一年生十一月:後夜祭⑤
風呂場で寝込む事も無くゆかりは部屋に戻ってきた。
ヨスガの部屋から取り出した黄色のTシャツに制服のスカートで帰ってきていた。
「ゆかりおかえり。髪乾かしてあげる」
ゆえはドライヤーを構えながらゆかりが座れるように布団にスペースを空ける。
「ありがとうございます」
あくびまじりにゆかりが礼を言い、ゆえの前に座る。
「こういうの憧れてました」
半分目を閉じながら、ゆかりはゆえのされるがままに風を浴びている。
ドライヤーの騒音と温かさと、ゆえの手つきでゆかりの頭は左右にこくりと揺れる。
その度にゆえが頭を支える。
「すごいふにゃふにゃ」
ゆえはドライヤーの音に紛れてゆかりの現状について呟いた。
「よし、ふわふわの髪の毛になった」
ドライヤーを終え、ゆえがゆかりの髪を堪能する。
ゆかりもゆえの髪に触れながら頭を揺らしていた。
「ゆえさんと同じにおいがして嬉しいです」
ゆかりは目を閉じていても笑顔でいるのが伝わるほどに上機嫌な様子だった。
「昔、ヨスガにも言われた。やっぱり似てるんだね」
ゆえの返答にゆかりは少しだけ目を開く。
「聞きたいです」
「このカプ厨が」
「なんですかーその言葉は」
ゆかりは間延びした声でにこやかに話す。
「ゆかりみたいな人の事を言うんだよ」
「賢くなりました。それで、ヨスガくんとの思い出を教えてください」
ゆえは煙にまくのを失敗した事を悟って渋々話す。
「小学校の時に私の家でお泊まり会をした時に同じシャンプーを使ったら、ゆかりと同じ事を言ったってだけ」
「ちょっと羨ましいです」
いくら眠気で自制が効かないからと言って、今日はやけに素直だな、とゆえは思った。
「今もお泊まり会でしょ」
「そうですけどぉ」
ゆかりは背後で髪を弄っていたゆえに寄りかかりながら押し倒す。
「こら、ここで寝るな」
ゆえが抗議するのを無視してゆかりはゆえの胸元に頭を乗せる。
「このえろがきめ。ヨスガと変わらないじゃん」
ヨスガが聞いたらゲンコツを落とされそうだなと思いながらゆえは言った。
「えへへ」
「褒めてない。えろがき同士一緒に寝なさい」
自分より大柄なゆかりをなんとか起こして、ヨスガがいるベッドに誘導する。
ヨスガは仰向けになっていて、静かに寝息を立ている。
ゆかりは言われるがままに目を閉じたままベッドに座り、足を上げてヨスガの横に寝転んだ。
ゆえはそれを確認し、二人に掛け布団をかけた。
ゆかりはヨスガの肩に寄り添うように陣取り、そのまま眠りについてしまった。
ヨスガもゆかりの高めの体温を感じて、導かれるよう横を向いて抱き寄せた。
ゆえは一仕事終えた達成感を感じながら、添い寝する二人をカメラに収めた。
「……なんかこれはこれでむかつく」
ゆえは一人呟いて、ゆかりとヨスガを跨ぐようにベッドを渡り、ヨスガの背中側を陣取って部屋の電気を消した。
ヨスガの背中を全身で触れるように抱きつきながらゆえも眠りについた。
朝、ヨスガは覚えのある香りで目が覚めた。
ゆえのシャンプーの香りだ。
まだ寝ぼけて頭が回っていない中、嗅覚だけが鋭敏になっているのを感じる。
匂いはベッドに充満しているように感じた。
眠っている間に何かを腕に抱いていた事に気づく。
ヨスガは抱き枕があれば抱きしめるタチで、ゆえもそれは知っていた。
眠っている間にゆえがヨスガのベッドに潜り込んで、それを抱きしめたのだとヨスガの寝ぼけた頭は結論づけた。
