一年生九月:体育祭①
夏休みを終えて新学期が始まった。
ヨスガのクラスも無事に文化祭の出し物の方向性が定まり、直近に行われる体育祭へ士気が上がっている。
ヨスガの主な出番は全員参加の徒競走にクラス対抗の大縄跳び、棒倒し、騎馬戦の土台だ。
授業の合間に練習を重ね、予行練習も終えて決戦前夜、ヨスガはゆえに運動会での勝負について念押しした。
「私達が勝ったらヨスガの部屋に突撃、ヨスガが勝ったらゆかりの事好きにして良いよ」いきなり爆弾を落としてきた。
ゆかりも寝耳に水だった。
「せめて二人の意見を揃えてください?」
ヨスガがジト目でゆえを責める。
「大体、ちゃんと事前に伝えてくれれば二人が来るのは全然歓迎するんだけどな」
ヨスガが続ける。
ゆえはもちろん、この数ヶ月の交流でゆかりもすっかりヨスガの中で身内になっていた。
その言葉にゆかりは心の中でニヤニヤとしてしまう。顔に出ないように必死に口角のコントロールを試みる。
「むぅ、張り合いが無い」
不満げにゆえが文句をたれる。
「勝敗関係なくお疲れ様会を俺の部屋でやれば良いだろ」
ヨスガがゆえに提案する。
すでにヨスガの中では二人を自室に迎え入れるつもりでいた。
「い、良いんですか。二人の愛の巣なのに」
ゆかりはヨスガの入室許可に動揺して妄想ダダ漏れの言葉を漏らしてしまった。
ヨスガは呆れながら「俺の部屋であってゆえの部屋じゃないです」と訂正した。
ゆかりは恥ずかしそうに俯いた。
「ゆかりは時々おもしろくなる」
ゆえが追い打ちをかける。
「仕方ない、お疲れ様会で手を打つ」
続けてゆえは勝負を無かった事にした。
ゆかりは自分が賭けの景品から解放されてホッとした。
翌日、快晴の空の下、体育祭が開催された。
白組のヨスガは徒競走に棒倒しを終えて応戦席で休憩している。
今は女子の騎馬戦が行われていた。
ゆえとゆかりは紅組で出場している。
騎馬は同じクラスで基本的に作っているが、ゆえがわざとあぶれてゆかりと一緒に騎馬を組んでいた。
長身のゆかりが騎馬の前部、ゆえは騎手を担当していた。
ゆえ達の騎馬は八面六臂の大活躍で、ゆえの手にはたくさんの戦果が握られていた。
ヨスガがその様子を眺めていると、ゆえと目が合う。
ゆえは得意げに腕を掲げてヨスガにアピールしていた。
「お前の嫁は大活躍だな」
ゆえを眺めていたヨスガの横に同じクラスでサッカー部の氷室が声をかける。
「違うって言ってるだろ」
うんざりしながらヨスガは言い返す。
この数ヶ月でクラスや部活以外でもヨスガとゆえの親密具合は浸透していた。
主にゆえが自由に振る舞って目立つと、その流れでヨスガとの関係も噂として広まっている。
ヨスガ主体の噂ではないので、ゆかりと親しい事はほとんど知られていない。
「へいへい、ていうか騎馬になってる子もヨスガの知り合いじゃん」
芸術鑑賞会の朝の事を氷室は思い出していた。
話の流れでヨスガからショートショートを勧めてもらったのもあって、他クラスの生徒でありながら覚えていた。
「なんかゆえがわざとあぶれて無理矢理組んだらしい」
「自由過ぎるなぁ。よく嫌われないもんだ」
氷室は感心しながら言う。
「少なくとも一組の生徒は全員ゆえを気に入ってるだろうから、そういう無茶も利くんだろうな。まぁ、別クラスには嫌う奴もいるだろ。良くも悪くも目立つし」
率直な意見をヨスガは言う。
小学校時代はともかく、生徒数の増えた中学時代には実際に別クラスで嫌っている女子がいた事をヨスガは思い出している。
「なるほどね、棒引きの時も小柄な古淵さんに対してやたら人数かけて引っ張ってたのはそういう面もあるのかねぇ」
ヨスガは棒倒しの前に行われていた女子の棒引きを思い出す。
確かに紅組のゆえが引く棒にはやたらと白組の女子が多かったような気がする。
「いやまぁ取れそうな棒に集まるのは普通ではあるけどな。さすがに先入観が出てるよ」
ヨスガは冷静に反論する。
「それもそうだ。我が軍の女子は戦略的で助かるねぇ」
氷室も考えを改めて自軍を賞賛した。
女子の騎馬戦が終わり、男子の部に入る。
ヨスガはゆかりと同じく騎馬の前部として参加し、崩される事もなく仕事を全うした。




