一年生十一月:後夜祭②
二人はいつもの屋根付きのベンチまで逃げて、ようやく一息ついた。
「怖かった」
ヨスガが呟く。
ゆかりも苦笑いをしながら同意する。
「後夜祭が一段落して、二人の時間を作りに来たんでしょうね」
「全然気づかなかったなぁ……」
ヨスガは気づくきっかけになった甲高い声が発せられた理由について意識的に考えなかった。
二人はベンチに腰かける。カップルの声は聞こえず、フォークダンスの曲がBGMになる空間に帰ってこれて、ヨスガはホッとする。
「ブランケット、いります?」
ゆかりが先ほどまで使っていたブランケットを取り出そうとする。
「いや、今心臓バックバクで暑いから大丈夫」
ヨスガは胸に手を当てながら返事をする。
「そうですね、わたしもちょっとまだ落ち着かないです」
多数の男女の情事を目にしてしまった事に加えて、他人からしたら自分達もその一部だった事にゆかりは顔から火が出そうだった。
「そういえばそろそろ後夜祭の予定にある催しは終わりかな。食べ物かき集めてゆえを迎えに行くか」
時刻は二十一時を回っていた。
後夜祭の表向きのイベントはすべて終了し、一応の解散時刻である。
この後も体育館と校庭は開放されており、思い思いに過ごすのが慣習になっている。
ヨスガもゆかりも、ジッとしていたままでは落ち着かなかったのでやる事を作ろうとヨスガは思った。
「そうですね」
ゆかりもヨスガに同意し、ベンチから立ち上がる。
しかし、ゆかりはベンチのあるスペースの少し前の空間を見て動きを止める。
「あの、ヨスガくん」
ゆかりが遠慮がちに声をかける。
ヨスガはゆかりに顔を向けて先を促す。
「最後に一曲踊りませんか?」
ゆかりが指の腹を合わせるようにして手を合わせながら提案する。
「フォークダンスって二人でできるんだっけ」
「そこはまぁ気合いと言うことで」
ヨスガが純粋に疑問をぶつけると、ゆかりは根性論を掲げた。
ヨスガはその返答に笑い、共に踊る事を了承した。
ゆかりがヨスガの前に立つ。
「池袋で相合い傘した時みたいだね」
ヨスガが雨の池袋での出来事を思い出す。
「わたしも同じ事考えていました」とゆかりが返事をした。
ヨスガはその事が無性に嬉しく感じた。
ゆかりが背後のヨスガに届くように手を後ろに伸ばす。
ヨスガはその手を握る。
これまでヨスガは、ゆかりに手を包まれた事はあっても手を握り合う事は無かった。
ゆかりの手の柔らかさや華奢さを実感する。
先ほどまでの身体接触よりも遥かに触れ合う面積が小さいのに、肩を寄せ合っていた時よりも心臓が煩かった。
ゆかりと共に一歩を踏み出しダンスを始める。
ヨスガもゆかりも手の感触に意識が向いていて、たどたどしくなる。
ゆかりが反転してヨスガと向き合い目が合うと、お互いに照れくさそうに笑った。
手から伝わる熱が妙に熱く感じる。
同じフレーズを五周したところでスピーカーから鳴る音楽も止まり、二人だけのフォークダンスは終わりを告げた。
「ありがとうございました」
ゆかりが熱に浮かされながらヨスガに感謝する。わかりやすく上気していた。
「こちらこそ。短かったけどゆかりさんの足を踏まなくて良かったよ」
ヨスガも頭を掻きながら無事にダンスを終えてホッとする。
たくさんのカップルが二人きりになりたくなるのも納得だ、とヨスガもゆかりも自分の心臓の煩さを感じながら思った。
思ったけれど口にする事は無かった。
「さて、食料確保に行きましょう」
ゆかり達は気を取り直して食事の置いてある食堂へと向かった。




