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魔術師未満  作者: 大日小月
第四章  意外な一面

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第十九話 近接武器の日

 朝の空気はひんやりしていて、街の喧騒が動き出す前の静けさが残っている。

 ギルド内では出発前の冒険者たちが準備に勤しむ。そんな落ち着いた時間をぶち壊すように、俺は胸を張って宣言した。


「みんな、武器は持ったな!!」

「武器ならいっつも持ってるよー」


 セタールが背中の棍棒を触りながら冷静にツッコむ。全く乗ってくれなさそうな態度だ。


「今日の俺はコイツを使うぜ」

「それって、この前アタシがあげたやつじゃん!」


 取り出したるは伝説の魔杖、のイミテーション。セタールに魔術師試験の残念記念として買ってもらった魔杖もどきだ。

 

「……あれか」


 ルキッドの目元が少し緩んだ。なにせルキッドが武器として使えるように改造したのだ、興味があるに決まっている。

 そんな俺たちのやり取りを視線を泳がせながら見ていたネリだったが、魔杖もどきを真剣に見ながら呟いた。


「……もしかして、伝説の魔術師オレフが使用していたとされる魔杖【ヴルドゥルイェルド】の模造品でしょうか」

「ヴルヴルイェイェ……ネリちゃん何て言ったの?」

「【ヴルドゥルイェルド】です。杖身はイーウの木の枝をできるだけ加工せずに利用したシンプルな直線状です。しかしながら、持ち手を魔力が流しやすいように手の型に彫りこんでいて、先端は長さを稼ぐために丸くなっていたりと、現代の魔杖に通じる機構が揃った傑作です。これ、よくできていますね」


 儀式魔術の詠唱のように長く淀みない解説だった。

 こういう些細なきっかけでオタクバレってするんだな。


「あ、すみません。つい……」

「いや、よかったぞ。歴史上の魔杖もちゃんと抑えているなんて、流石一級魔術師だ」

「……ああ。よくわかっている」


 顔を真っ赤にしたネリを、俺とルキッドが褒め称える。特にルキッドは理解者が増えて嬉しそうだ。


「ネリちゃんもそっち側なの……?」

「そっちとはなんだ。そっちもこっちもない、真実はいつもひとつだぞ」


 セタールはうんざりしたような顔で俺たちを見る。俺とルキッドが変なテンションになるのを度々見てきたから、ネリもその一員だと知ってショックなのだろう。


「ってそれは置いといて。ネリ、近接武器は持ってきたか?」

「……っはい。言われた通りに持ってきました」


 ネリがわかりやすいように剣を鞘ごと体の前で持つ。黒地に赤いラインが入った鞘は腕の長さと同じくらい、ショートソードだ。

 ショートソードはベルトに差し込めて持ち運びやすいし、咄嗟に抜けるから二つ目の武器として採用されやすい。いい選択だ。


「よし、じゃあ今日は基本的に戦闘で魔術は使わないから、そいつで頑張ってくれ。ちなみに剣の経験は?」

「兄から教わったことがあるので、多少はできます」

「なら大丈夫だな。早速行くか」


 



 今日の任務は繁殖期に入り数が爆発的に増えたホーンラビットの間引き。

 ホーンラビットは下級魔物で強さは大したことないが、一年に一度、短い期間だけ異常な繁殖力を見せる。その時期は街道沿いにも平気で出没するため、ランク不相応だろうかお構いなしに討伐してもいい。

 

 そして『真紅の鴉』には、ホーンラビット討伐の時だけのお約束がある。それは、敢えて魔術を使わず近接武器で戦うというものだ。

 普段の俺は魔術頼り。それで困ることはないが、急に武器を使う必要に駆られる時がくるかもしれない。そういう時に備えてホーンラビット討伐で近接武器の腕を鈍らせないようにするようにしているのだ。


「おー、うじゃうじゃいるな」


 街門から伸びる踏みしめられた道を歩くこと数分。草原に出ると朝露を含んだ草が陽光を反射してきらきらと光っていた。

 風が吹くたびに草が波のように揺れ、あちこちに赤い目をぎらつかせたホーンラビットが跳ね回っているのが見える。

 

 ホーンラビットは、禍々しい角を持つウサギ型の魔物だ。跳躍力が高く、左右に揺さぶるように跳ねながら近づき、角で刺してくる。慣れれば対処は簡単だが、初心者には厄介な相手だ。

 今回の依頼は間引きなので、特定個体を狙う必要はなく、見つけたものから順に倒していけばいい。


「さっそくもらうよ!」


 セタールが駆け出し、ホーンラビットの脳天めがけてハンマーを振り下ろす。

 鈍い音とともに即死し、その死骸をルキッドが素早く拾い上げて血抜きを始めた。


「【水よ、白く凍てつき、その身を結べ――凝霜!】」


 すかさず俺が魔術で死骸を凍らせ、保存用の麻袋へ放り込む。


「ほい、一丁あがり」


 この流れが『真紅の鴉』の基本スタイル。討伐役、血抜き役、保存役と三人で役割分担することで効率よく狩りを進める。

 今日は、ネリにそれぞれの役割を体験してもらうつもりだ。


「それじゃあまずは討伐からだ。ネリ、やれるか?」

「はい」


 ネリはショートソード鞘から抜いてホーンラビットに向ける。なかなか様になった抜刀だ。一朝一夕でできるものではないが、兄が騎士か何かなんだろうか。


「っとと」


 しかし、様になっていたのは抜刀だけで、ホーンラビットがチェスのナイトのような予測しづらい動きをして、ネリが振るった剣はあえなく空振りする。


「ネリちゃん、剣の方はあんまりだったり?」

「稽古の時はこんな感じではなかったのですが……対人とは訳が違うのですね」

「ホーンラビットって変な跳び方するよね。アタシも最初は苦戦したよ」


 セタールは口を動かしつつ片手間に棍棒を振るい、ホーンラビットを一撃で仕留める。流れ作業のような手際で、死骸を棍棒ですくって血抜き役のルキッドにパスする余裕まである。


