一年生十一月:文化祭二日目②
ヨスガの仕事が終わり携帯電話を見てみると、ゆかりから待ち合わせ場所の連絡が来ていた。
すっかり恒例となってしまった屋根付きのベンチだ。
ヨスガは途中で軽食を買い集めながらゆかりの元へ向かった。
文化祭で学校中が賑わっていてもベンチの周りは閑散としていた。
ゆかりはベンチに腰かけて小説を開いている。
「お待たせ」
ヨスガが声をかけるとゆかりは顔を上げて微笑んだ。
「お疲れ様です。ってたくさんご飯買ってますね」
ゆかりがヨスガの両手に提げられた食事に気づく。
「お昼時だから一応ね。腹ごしらえしてからステージの方を見れたら良いかなって」
ベンチに軽食を広げる。
「焼きそばに焼きトウモロコシですか。良いですね。お祭りって感じです」
「甘い物とかも買おうかと思ったけど、とりあえずお昼だからね。焼きそばは二つあるけど、この後も食べるかと思って焼きトウモロコシは割って分けるつもりで一本だけ買ってきた。俺が折るから、ゆかりさんが選んで」
ヨスガがゆかりに選択権を譲る。
「平等なケーキの切り分け方みたいな話ですね」
ゆかりが半分に割れた焼きトウモロコシを吟味をしながら雑談する。
「二人でケーキを分ける時、切らなかった人から切り分けたケーキを選ぶ、ってやつだっけ。」
「そうですそうです。いつ聞いたかわからないんですけど、妙に印象的で覚えているんですよね」
ゆかりはそう言いながらヨスガの手から焼きトウモロコシを受け取る。
「綺麗に折れましたね。どっちが大きいか悩んじゃいました」
大きい方の焼きトウモロコシを狙っていたゆかりが微笑ましく、ヨスガは顔を綻ばせる。
「なんですか、食い意地が張ってるとでも思っていそうですね?」
ヨスガの態度に不服さを示しながらゆかりが抗議する。
「いやいや、たくさん食べるのは良いことだよ。微笑ましいなって思ってさ」
「ちっちゃな子供みたいな扱いですね。昨日のために少しだけダイエットしたりしたんですよ?今日はチートデイってやつです」
普段のゆかりからはあまり聞かない言葉を耳にしてヨスガは返答に悩む。
悩んでいる間に、メイド姿はヨスガに見せるつもりだった事も思い出す。
自分のためにダイエットに臨んでいた事に気づきヨスガは照れくさくなって黙ってしまった。
「一人で自己解決して照れないでくださいよ」
つられてゆかりが赤面する。
「ごめん。月並みな事を言っても良くないって事くらい俺でも理解してるから、頭の中で返答がぐるぐる回ってた」
ゆかりはゆえと違って身体のラインが見える服をあまり着ないのもあって、ヨスガにはダイエットによる変化が理解できていない。
だからと言ってそれをバカ正直に伝えるほど考えなしでもなかった。
とはいえ、お手上げなので自身の心情については白状した。
「そんな事だろうと思いましたよ。普段はスカートも長いですからね」
ゆかりは見せつけるようにスカートから覗く足をパタパタと動かした。
ヨスガは露骨に視線を逸らす。
その様子にゆかりは満面の笑みを見せる。
「まぁ、普段から散歩したりしてるんでそんなに頑張る事も無かったんですけどね」
「ずっと図書館にいるものかと思ってたよ」
読書と両立し得えない習慣にヨスガは少し驚きつつ反応する。
「大体は夜に少し歩いてるくらいですけどね。ゆえさんのお見舞をした夜にたまたま会ったじゃないですか」
ゆかりの説明にヨスガは合点する。
「まぁ、後はヨスガくんが部活をやっている時間帯に散歩したりもしてますね。実はこっそりヨスガくんの練習を見てる日もありますよ」