先に眠るとこうなるのか、と頭を抱えながら腕に抱いている少女を引き剥がそうとするが、脇の下を通ってがっちりと抱きつかれていて離れない。
目覚める様子も無く、ヨスガは仕方なく少女の身体に触れて起こそうとする。
呼びかけて起こす事は頭の中から抜けていた。
目を閉じたままのヨスガは触覚を頼りに少女の身体に触れる。
着ているのは通気性の高い薄手のTシャツだった。ゆえが普段ヨスガから強奪している衣服はスウェットばかりだったので意外に思った。
胸元を避けて背中の方に手を伸ばす。薄手のTシャツだからか、少女の熱を近くに感じてぽかぽかとした。寝ぼけたヨスガは、離れがたい温かさを感じていた。
さらに手を伸ばし腰から横腹に触れると、少女から反応があった。
ヨスガはこれ幸いと少女をくすぐる。
指を動かしていく内に、少女のTシャツが捲り上がっていき、ついにヨスガの指先が少女の素肌に触れる。
「んぅっ」
ヨスガの耳に湿っぽい吐息が届く。
指先からの布じゃ無い感触、耳からの湿っぽい吐息が刺激となって、ヨスガの頭は急激に目を覚ます。
ゆえが普段着ないTシャツ、ヨスガより高い体温、そしてゆえにしては背中が広い事に今さら気づく。
ヨスガが抱きしめているのはゆかりだった。
ヨスガはゆかりの脇腹に直に触れている指先から血の気が引いていくように感じた。
それなのに、ゆかりの体温がヨスガの身体を温め、ヨスガの温感はめちゃくちゃになっていた。
冷静になればなるほど、ヨスガの胸元にうずめられたゆかりの口から漏れる吐息の熱を感じて心臓が早鐘を打つ。
ヨスガはそっと手をゆかりの柔肌から離し、空中に彷徨わせた。
その結果、ヨスガの手が掛け布団で覆われた空間に穴を開け、室内の冷気を布団の中に取り込んだ。
取り込まれた冷気に真っ先に当たったゆかりがもぞもぞと動き出してヨスガの事をさらに強く抱きしめて頭をグリグリと擦りつける。
ヨスガはせめてもの抵抗に腰より下の密着を避けようと身体を反らす。
ヨスガが反らした足が背後に当たる。
ここに来てヨスガはようやくゆえが背後にいた事に気づいた。
ヨスガは軽い絶望感を覚えながら、夢であれと寝直したい気分だった。
結局、ヨスガはなんとか掛け布団を足で排除する事に成功し、室内の寒さでゆかりとゆえを起こした。
最後まで声をかけて起こす作戦は頭には無かった。
目覚めた時のゆかりの動揺は強烈で、ヨスガの比じゃないほどに心臓が跳ねていたのではないかとヨスガは思った。
あれだけヨスガの胸に密着していたのもあって、ヨスガの胸元が呼吸による湿気で湿っていたのをゆかりが確認した時は、前後不覚になってヨスガからTシャツを剥ぎ取ろうとしていた。
ヨスガは落ち着いたゆかりに追い打ちをかけるようにゆかりを起こすために身体に触れていた事を告白し、謝罪した。
ゆかりは掛け布団に少しの間包まり、恥ずかしさを発散していた。
ヨスガはゆえに「こういう時のバカ正直さは良くない」と強めに窘められた。
すべての元凶であるゆえは、罰として一人で来客用布団を片付けさせられた。
その頃にはヨスガもゆかりも落ち着いており、少しばかりギクシャクしつつも、布団を片付けるゆえを見ながら愚痴をこぼしあっていた。
今日ばかりはゆえも反省して口答えをしてこなかった。
人物紹介
縁堂縁:ヨスガ。えろがき。
結川ゆかり:えろがき。
古淵ゆえ:えろがきにえろがきを抱かせた。




