨスガの部屋のインターホンが鳴る。

 扉の前にはゆえが立っていた。

 暗い顔をしている事にヨスガは引っかかった。

「ゆえ、どうかしたのか?」

 ゆえは何も言わずに棒立ちしている。

「とりあえず中に入りな。寒いだろ」

 ヨスガがゆえを部屋に入れる。

 しかし、ゆえは靴を脱ぐ事も無く立ち尽くして、俯いたまま大粒の涙を流し始めた。

「ごめん、ヨスガ。ごめん」

 涙を拭う事も無く、ゆえはヨスガに謝り続けた。


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