第四十二話 追放されたブロンド剣士は、転生者に出会い運命が変わる~剣術と魔術の二刀流で再起する~
電話やインターネットそれに類するものもないこの世界、人を探し出すのは一苦労も二苦労もする。
だが、冒険者に限っていえば話は別、冒険者という生き物は依頼と金と情報を求めてギルドに集まる。だから、ギルドに行けば大体は会える。
――そして今日も例外ではなかった。
「すまないが君とはやっていけない。今日限りでパーティを抜けてくれないか」
「そ、そんな! なぜですの!?」
お目当てのシクロは割とすぐに見つかった。というか追放されていた。
ギルドの掲示板近く、朝の時間は人が多いにも関わらずシクロの金髪はひときわ目立っていた。
「……君の実力的にも格的にも、もっと相応しいところがあると思う。いや、思います」
「実力なら仲間同士で高め合えばいいですし、格なんて飾りですわ!」
「いや、その、やっぱり貴族相手には気を遣うというか……」
追放というより、もっと生ぬるい「距離を置きたい」宣言だった。
リーダーの男は視線を泳がせてシクロの目をまともに見ようとしていない。罪悪感と気まずさが混じった逃げの追放だ。
「はあ、またですの……」
一人残されたシクロは癖のある金髪をしょんぼりと揺らしているが、その姿も様になっている。
周囲の冒険者たちはちらりと視線を向けてはすぐに目をそらした。追放劇は珍しくないが相手が貴族となると誰も関わりたくないのだろう。
「どうもシクロさん、お久しぶりです」
「あら、あなたは」
青い瞳がこちらを向く。
その瞬間、ぱっと花が咲いたように表情が明るくなる。
「ケントではありませんか。お恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
「事情を聞かせてもらっても?」
「ここではなんですし、場所を移しましょう」
すっと背筋を伸ばして出口に向かう。
しょんぼりとしていた様子は微塵も感じられない気品のある動作だった。
だが、その背中はどこか寂しげだった。
シクロに案内された場所は酒場。
酒場といっても普段俺が利用するような大衆酒場とは違い、もっと落ち着いた雰囲気の店。酒処と言うべきだろうか。
テーブル同士の間隔が広くて騒々しい客もいない。店内は薄暗くて壁に掛けられたランプが琥珀色の光を落としている。誰もが静かに酒を楽しんでいて、喫茶店のような居心地のよさがある。
……財布へのダメージが心配になるな。
「パーティを追い出されたのはこれが初めてではありませんの」
シクロはグラスの縁を指でなぞりながら、絞り出すように言った。
「森都から新都に来たのは受け入れてくれるパーティを探すためでした」
「森都ではパーティを組んでいなかったということですか?」
「何度か組んだのですが、今日のように外されてしまっていましたわ」
ハキハキとしたシクロには似合わない消え入りそうな表情。
「何か心当たりはあります? 連携がしっくりいかないとか、馬が合わなかったとか」
「ないですわ。わたくしは恥じるようなことはしていないですの」
今度は逆に張りのある声。
俺も数回会っただけだが、その通りだとは思う。致命的な欠点があってパーティを抜けさせられたわけじゃなさそうだ。
シクロが今朝追放されたのは『真紅の鴉』と同じくカッパーランク主体のパーティ。
シクロの剣術はそれ以上の実力があるから引け目を感じていたのかもしれない。
それに加えて貴族という身分と目立つ容姿、一人だけ浮いていたのは想像に難くない。
「シクロさんは貴族ってことは隠しているんでしたっけ」
「登録名は冒険者用にしていますが、別段していませんわ。隠すようなことではありませんもの」
ふっと金色の髪を払うシクロ。
殊勝な心掛けではあるが、このケースでは逆効果だったかもしれない。
冒険者は何かしら明かすべきではない秘密を抱えているもの。シクロの存在は眩すぎる、あるいはその逆で警戒してしまうかもしれない。
シクロを追い出してきたリーダーたちの心境が理解できてしまった。
「魔術師としては活動しないんですか? 数が少ないから大事にされると思いますが」
ネリと同じ魔術学園を出ていて二級魔術師という話だ。その肩書だけで引く手数多だし、取り敢えずパーティに入れておいても困ることはない存在のはずだが。
「……わたくしは剣の道に生きると決めたんですの。中途半端なことはしたくありませんわ」
