第五話 転生者の悩み
魔物の討伐任務は基本パーティで受けるものだ。ソロでの討伐任務は魔物との戦闘も大変だし、それまでの行程や討伐後の処理も一人でやるのはなかなかに辛いものがある。
それでも俺はあえてソロで任務を受けることがある。『真紅の鴉』のメンバーは他のパーティにも所属しているセタールと他の仕事と掛け持ちしているルキッドと毎日安定して揃うわけじゃないのが理由の一つだ。
他にも、時々一人になりたいだとか、俺にメンバーを集める人望がないとか色々事情が重なってソロ任務を受けることがある。
「というわけで、今日はソロでお願いします」
「一応確認致しますが、パーティを組んでやりませんか? ギルドの規則的には問題はないですが、当支部では討伐任務はパーティで臨むことを推奨しています」
ギルドの受付嬢であるミルダさんが定型句を読み上げるように言った。ソロで任務を受注する度に言われるため、確認するのが義務なのだろう。
このルロイド王国にはそれぞれの都市にギルドの支部があるが、その支部ごとに運用方針が違うらしい。ここ新都ではパーティで任務にあたることを勧めているが、他の支部でも必ずそうというわけでもない。新都は経済的に発展した都市で人の流入が多い。俺もその一人だしな。人が多いからパーティの推奨ができるが、地方の人手不足の支部ではそんな悠長なことはいってられず、ソロでやらないと回らない支部もある。かつて俺が拠点にしていたギルドはそうだった。
……そのおかげでソロでの討伐に慣れることができたのは幸いだったかもしれないが。
「エレキモールはソロの方がやりやすいんですよ。居場所がわかりやすくなって、相手の狙いが分散しないですから」
「かしこまりました。くれぐれも気をつけてください」
慣れたやりとりをして任務の受注にこぎつける。戦闘での相性がいいという理由をこぎつけていくつかの魔物はソロで討伐している。あまり手広くやると不用意に目立ってしまうので限られた種類と数にしているが。
こうやってソロで任務を受注していると、周囲の冒険者たちの「あいつ、また一人で行くのか」という視線がちらほらと刺さる。心配する人や嘲笑する人、色々な人がいるが要はソロだと少し目立つ。ソロ専の冒険者なんていたら一躍有名人になれるかもしれない。
今回の討伐する魔物はエレキモール――要するに電気属性のモグラだ。その行動はモグラに似通っており、基本的に地中に潜んでいる。それだけなら無害なのだが、人の気配を感じると地上付近にまで上がってきて、足元から雷攻撃をしてくる。エレキモールの接近に気づかなかったら即大ダメージという暗殺みたいなことをしてくる魔物だ。
単体なら何とか対処できるが、他の魔物と戦っている時にも漁夫の利を狙うかのように現れるのがいやらしい。昔、同じカッパーの冒険者がエレキモールにやられたことがある。地中から突然雷撃を受け、気づいた時には足が焼け焦げていたらしい。
人目のつかない地中に潜むという特性上、討伐依頼がでにくい魔物だが、春先だけは繁殖のため番や子とまとまっていることがある。そうすると、いつもは残さない痕跡が目立つようになり討伐依頼として俺の下に届いたということだ。
念入りに装備品や荷物を確認する。ソロだと何か忘れた時にカバーしてくれる人がいないから一つ忘れるだけで致命傷になりかねない。
いつもより入念に確認をしてから出発をする。一人で行く道は寂しさと気楽さが混じるなんともいえない感覚を味わえる。門を潜り抜けて街の外へと出る。街道を歩くうちに街を守る壁がどんどん遠ざかっていき、人の痕跡は足元の街道と時折現れる休憩小屋だけだ。広い大地に自分一人しかいない光景は、世界を独り占めしたような錯覚に陥る。
(この辺か)
やがて、エレキモールが残した痕跡の報告があった場所に到着する。
エレキモールは地中に複雑な巣穴を作る。細いトンネルが何本も張り巡らされた迷路のような巣穴は芸術的ともいえる。ふつうならここから巣穴を探すために地道に地面を観察するか、餌でつり出すのだが、俺はどちらもしない。
この世界では魔力というのはありふれた身近な存在だ。魔術師や魔術使いじゃなくても魔力は誰しもが備えていて、魔力を通すと温めることができるフライパンのような単純な魔力行使ができる魔道具というものが生活に馴染んでいる。
身近にありすぎるためなのか、魔力の流れというのを感じることをできる人は少ないらしく、魔力が見える人はいない。
(敵は四体、親が二体で子が二体か)
だが、俺には見える。魔力を見ようと意識すれば、視界の奥でぼやけてピントが外れていた魔力の線がくっきりと浮かび上がり、地中に大きな魔力が四体分確認できる。
魔力の六つの属性全てを扱えること。
魔力が見えること。
これが俺に備わった特殊な能力だ。
転生者だから持ちえたのかわからないが、非常にお世話になってきた特性だ。
……その分、魔力を魔杖や魔道具に流すのが苦手だ。魔力が見えるが故に意識しすぎるからかもしれない。チートの代償ってところか。
