一年生十一月:文化祭一日目①
十一月に入り、文化祭初日となった。
文化祭は二日間行われ、初日は身内で開催し、二日目は生徒の家族などが参加する。
ヨスガのクラスは射的に輪投げ、ヨーヨー釣りが用意された屋台を教室に作った。
ヨスガ達一年二組の全員がやる気無く取り組んだ結果ではあるが、その緩さが逆に休憩所として受けが良かったようで朝からそれなりに賑わっていた。
ヨスガは水色のクラスTシャツを着て射的の案内をしている。
そこに赤いクラスTシャツにジャージを羽織ったゆえがやってきた。
「よ、大将。やってる?」
ゆえがのれんをくぐるジェスチャーでヨスガに近づく。
「やってるよ。ほいピストル」
ヨスガは割り箸製のゴムピストルを手渡す。
コルクを飛ばす本格的な射的用の銃なんてものはやる気の無い一年二組の教室には無い。
ゆえがゴムピストルを受け取り構える。弾は三発。
結果は二発外して最後の一発で的を倒した。
「はい、参加賞のラムネ」
ヨスガがゆえにラムネを手渡す。
「いぇい。ヨスガはまだ仕事?」
「あと十分かな。適当に時間潰してな」
ヨスガが答えるとゆえは頷いて教室を後にした。
残されたヨスガは半分生温かい目で見られ、半分嫉妬の視線に晒された。
ヨスガが当番を交代して教室を出ると、ゆえが団子を片手に待っていた。
団子は醤油が塗られた状態で焼かれており、香ばしい匂いが食欲をそそった。
「おつかれ。あげる」
ゆえはヨスガに団子を手渡し、自分の分の団子に手をつける。
「ありがと」
ヨスガも団子にかじりつく。口内に醤油のしょっぱさと香ばしさが広がった。塩味が身体に染み渡る。
二人でその場で団子を食べていると、一年一組のお化け屋敷から女子が近づいてきた。
「ゆっこ」
一足先に団子を食べ終えたゆえが声をかける。
「おつー、ゆえ。縁堂くんもお疲れ様。ウチに入ってかない?」
ゆっこと呼ばれたゆえのクラスメイトは、ゆえとヨスガを自分たちの出し物に誘う。
「私は内容知ってるからパス。ヨスガどうぞ」
お化け屋敷にイラストで大いに貢献したゆえは、ゆっこの誘いを断りヨスガに押しつける。
「俺も遠慮しとくよ」
ヨスガも遠慮する。
「え~なんで?」
ゆっこが不満げに訊ねる。
「自惚れじゃないと断言して言うけど、ゆえのファンで俺の事が嫌いな奴らに何されるかわからないから」
苦々しげにヨスガが言う。
ヨスガは普段からゆえといると嫉妬の視線に晒されている。
「あぁ~まぁそれは、うん諦めて?」
ゆっこも納得しつつも食い下がる。
「ヨスガは私が一生懸命描いたイラストを見たくないの?」
ゆえがゆっこに加勢する。ゆっこも「そうだそうだ-」と乗りかかる。
それを言われるとヨスガは弱い。
ほんの少し考えこんで、ゆえが説明してくれるならと言う条件付きで入室を承諾した。
「暗闇で二人きりなんて大胆だねぇ」
ゆっこの言葉にヨスガは失策を自覚したが、ゆえの作品を見る事の方が大事だと思い直した。
お化け屋敷もとい音声ガイド付きゆえ美術館は二十分程で終わった。
おどろおどろしいBGMも関係なしに、ヨスガはゆえに感想を伝え、ゆえはヨスガに解説をしていた。
スタンバイしているお化け達が脅かしてもお構いなしに二人は会話を続ける事から、最後には誰も脅かしにこなくなった。
「だいまんぞく」
ゆえはツヤツヤになりながらお化け屋敷から出てきた。
ヨスガも同じ気持ちだった。
二人ともお化けが眼中に入っていなかった。
「う~ん、二人で入る場合はもう出禁かな」
ゆっこは苦笑いしながらヨスガ達を見送った。
人物紹介
縁堂縁:ヨスガ。ゆえの絵が好き。
古淵ゆえ:ゆえ美術館館長。
ゆっこ:未だに本名をヨスガは知らない。