「相手を追うんじゃなくて、引き付けて攻撃する感じかな」

「なるほど、相手の動きを予測して剣を置くということですか」

「そうそう。やってみる?」

「はい。頑張ります」


 ネリはセタールのアドバイスに従って再度剣を構える。今度は切っ先を相手に向けるのではなく、上に向けている。さっきの一回で有効な構えを見つけたようだ。


「せいっ!」


 ホーンラビットの着地地点にネリが剣を振り下ろす。着地狩りだ。

 空中で無防備だった相手は逃げられずに剣の錆となった。


「やったじゃん!」

「はい! セタールさんのアドバイスのおかげです」


 二人はハイタッチをする。青春の一ページだ。ホーンラビットの死骸が転がっていなければだが。


「まあ、これはケントから教わったんだけどね」

「ケントさんが? すみません、私はケントさんが武器を使っているところを一度も見ていないので意外ですね」


 ネリがこちらを見る。探るような目線ではなく、意外そうに目をパチクリとさせている。


「だよねー。なんか最初に会った時は魔術と棍棒の両方使ってたんだけど、アタシとかルキッドに結構アドバイスしてたよ。何故か独特な言い回しだったけど」

「なるほど、ケントさんは魔術においてもそうですが、自分の理論を確立されてまいますよね」


 討伐役の二人が余計な話をしている。

 あれは、駆け出しの頃、即席パーティを組んだ時のこと。セタールもルキッドもホーンラビットに翻弄されていたが、俺だけは対応できていた。

 理由は単純。魔力の流れが見えるから、ホーンラビットの動く前兆がわかっただけ。だがそれを説明するわけにはいかず、前世の野球解説を思い出して適当に言ったのが始まりだ。


「敵を呼び込むんじゃない。敵は勝手に手元まで来るんだから」

「ギリギリまで敵を見て、自分のポイントまで呼び込む」


 それがまさかのドはまりで、二人はすぐにホーンラビットを倒せるようになった。そこから三人で組むことが増え、『真紅の鴉』が生まれたのだ。


(……まあ、今は蛇足か)


 セタールが討伐のコツを教える姿を見ると、歳をとったのだと実感する。

 巧みになった棍棒捌きを、しばし感慨深げに見守るのだった。



 

 ネリの剣の練習が一段落したところで、次は血抜きの工程を試すことに。

 ルキッドが無言でホーンラビットの死骸を持ち上げ、ナイフを渡す。


「やってみろ」

「はい」


 ネリは剣を構えた時と同じように、落ち着いた表情で死体を受け取った。

 だが、よく見ると指先がわずかに震えている。血抜きは慣れていない者には精神的にきつい作業だ。特にネリはいいとこ育ちっぽいしな。

 それでもネリは表情を崩さず、ルキッドの指示に従ってナイフを入れた。赤い血が溢れ、草を濡らす。


「……っ」


 ほんの一瞬、ネリの肩が震えた。だがすぐに呼吸を整えて作業を続ける。

 俺も血抜きは得意ではないが、ネリの前でそれを言うのは違う気がして黙っていた。

 ルキッドはそんなネリの様子を見て、短く頷いた。


「……悪くない」

「ありがとうございます」


 ネリは小さく微笑んだが、その顔には疲労の色が見えた。

 まあ、最初はそんなものだ。





 次は保存作業だ。これは俺の担当で、ネリにとっては最も馴染みのある工程だろう。


「保存は簡単。魔術で凍らせるだけ」


 魔杖を構える。ネリに見られていると、試験の時を思い出して妙に力が入る。


「【水よ、白く凍てつき、その身を結べ――凝霜!】」


 ホーンラビットの死骸が白く凍りつく。ひんやりとした冷気がほのかに伝わってくる。


「ただ、魔術自体は簡単でも保存の質は前段階で決まる。即死させた方が血が回らないから肉が旨くなるし、毛皮も汚れない。血抜きも手早くしないと腐る」

「なるほど……」


 ネリは真剣に聞き入っていた。他人の受け売りなんだが、言うタイミングを見失ったな。


 それにしても、教えるという行為は思っていた以上に神経を使う。自分ができることをどう言葉にして伝えるか。ネリの真剣な横顔を見るたびに、妙な責任感が胸に湧く。

 先日ロピに教えた時は先生にでもなろうかと思ったが、まだまだ修行が必要だな。


「ケントさんは知識が豊富ですね。何か質問をしたら、そのことについて意味や理論を説明してくださります」

「……理屈っぽいだけだよ」


 純粋な目に思わず目を逸らしてしまう。

 インターネットのない世界では知識は力になる。だから前世よりも学ぶようになっただけだ。

 そんな内心を悟られないように、ネリに冷凍の役を譲った。

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