(さて、やりますか)
「【地よ、波のごとく、一抹の震えを伝えよ――地波!】」
局所的に地面が大きく揺れる。立っていられないということはないが、少しばかり踏ん張る必要がある程度の揺れ。揺れに驚いたのか、地中の魔力の流れが騒がしくなる。
通常の地震なら地中より地表の方が揺れは大きいが、これは魔術によるもの、魔物目掛けて放った魔術はしっかりと届いたようだ。
地面の下では魔力が暴れていて、土がわずかに盛り上がり、空気が震える。エレキモールの雷が地表に漏れ、焦げた匂いが鼻をつく。
「キュッキュッ!」
パニックになったエレキモールたちが地表に現れた。まだこちらに気づいていない。今のうちに次の魔術を用意しておく。ソロでもパーティでも魔術の詠唱中が一番危険だ。詠唱を止めれば魔術は不発、続ければ無防備。先を読んで行動しなければならない。
「キィー!」
匂いか何かで感じとったのだろう、こちらに気づいて威嚇してくる。親のエレキモールがバチバチと体に電気を纏って攻撃の準備をしている。だが、もう遅い。
「【地は溶け、水は混じり、穢れとなる。奔る流れよ、大地を飲み干せ。――泥流葬!】」
地面が溶けて泥になり、エレキモールたちへと襲い掛かる。泥の波が収まって視界が開けると、泥だらけのエレキモールの死骸が並んでいた。瞬殺である。
泥に沈んだ死骸を見下ろすと、胸の奥に小さな空洞ができたような感覚が残る。誰にも見られず、誰にも褒められず、ただ粛々と魔物を倒して証拠だけ持ち帰る。これが俺の存在価値なのだと、改めて思い知らされる。
(一人だと変なことを考えがえがちだな)
思考を紛らわせるように周りを見渡す。巣穴があった場所は街道から少し森に入った場所。木漏れ日が柔らかく差し込み木々のざわめきと鳥のさえずりが聞こえる穏やかな空間だ。魔物さえいなければピクニックでもしたくなるくらい心地が良い。
しばし森林浴をしてから、討伐証明の部位である尻尾を死骸から切り取る。肉は不味いし量が少ないから今回はいらない。毛皮は売ればそれなりの値段になるが、ソロで倒して綺麗な毛皮を持って帰るのは実力的に不審に思われるのでこれも不要。なので尻尾以外は処理してしまう。俺は【水】と【識】の属性しか使っていないということになっているから、【地】属性の魔術を使ったことの証拠になるものを隠滅する。
「【火は揺れ、風は廻り、渦と成る。灼ける風よ、敵を葬れ――炎旋風!】」
火の渦が舞い上がり親子仲良く並んだ死骸を焼き尽くす。生きている魔物相手なら抵抗力があり焼けることはないが、死んでしまえば一瞬で消し炭だ。
(これでも試験に落ちるんだよな)
魔術の威力・精度、我ながら申し分ないと思う。早さも魔物をソロで倒せるくらいにはある。だけど足りなかった。
もし、六属性の魔力を全て使えることや魔力が見えることを明かせば特例で合格になるとか、加点されるといったことがあるかもしれない。魔術師認定試験だけではなく、冒険者ランクもシルバーに昇格するかもしれない。だけど、それは今の時点ではリスクがあるからとりたくない。
ルロイド王国には「高貴な身分の者は、それ相応の社会的責任や義務を負うべき」というノブレス・オブリージュ的考えがまだまだ色濃く残ってる。王族や貴族は魔物との戦闘は勿論、魔族や人間同士の戦争でも前線で戦う義務がある。そしてその考えは身分だけではなく実力者にも適応され、シルバーランクやゴールドランクには前線で戦う義務がある。
もしも俺が全ての実力を公開したらどうなるのか、見当がつかない。だから今はまだ伏せてある。実力を隠したまま貧しい生活を続けるという気はないので、着実に一歩ずつランクを上げるのが理想だ。
ソロで任務を受ける最大の理由は、本当の実力は隠したいが腕を鈍らせたくないからだ。
【炎旋風】が焼き尽くした後に残った泥だらけの地面と何かが焼けた跡を見る。まだ少し焦げた匂いが鼻につく。こうして普段は使えない【水】と【識】以外の魔術を使ったことで少し慣れない感覚が体に残る。
(もう少しやっていくか)
任務は終わったが、個人的な腕を鈍らせないという課題のために他の属性の魔術も発動しておきたい。幸い、まだ日は高い。しばらくこの場に留まっても日没までには街へ帰れる。
その後、しばらく様々な魔術を使ってストレス発散した俺は魔力の使い過ぎでヘトヘトになって街へ帰るのだった。
「ケントさん! 大丈夫ですか」
「あー、大丈夫大丈夫。ちょっと鍛錬しすぎただけなんで」
「鍛錬? ソロは危険なんですから無茶しないでくださいね!」
「はい、すみません……」
疲れ切った顔で任務の報告をしたら、受付のミルダさんにめちゃくちゃ心配された。この人、事務的に心配してたわけじゃなったんだ。それを知れたのも今日の収穫かもしれない。
「ちょっと! 聞いてます?」
「あ、はい。オールオッケープリーズ」
「はあ、心配させないでくださいよ」
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