一年生八月:三人でお出かけ①
期末テストも無事に終わり、季節は本格的に夏へと移った。
夏休みに入ってしばらくして、ヨスガとゆかりはゆえから招集がかかった。
「十年近く前のライトノベルの画集を東京に探しに行きたい」
ゆえの目当ては地方都市が舞台の恋愛小説の挿絵を担当したイラストレーターが刊行した画集だった。
「別に良いけど、取り寄せとかネットじゃだめなのか?」
「自分で探して見つけたいお年頃」
ヨスガが至極真っ当な質問をするも、ゆえ節の効いた返答が返ってくる。
「一緒に遊びに行きたいからそれの目的も兼ねてる」
ゆえが説明を続けると二人も合点した。
「良いですね、わたしもその画集気になっていたんです。書き下ろし小説が入っているんですよね」
ゆかりも乗り気になる。
ヨスガはゆかりがライトノベルにも明るい事に少しだけ驚いた。
「ゆかりさんもラノベ読むんだね」
「読みますよ。図書館には置いてませんもんね。実は、わたしの部屋に置いてある自分の小説は大体ライトノベルだったりします」
ライトノベル以外の小説は実家に置いています、とゆかりは続けた。
三人の休みの日をすり合わせ、三日後に行く事になった。
画集探し当日、三人は新御茶ノ水駅に降り立った。
ヨスガはチノパンにTシャツを着て、今回はちゃんとスニーカーで足下を固める。ゆかりは白のシャツにベージュのワイドパンツにスニーカーに身を包んでいる。
そしてゆえはTシャツを腰のあたりで絞り、ショートパンツにスニーカーで足下を固めている。絞られたシャツに強調された胸や、惜しげも無く晒された太ももがヨスガの目に毒だった。
「寒かった……」
地上に降り立ったゆえは開口一番呟いた。
冷房の効いた電車内で盛大に凍えていた。
ヨスガはこうなる事がわかっていたのでジャケットも用意していた。
ヨスガのジャケットに身を包んだゆえは袖を余らせて愛らしかった。
その姿にゆかりは萌えに萌えた。
「温まるまではそのまま羽織ってていいからな。店の中も冷えるだろうし」
ヨスガがそう言うとゆえは「うん」と返した。ヨスガから見えない角度でゆえが上機嫌にしている事をゆかりは見逃さなかった。
「まずは近場の書店に行きましょうか」
ゆかりが先導して大型書店へと向かった。
最初の書店は空振りだった。
早々に退散し、早めの昼食にカレー屋に入る。
「ここと同じビルの古書店には寄る?」
カレーライスを待つ間、ゆえがこの後の予定を確認する。
「寄っていいなら生物系のお店には寄りたいかな」
「わたしもそこは気になります」
ヨスガとゆかりが要望を伝える。
「もちろん、私だけ好き勝手するのは良くない」
「オッケー、じゃあ食べたら上に行こう」
配膳されたカレーライスをいつも通り黙々と食べる。
白のシャツで来たゆかりは紙エプロンに身を包み食事をする。
想像よりも辛かったようで、ゆえは水をがぶ飲みしていた。
カレー屋からワンフロア上の古書店には様々な動植物系の本やスケッチが並んでいた。
ヨスガにとっては宝の山だった。
ニッチな水棲生物の図鑑が特に気に入ったが、ニッチなだけあってヨスガが興味本位で買うには手が届かなかった。
気を取り直して物色をしていると、B5サイズのクジラの写真集が目に入る。
新品同様の見た目で何冊も平積みされている。本に記載された定価の三割ほどの値段でヨスガにも手が届く値段だった。
ヨスガがその本を購入し、三人は店を後にした。
三人は秋葉原方面へと歩みを進める。
夏真っ盛りの青空は容赦なく三人の肌を突き刺す。
ゆかりもゆえも折りたたみの日傘を取り出して開く。
「ヨスガも入る?」ゆえが日傘を差し出す。
「二人も入れないだろ。ジャケットも返してもらったしこれで日差しは遮るよ」
ヨスガはゆえが着ていたジャケットを羽織る。
身体が冷えていた間だけ羽織っていたとはいえ、少なからず汗はかいている。
ふわりとゆえのにおいがジャケットから香り、ヨスガは思わずドギマギしてしまう。
「えっち」
ヨスガの動揺をゆえは見逃さない。ヨスガはさらに心拍数が上がり汗が噴き出るのを自覚する。
「帰りに貸してやらねぇぞ」
恨みがましくゆえを睨む。
「許して?」
ゆえは上目遣いにヨスガを見つめておねだりをする。
「いいよ許すよ」
ため息まじりにヨスガは許す。
その様子をゆかりは満面の笑みで眺めていた。




