表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/79

一年生一月:年末年始⑤

 翌日、後夜祭の時のようなトラブルは起きず、ヨスガは何事も無く起床する事に成功した。

 暖房を入れて、布団で眠っている二人の様子を見ると、二人共しっかりと掛け布団に収まった状態で包まっていた。

 ヨスガは一足先にリビングに降りると、キッチンでは両親が雑煮を作っているところだった。

 ヨスガはおせちや煮染めをテーブルに並べ、ゆかりとゆえを起こしに部屋へ戻った。

 部屋に戻るとゆかりが目を覚まし、ペタンと座りながら伸びをしていた。

 髪はぼさぼさになっており、Tシャツの裾が少しめくれていて、ヨスガは視線を上に向けた。

「ゆかりさん、おはよ」

「おはようございます」

 ヨスガに気づいたゆかりは、気恥ずかしそうに髪を手ぐしで整えようとする。

 その仕草にヨスガは愛らしさを感じた。

「もうすぐ朝ご飯だけど、ゆっくり整えてからでも大丈夫だからね」

「いえ、すぐに準備して向かいます」

 そう言うとゆかりは身だしなみに使う道具を持って洗面台へと向かった。

「ゆえ、起きろ。朝ご飯だぞ」

 ゆかりを見送ったヨスガは、未だに掛け布団の中にいるゆえに声をかける。

 声に反応してもぞもぞと動いてはいるが、出てくる様子は無い。

 ヨスガはゆえを掛け布団ごと持ち上げて、端から剥がしにかかった。

 途中、掛け布団の隙間からゆえの拳や足が飛んできたが、観念して外界に出てきた。

「さむい」

 ゆえは熱源を求めてヨスガに抱きつこうとする。

「飯食って温まるぞ」

 ヨスガはそれをいなしてゆえを小脇に抱える。

「ちかん」

「はいはい」

 ゆえの不満も聞き流し、ヨスガはリビングへ向かう。

 途中、ゆかりと鉢合わせた。

 リビングに直行しようとするヨスガはゆかりに苦言を呈され、ゆえはゆかりの手で身だしなみを整えてから朝食に向かった。

 昼過ぎに近くの神社に初詣に三人で向かう。

 ヨスガ達の地元の神社は桜にまつわる神社で、かつては地元の人達が通う程度だったのだが、ここ数年で多くの人が参拝に来る場所になった。

 当然元日は混雑していて、参拝の列に辿り着くまでに一度、ゆえが遭難しかけた。

「すいません、わたしの日程に合わせてもらったせいで」

 普段、ヨスガは元日に初詣に行くことを避けている。

 今回はゆかりが泊まりに来るのもあって、せっかくならと初詣にも連れてきていた。

「いや、元日じゃなくても正月は大体こんな感じだから大丈夫だよ」

 ヨスガは遭難しかけたゆえの手を引きながら応える。

「昔の方が静かで良かった」

 ゆえが不満げにこぼす。

「そう言うなって。気持ちはわかるけど」

 ヨスガがゆえを宥める。

 参拝の列に揉まれながらしばらくして、ようやくヨスガ達の順番が来た。

 小銭を投げ入れて二礼二拍手一礼をする。

 ヨスガは手を合わせて念じる事はせずに速やかに賽銭箱の前から捌けていった。

 過去に『参拝は、参拝者の型を取るようにありのままの姿を神様に伝える』と言う考え方を聞いてから習慣づいた。

 ゆえとゆかりは真逆で、長く手を合わせるタイプだった。

 抱負や決心を心の中に刻み込む時間だと、合流したヨスガにゆかりは話していた。

 社務所の近くにあったおみくじを引いて、結果に一喜一憂していると、ゆかりを呼ぶ声がした。

「あれ、あかねちゃんじゃないですか。どうしてここに?」

 ゆかりを呼んだのはあかねと言う女子だった。

 文化祭準備期間にゆかりが仲良くなったクラスメイトの二人の内のもう一人だ。

「やっほーゆいちゃーん。ウチ、ここ地元なんだ」

 あかねは軽い調子でゆかりと話を続ける。

 ヨスガとゆえはそれを静観していたが、あかねがヨスガを見つけると声をかけられた。

「あれ、縁堂えんどう君じゃん。なんでいるの」

「俺もここが地元なんだよ。あと、申し訳ないけど名前聞いてもいいか?女子サッカー部は顔わかる奴は何人かいるけど名前はゴールキーパー組しか知らないんだ」

 ヨスガがあかねに名前を訊ねる。

「あ、そう。そう言えば別に自己紹介の場とか無かったもんね。あかばねあき。赤い羽根に季節の秋ね。よろしく」

 赤羽根あかばねの自己紹介にヨスガが怪訝な顔をする。

「なんであかねって呼ばれてるんだ?」

「それは悲しい理由があるんだよ」

「あかねちゃんが、最初にわたしとあおいちゃんを『ゆいちゃん』と『あおちゃん』って呼んだんですよ。それで、同じ要領であだ名をつけようとしたら、ねぇ」

 ゆかりはくすくす笑いながら後を濁す。

「女子高生にもなってあかちゃんってあだ名はヤバくない?ってなって、ゆいちゃんはそのまま、あおいちゃんは一文字増やして、ウチはあかばねから“ば”を抜いてあかね、ってワケ」