以前聞いた時と同じ答えが返ってくる。
字面の強さとは裏腹に声に自信がない。明らかに何かを隠している感じだ。
「ネリは魔術も剣も使っていますけど、中途半端なんでしょうか?」
「あ、いや、それはそのわたくしに対して言っているのであって」
わかりやすいほど動揺している。貴族だからこういう言葉尻を捉えられるのは慣れていると思ったが、そうでもないようだ。
手をあたふたさせているシクロを見ると、何だかいじめているみたいな気分になる。
誘導尋問的なことは俺には向いていない、単刀直入に聞いてしまおう。
「正直に聞きます。シクロさんは魔術が使えないですね?」
「なな、何を仰いますか!? そんなわけないでありましょう!?」
図星でした。
店の雰囲気に合わない声量を出してしまったことを恥じたのか、シクロは手で口を押さえる。
「もしよければお話ください。もしかして、魔力障害とかじゃないですか」
「わたくしはこれでも魔術師なんですのよ、ま、魔力障害なら魔術が使えないじゃありませんか?」
「実は俺魔力障害持ちなんですよ。それに、ネリの兄も。でも、魔術を使えていますよ」
「そ、そうなんですの……?」
青い瞳が揺れる。
全身を使って一々反応するシクロに考えさせる間を与えないようにと話を続ける。
「ある時から魔術が使えなくなった、なんてことありませんか」
「そ、それは」
「俺が解決できると言ったらどうします?」
「そんなことができるのでしょうか」
シクロはごくりと唾を飲み込んだ。
半ば確信的に言ったが、やはり何かしら魔術を使わない理由があったようだ。
ややあって、シクロは口を開いた。
「……あれは、今日のような日差しが強く降り注ぐ夏のことでしたわ」
シクロの声は、どこか遠くに向けられていた。
「最初はただ体調が悪いだけだと思っていましたの」
語られたのは、ある時から魔術の発動がうまくいかなくなったが、対処法もわからずに完全に魔術が使えなくなってしまったという話だった。
「家族は表向きは励ましてくれましたわ。ですが、時折わたくしを見ながらひそひそと話しているんですの」
貴族が魔術を使えないのは外聞がよくない。内々で処理するためにシクロの処遇をどうするかを悩んでいたのだろう。
「だから、剣の道に進むと決めたのです。使えない魔術を嘆くより使える剣を磨く方が前に進めますもの」
そこで、剣の道に目覚めて魔術を「使えない」のではなく「使わない」ということになった。貴族の矜持を守りながら魔力が使えないことを隠せる一石二鳥の案だろう。
幸い、シクロには剣の才能があったらしく、冒険者として独り立ちができた。
そして、今に至るというわけだ。
「話はよくわかりました。俺が何とかしましょう」
「本当にそんなことができるんですの……?」
「すごいですわ! また魔術が使えるようになるなんて夢のよう!」
ギルドの訓練場に響くシクロの声。
腕の長さほどの小さな魔杖をぎゅっと握りしめ、目を輝かせている。その姿だけ見れば、初めて魔術を発動させた新人のように思える。
魔術が戻る瞬間を見たのはこれで二度目だが、何度見ても胸にくるものがある。
「また魔術が使えるようになってよかったですね」
シクロは軽度の魔力障害だった。
ネリの兄イミダートと同じく魔力が絡まって流れが悪くなり、魔力をこめられなくなっていた。
ただ、扱える魔力が三種類とイミダートより二種類少なく、発症からの日が浅いこともありすぐに解消できた。
「ケント! あなたは最高の医師ですわ!」
シクロは俺の手を取りぶんぶんと振り回す。剣士をやっているだけあって、かなり力強い。というか痛い。
「是非我がウォルド家で召し抱えたいですの!」
興奮冷めやらぬまま、シクロは胸に手を当て堂々と宣言した。
聞いた覚えのある提案、さらっと貴族っぽいことを言っているが、そういうところだぞ。
「申し出はありがたいですが、イーサ家からも似たようなこと言われて断ってしまってるんで」
「そう、イーサ家。ここでも彼女の影があるのですわね」
厳密にはイミダートから言われたことだが、シクロが醸し出したアンニュイな雰囲気の前に言葉を飲み込む。
ネリとは主席争いをしていたということだが、特別な想いを抱えてるのだろうか。
「仕方ありませんわ。その代わり何か困りごとがあればお声がけくださいな。協力いたしますわ」
「あ、それなら早速頼みたいことが」
シクロに向き直り、ゆっくりと息を吸った。
ここからが本題だ。




