表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/79

一年生四月:幼馴染み

 二人の読書の時間はサッカー部が休みの放課後に行われる。

 それとは別にヨスガが図書館に足を運べば大体結川ゆいかわがいるので自然と時間を共にする事が多い。

 二人が出会ってから十日ほど経った四月末。

 ゴールデンウィーク前の夕飯時に二人は雑談の花を咲かせていた。

 今日は練習後に図書館に寄って、そのまま夕飯を共にする事になった。

「そういえば縁堂えんどうくんは自炊しないんですか?」食後の緑茶を手で抱えながら結川ゆいかわが聞く。

 柏陽台はくようだい高校は寮に食堂があるが、自室のキッチンや家庭科室のような共同キッチンもあり自炊をする事も可能だ。

 また、自炊用の食材は、食堂で使用する食材と一緒に仕入れるため格安である上に、毎日五百円分の食品券が配布される。期限は当日限りではあるが、そもそも食材が安く買えるので、一食分が足りない事はまずない。

 食堂利用者はこの食品券で食堂を利用している。

 それに食品券は当日しか使えなくても食材は自室で保存ができるのでさらに安上がりにもできる。

「とりあえずゴールデンウィークに一度共同キッチンの使い心地を試してからかなぁ。同じ学校から来た腐れ縁に料理をせがまれてるから、そいつを実験台にするつもり」

 ヨスガがそう答えると、結川ゆいかわは感心した様子でヨスガを見る。

「部活もあって忙しいのに、すごいですね」

「まぁ、いつでも美味しい食堂に戻れるから気楽ではあるかな。どっちかと言うと自炊そのものよりも制限があるとはいえ格安で食材を使える事が将来的に困りそうだとは思った」

「そうですねぇ、わたしもこのシステムを母に伝えたら、かえって苦労しそうだと言われました」

 高校を卒業してから自炊をした時にこれまで使っていた食材の値段に愕然とする姿を想像して、二人揃って苦笑いをする。

 二人はすっかり打ち解けていた。

「ヨスガ」

 談笑する二人の背後からヨスガを呼ぶ声がする。

 ヨスガが振り返ると小柄な女子が立っていた。高いところで縛ったポニーテールが特徴的だ。一部は小柄ではない。

「ゆえ、どうした?」

 ヨスガは小柄な女子、古淵こぶちゆえに返事をする。

「いつご飯作ってくれるの?」

 ゆえは横に居る結川ゆいかわにお構いなしでヨスガに訊ねる。

「五月の頭かな」

「わかった。じゃ」ゆえはスタスタと去ろうとする。

「あのぉ……」結川ゆいかわがヨスガの方を見る。

「あぁ、ゆえはさっき話した腐れ縁だよ」

 そうヨスガが言うと、ゆえは足を止めてヨスガ達の方へ向き直る。

古淵こぶちゆえです。一年一組です。絵が趣味です。さっきはお邪魔かと思って自己紹介を遠慮しました。そこのヨスガとは小五くらいからの付き合いです。よろしく」

 結川ゆいかわに向かって自己紹介を済ませると、ゆえは結川ゆいかわをジッと見た。

「わたしは結川ゆいかわゆかりと言います。一年五組です。読書が趣味です。縁堂えんどうくんとは本の趣味が合って仲良くしてもらってます。よろしくお願いします」

 結川ゆいかわもゆえの自己紹介テンプレートに乗って自己紹介をし、ペコリとお辞儀をする。

「ヨスガとゆかり、か。良い縁がありそう」とゆえがこぼすと、

「それを言うなら縁堂えんどうくんと古淵こぶちさんだって縁故になりますよ。ゆえって縁故の故とも書けますし」と結川ゆいかわが返した。

 その返しにゆえはニッと笑って「気に入った」と握手を求めた。

「ゆかり、こいつは時々壊滅的にデリカシーが無い時もあるけれど、悪い奴じゃない。仲良くしてやってくれると嬉しい」

 グッと結川ゆいかわの手を握りながらゆえが言う。

「お前は俺のなんなんだよ」

「幼馴染みってやつでしょ」

 遠慮の無いやり取りをするヨスガに少しだけ面をくらいつつも、結川ゆいかわは心の中で憧れた。

「はい、古淵こぶちさんも改めてよろしくお願いしますね」

「ゆえって呼んで」

「え」

「おい初対面なんだから困らすな」

「じゃあ初対面じゃないなら良いって事だよね?二人は名前で呼ばないの?」

「へぇ!?」結川ゆいかわが鳴く。

「無理しなくて良いよ、コイツの距離感がおかしいだけだから」

 げんなりしながらヨスガがフォローする。

「心外。縁起が良い名前同士なんだから良いじゃん」

「それを言ったら名字だって縁結びで縁起良いだろ」

 そうヨスガが言うと、隣の結川ゆいかわが身もだえした。

 ヨスガはなんとなく居心地が悪くなって黙り込む。

 少しの間流れた沈黙を破ったのは結川ゆいかわだった。

「ヨ、ヨスガくん?」

 瞬間ヨスガの胸がドキリと跳ねた。ヨスガは異性からの名前呼びの破壊力を初めて実感した。思春期前からずっと名前呼びだった幼馴染みは例外である。

「ほら、ヨスガも」ゆえが急かす。

 ヨスガは深呼吸をするのがバレたら恥だと思い、出来る限り静かに息を整えていたが、バッチリゆえにバレていた。

 ゆえは面白そうにヨスガを眺めている。

 そうとは知らずに息を整えるミッションを完遂したヨスガは意を決して口を開く。

「ゆかりさん」

 ヨスガは顔から火が出そうだった。言う方もこんなにもドキドキするのか。

 目の前のゆかりはゆでだこになっており、横に居るゆえは満面の笑みだ。

「いいもん見た。ゆかり、連絡先交換しよ」満足したゆえは携帯を取り出しゆかりに言う。

「あ、はい。よろこんで」正気に戻ったゆかりが携帯を取り出しそれに応じる。

 その様子をヨスガが眺めていると、「あ、あの、ヨスガくんも交換しませんか?」とゆかりが提案してきた。

 そのやり取りにゆえが半目になる。

「なんだ、まだ交換してなかったのか」呆れながらゆえは自分の携帯を操作する。

 その間にヨスガとゆかりも連絡先を交換し終えた。

 ゆかりが携帯を操作しているのを確認してからゆえがヨスガにだけ聞こえるように「感謝しろよ」と呟いた。

 否定するのもムキになっているようで癪なので、ヨスガは無言で頷いた。

 結局ゆえがヨスガの自炊会にゆかりも来る約束まで取り付けて今日は解散となった。


人物紹介

縁堂縁:ヨスガ。名前で呼んで気恥ずかしい。

結川ゆかり:名前で呼ばれて嬉しい。

古淵ゆえ:ヨスガの幼馴染み。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