一年生十一月:文化祭一日目④
文化祭のパンフレットを二人で見ている間に文化祭初日が幕を閉じる。
「あ、もうこんな時間ですか。着替えてきますね。ヨスガくんはこの後クラスに戻りますか?」
ゆかりがこの後のヨスガの予定を訊ねる。
「いや、このまま帰るつもり。うちは皆やる気ない分省エネで運営できるから、片付けだけ担当して文化祭を堪能するやつらもいるんだよね。俺は明日も午前中あるけど」
「そしたら夕飯ご一緒しませんか?すぐに着替えてくるので!」
ゆかりは立ち上がり談話室から出ようとする。
「ゆっくりでいいよ。転ばないようにね」
ヨスガはゆかりを座ったまま見送る。
二十分ほどしてゆかりが戻ってきた。
黄色のクラスTシャツと制服のスカートに身を包んでいる。
ヨスガはゆかりのスカートに目が吸い込まれる。
普段のゆかりよりもスカートがずっと短く、立っている状態でも膝が見える。
ゆかりがその視線に気づかない訳も無く、ゆかりは恥ずかしそうにスカートの前で手を組んだ。
「お待たせしました。あの、これはクラスメイトの女の子にお祭りだからと短くするように迫られたのを断れなくて……」
ゆかりの恥じらう姿にヨスガはドキリとする。
ゆかりのクラスメイトの女子に感謝をした事だけは絶対に悟られてはいけないと思った。
「いや、新鮮だなってオモイマシタ」
ヨスガは言葉選びに迷って片言で反応してしまう。
お互いに照れ臭さから黙り込んでしまう。
「あの、今日も終わりだし、スカートの丈戻してもクラスメイトに突っ込まれないじゃないかな」
ヨスガがなんとか提案をする。
ゆかりは組んだ手をギュッと握って上目遣いにヨスガを見つめる。
「わたしも丈を戻そうと思ったんですけど、その、メイド姿になれて舞い上がってしまって……。
ヨスガくんが見たらどう思ってくれるかなって気になってしまって」
ゆかりはヨスガから視線を逸らして俯いた。
ヨスガは天を仰ぐ。
「あ~、その。正直言ってものすごくドキドキしてる。普段と違う姿なのも、それに恥じらっている姿にもドキドキしてる」
何を言ってもセクハラめいてしまうのではないかという懸念を一度ねじ伏せて、ヨスガは正直にゆかりへ感想を伝えた。
ゆかりはパッと顔を上げてヨスガを見つめる。
今度はヨスガが気恥ずかしくなって目を逸らす。
「恥じらいにドキドキするのはちょっといやです」
ゆかりは小さな声でヨスガに文句を言った。
実際のところは全く嫌では無かった。
「それは本当にごめん」
ヨスガは素直に謝る。
「許します。明日もこの服装なので覚悟してください」
ゆかりも気を取り直してヨスガをからかう。
「覚悟してきます」
ヨスガもそれに乗って軽い口調で返す。
「さぁ、帰りましょう」
ゆかりが声をかける。
ヨスガも立ち上がり、荷物を持って談話室の外へ向かう。
その隣にゆかりがピタリと寄り添う。
ヨスガがゆかりを見下ろすと、ゆかりもヨスガを見返した。
「同じ視線も良かったですけれど、この身長差の方が安心感ありますね」
ゆかりが口を開く。
「俺もこっちの方がしっくりくるな」
ヨスガも同じ感想だった。
図書館を出て、二人は寮へと向かう。
「ヨスガくんってむっつりだったりします?」
ゆかりの問いかけにヨスガが思わず吹き出した。
ヨスガは頭を抱えながら考え込む。
「否定したいところだけれどさっきの今で否定できないな……」
ヨスガが苦々しく答えると、ゆかりがにこやかに笑う。
「そうですよね、ゆえさんにドキドキした話をしてくれた時も一度は否定してましたもんね」
ゆかりが過去のやり取りも引き合いに出して追撃する。
「結論ありきで質問しないでくださいますかね?」
羞恥心にヨスガが頭をかく。
「恥じらうヨスガくんを見てみようかな、と思いまして」
楽しそうにゆかりが返す。
その態度にヨスガは余計に恥ずかしくなる。
「ゆえに似てきたなぁ」
ヨスガはここにいない幼馴染みの傍若無人さを思い出しながらぼやく。
「この一ヶ月大体一緒にいましたからね。ヨスガくんもゆえさんにしているみたいに私を扱って良いんですよ?」
ゆかりがさらに追い打ちをかける。
ヨスガは呻く。
「ゆえが増えたら手が付けられないからそのままでいてほしいかなぁ」
久しぶりに二人で歩く帰り道を二人は存分にじゃれあいながら帰った。
夜、ゆかりはベッドでヤドクガエルのぬいぐるみを抱きながら横になっていた。
メイド服から着替えた時にスカートを短いままにしてヨスガの元に向かった事の反省会が頭の中で開催されている。
あの時のゆかりは浮かれに浮かれていた。
ヨスガと文化祭を回る約束を取りつけて、メイド服姿を褒めてもらって、舞い上がるに決まっているじゃないかと頭の中のヨスガにプンプンと八つ当たりする。
スカートの丈だって、他のクラスメイトと比べれば全然控えめな短さだったが、それでもヨスガの視線で顔から火が出そうだった。
「どうしてあのスカートで戻っちゃったんだろう」
ぬいぐるみをギュッと抱きしめ顔を埋める。
「うーー嬉しいけど、けど」
ゆかりは呻き続ける。
ヨスガと久しぶりに二人でいられて幸福だった。
ヨスガにドキドキしてもらえて嬉しかった。
ヨスガとゆえがお似合いだと思っている理性とは裏腹に、ゆかりの感情はヨスガとの時間に昂揚していた。
時間があればゆえと過ごしていた一ヶ月間はとても充実していた。
ヨスガと共にした今日の数時間は満ち足りていた。
どちらもゆかりにとってかけがえの無い時間だった。
どちらも失いたくない。
そう思いながらも今日、ヨスガがかけてくれた言葉の数々が頭の中を巡る。
そんな思考のループに蓋をして、ゆかりはゆっくりと目を閉じた。
人物紹介
縁堂縁:ヨスガ。やっぱりムッツリスケベ。
結川ゆかり:青春浮かれポンチ。