「あの時のあかねちゃんのショックの受け方、何度思い出しても笑っちゃいます」

 ゆかりの遠慮の無い追撃に赤羽根あかばねは頭を抱える。

「ひっど。たま~に毒舌になるよね」

 赤羽根あかばねはジロリとゆかりを睨む。

「で、ゆいちゃんは縁堂えんどう君とどうしてここに?デート?」

 赤羽根あかばねの勘ぐりに今度はゆかりが動揺する。

「違います。ここにゆえさんも居ますし」

 ゆかりが必死になってゆえを指差す。

「あ、天使の作者様だ。そっか、そういう繋がりか。なるほどね」

「どうも」

 ゆえが言葉少なに返事をする。

「ゆいちゃんとあおいちゃんから聞いたよ。すごい事したね。縁堂えんどう君の女装も完成度高いし色々面白かった」

「俺は面白くなかったけどな」

 ヨスガは苦々しげに言う。

「そんな事言ってもゆいちゃんのために即答したんでしょ?やるじゃん」

 図書館の天使事件の裏側を聞かされた赤羽根あかばねは素直な称賛を送る。

「ゆいちゃんが縁堂えんどう君が女装した経緯について話してた時の嬉しそうな表情、写真に撮って見せたいくらいだよ」

「ちょっと、あかねちゃん!」

 突然矛先が向けられたゆかりが慌てて声を出す。

 ヨスガは赤羽根あかばねの称賛には何も感じなかったが、ゆかりについての暴露でドキリとした。

「あと、女子サッカー部内での縁堂えんどう君の評判が良い話を聞いた時のゆいちゃんとかね。そうだ、ウチの伝え方が悪くて不快な気持ちにさせちゃったみたいだね。ごめん。ちゃんと部内でもフォローしといたよ」

「あぁ、ありがとう」

 突然文化祭の時に上がった話題を持ち出され、ヨスガは戸惑ったが、内容を理解し、感謝を伝えた。

「ほら、あかねちゃんはこういう人なんです」

 ゆかりがヨスガに耳打ちで伝える。

 ヨスガもそれに頷く。

「何密談してるん?まぁいいけど。

 縁堂えんどう君最近調子良いのはわかってるけど、たまには練習来てよ。

 みどりがどんどん良くなってるからきっとビックリするよ」

「話には聞いてるよ。俺以外にもめちゃくちゃ熱心に聞いてるんだろ?そりゃ上手くなるよ」

 ヨスガは嬉しそうに答える。

 みどりと言うのは女子サッカー部の初心者ゴールキーパーの松井まついの事だ。

「まぁ、またキーパーの序列が落ちるまでは女子サッカー部の方には顔出さないだろうな」

「うーんまぁ仕方無いか。落ちろなんて言えないしね。でもま、もしオフの日に女子の試合あったら見に来てよ。じゃね」

 赤羽根あかばねは言うだけ言って去って行った。

松井まついさんってみどりって言うんですね」

 ゆかりは体育祭の時に松井まついと顔を合わせていたが、名字しか自己紹介しなかったので知らなかった。

「緑と縁。似てる」

 ゆえがぼそりと呟いた。

「あっちの名前はひらがなだよ」

「わたしが言うのもなんですが、不思議な繋がりのある名前ですね」

 興味深げにゆかりは言った。

 かたや漢字に直せば同じ漢字、かたや漢字に直せば似た漢字。

 そして同じ人を好意的に思っている。

 ゆかりは一度顔を合わせただけの松井まついに妙な親近感を抱いた。

「ゆかりさんの移動もあるし、俺達も帰ろうか」

 ヨスガが声をかけて帰路につく。

 昼食を摂った後、ゆかりはゆえと共にゆえの実家へと出て行った。

 ヨスガは三が日まで実家で過ごして寮に戻った。


人物紹介

縁堂縁:ヨスガ。吉。

結川ゆかり:末吉。

古淵ゆえ:中吉。

赤羽根秋:あかねちゃん。あかちゃんじゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