「え、そうなの」
突然のカミングアウトにヨスガは動揺する。
「遠目にですけどね。あれだけ動いた後に、図書館でお喋りしたり、ご飯を一緒に作ったりしてすごいなって素直に尊敬してますよ」
ゆかりは言葉通り素直な気持ちでヨスガを褒める。
「褒めても何も出ないですよ」
ヨスガがそっぽを向きながら返事をする。
「いえ、今とても良い反応を貰っています」
ゆかりのぶれない態度にヨスガは「無敵かよ……」と悪態をついた。
「追い打ちをかけても良いですか?」
「もう勝手にどうぞ」
ヨスガは投げやりに応える。
「結局、いつも通り散歩をしていたらあっさりダイエットの目標達成しちゃったんですよね。どうしてだと思います?」
ヨスガは少し考える。
「絵のモデルで姿勢が良くなっていたとか?」
「いいえ、わたしは写真を撮られたくらいで、ゆえさんの目の前でポーズを取って描いてもらうような事はしてないです」
「だよなぁ。そもそもゆかりさんが本読んでる時の姿勢って綺麗だもんな」
ヨスガの突然の賞賛にゆかりはうろたえる。
「なんですかもう。褒めても何も出ないですよ」
ついさっきヨスガがゆかりに使った言葉をゆかりが使ったのを見て、ヨスガは少し笑う。
「そしたらご飯かなぁ。というか今日はチートデイって言ってたし」
「準備期間は学食で済ませてましたね。いつも学食で食べているものと同じ量を食べてました」
ゆかりの回答にヨスガは首を傾げる。
ゆかりが学食で食べる量はヨスガと大差無い。
ヨスガは練習直後に間食をしており、一日の食事量自体はヨスガの方が多いのだが、それでも量としては多めであり、ゆかりの健啖ぶりにはいつも感心している。
「ヒントはヨスガくんです」
首を傾げるヨスガにゆかりがヒントを授ける。
「ん?俺の料理って事?」
ヨスガが思ったままに呟くと、ゆかりは頷く。
「正解は、ヨスガくんの料理を食べなかったからでした」
「……ご用命であれば低カロリーとかの料理も作ろうか?」
ヨスガはゆかりの答えに対して慎重に訊ねる。
ゆかりが縁堂家の味付けをいたく気に入っているとは言え、頻繁に食べるのは良くなかったかとヨスガは反省した。
「いえいえ、そういう事ではなくて、学食だと決まった量しか提供されないじゃないですか。
ヨスガくんとゆえさんと一緒に自炊する時は、おかわりもできちゃってついつい食べ過ぎちゃうんですよ」
ゆかりは照れくさそうに笑いながら言う。
ヨスガは答えを聞けてホッとした。
「なるほどなぁ」
「ヨスガくんの料理が美味しいのが悪いです」
楽しそうにゆかりはヨスガを責める。
「それは光栄だなぁ」
「わたしがダイエットするのも、毎日図書館に住み着いているのも、ヨスガくんのせいですからね」
ゆかりが夜の散歩でのやり取りまで引き合いにだしてヨスガを責める。
「縁堂ヨスガって奴は相当なワルだな」
ヨスガはふざけて他人事のように返事をする。
「そうです、ワルなんです」
ゆかりもそれに乗る。
「作る量減らそうかな」
「それはダメです。あんなに美味しいモノが減るなんてもったいないですよ」
ヨスガの真面目な提案をゆかりが即座に却下する。
「これで食い意地が張ってないは無理があるよ」
ヨスガは苦笑いをしながらツッコミを入れる。
「うぅ、悪ノリが過ぎました。でもやっぱり美味しいのは正義で罪です」
ゆかりは俯くフリをしながら開き直り、焼きそばを手に取る。
それが食事の合図になって、二人は黙々と食事を始めた。
人物紹介
縁堂縁:ヨスガ。いっぱい食べるゆかりに好印象。
結川ゆかり:ヨスガのご飯が大好き。




