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一年生十二月:年末年始②

「あれ、車出てる」

 家の前の駐車場に車が無い事にヨスガが気づく。

「買い出しじゃないんですか?」

「うーん、昨日一通り買ってたハズだけど。なんだろう」

 話している内にヨスガ達は家の前に到着した。

「ただいま」

 ヨスガが家の鍵を開けて声をかける。

「おかえりー遅かったね」

 奥にある台所の方から返事が聞こえてくる。

 ヨスガの母親だ。

「ゆえが公園で遊び出したからちょっと遅くなった」

 ヨスガは靴を脱ぎながら大声で母親に返事をした。

「じゃあしょうがないかぁ」

 ヨスガの母親も大声で返事する。

「どうぞ、上がって」

 ヨスガがゆかりの荷物を受け取り、来客用のスリッパを差し出す。

「おじゃまします」

 ゆかりは声だけ聞こえたヨスガの母親に少しドキドキしながら、その母親に聞こえるように挨拶をした。

「お、ゆえちゃんの声じゃない。って事は噂の結川ゆいかわさんね。いらっしゃい。遠慮せずに上がって」

 ゆかりは見えないヨスガの母親にペコリと一礼してからヨスガの側に寄った。

「ただいま~」

「おかえり~。もうちょっとしたらお昼だから待っててね」

 ゆえの気の抜けた挨拶に呼応するようにゆるい返事が返ってきた。

「ゆかりさん、洗面所はこっちだから手洗ってこよう」

 ヨスガに導かれてゆかりが洗面所に入る。

「ゆかりさんはこれ使って」

 ヨスガにゆかり用のタオルを手渡された。

 来客用のタオルとはいえ、ヨスガの実家に自分専用の物がある事に、ゆかりは妙にドギマギしていた。

 それをゆえは面白がっていた。

 三人揃って台所に入ると、ヨスガの母親が煮染めを作っているところだった。

「お母さん、こちらが結川ゆいかわゆかりさん」

 ヨスガが母親に声をかけてゆかりを紹介する。

「ヨスガがちゃんと人を紹介するようになるなんてちょっと感動してる」

「そういうのは茶化さない方が良いって聞いた事あるよ。そんな事はいいから、お母さんも自己紹介したら?」

 ぶっきらぼうに返事をして紹介を投げやりにするヨスガをゆかりは意外に感じた。

「ヨスガは他人行儀に紹介する素振りをまた茶化されるのが恥ずかしいんだよ」

 察したゆえがゆかりに耳打ちをする。

 ヨスガはジロリとゆえを睨むが、ゆえは意にも介さない。

「相変わらずだねぇ。では改めて。縁堂えんどうえみです。美しく笑う笑美です。もうおばさんだけどね」

「そんな、素敵な名前だと思います。結川ゆいかわゆかりです。こちらこそよろしくお願いします」

 ゆかりがぺこりと頭を下げる。

 その礼儀正しさに笑美は感心する。

「ヨスガにもゆえちゃんにも見習わせたい礼儀正しさだわ」

「え、ゆえさんはともかく、ヨスガくんはとても紳士的ですよ?お母様の前だと照れくさくてぶっきらぼうになってしまってるだけかもしれませんね」

 笑美の愚痴にヨスガがムスッとするや否や、ゆかりからのフォローと言う名の暴露に晒され、ヨスガは頭を抱える。

「ふーん、なるほど。なるほどなるほど」

「引きこもろうかな」

「引きこもったら二人に学校でのヨスガの様子を根掘り葉掘り聞くよ」

「お昼の用意しよっか」

 ヨスガは観念して、せめてもの抵抗に昼食を急かした。


 昼食には自分達で詰めたおせちと出来たばかりの煮染めが並んでいた。

 普段なら大晦日の夜からおせちに手をつけるが、ゆかりが昼から来るので今年は一足早くおせちに手をつけた。

「そういえばお父さんは?」

 ヨスガが車に乗って出かけたであろう父親の所在を訊ねる。

「すき焼きの材料買いに行った」

「え?」

 今夜の献立はすでに決まっていて、ヨスガの父親の地元の料理が振る舞われる予定だった。

「急にスイッチ入っちゃってね。まぁせっかくだから食べていきなさい。いくら寮で色々安く買って自炊できるとは言え、良いお肉を食べる機会は無いでしょ」

「やったーー笑美さんありがとう」

 ゆえが興奮気味に感謝を伝える。

「あ、ありがとうございます」

 ゆかりも続いて礼を言う。

「子供は気にしなくて良いのよ。ごちそうさまでした。片付けはヨスガに任せていいからね」

 笑美は自分の分の食器を片付けて二階の掃除に行った。

「ごちそうさまでした。ヨスガ、片付けよろ」

「ゆえは片付け方わかってるだろ」

 文句を言いながらも渋々ヨスガはゆえの食器を自分の食器に重ねて台所へ持っていく。

「わたしも手伝います。明日もお世話になるので、その度にお任せするのは申し訳ないです」

「ゆかりは客なんだからくつろぎながらヨスガの卒アルでも見てれば良いんだよ」

 ゆえはリビングに移動してソファでくつろぎながらテレビのリモコンをいじる。

「後半はともかく、俺もゆえと同意見だけど、ゆかりさんはそっちの方が居心地悪いよね」

「よくわかってるじゃないですか。さぁ、お片付けをして卒業アルバムを見ましょう」

 やれやれと思いながら、ヨスガはゆかりと共にテーブルを片付けた。


人物紹介

縁堂縁:ヨスガ。女性の比率が高くて居心地が悪い。

結川ゆかり:ヨスガの実家に緊張している。

古淵ゆえ:ヨスガの実家の間取りは把握している。

縁堂笑美:ヨスガの母親

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