第五十四駆
「どうだい少年。」
住職が僕に聞く。それが今日の体調なのか、緊張なのか、自転車の感じなのかわからない。
「体調は大丈夫です。緊張は結構している感じです。
自転車は凄く良いですね。」
「そうかい……。
まぁ、良いなら問題ないね。
あ、あとユニフォームなんだけど大会側からゼッケンが配られてて自転車のチェックをしに来たら渡される方式になっててね。昨日受け取って背中に付けといたよ。
ゼッケンを受け取ってない人はチェックを受けてない人って事になるからしっかり付けてくださいって言われたからね。」
「不正防止対策ですか?」
「まぁ、そうだね。あとは安全面も考慮してなんだろうけどね。番号がね『A25901』だったよ。」
「番号に意味とかあるんですか?」
「一応ね。最初のアルファベット『A』はその人の意気込みを表してるらしいよ。
受け付け時に優勝を目指す、タイムの自己ベスト更新、距離の自己ベスト更新、楽しむためのどれかを選択する形になっててね。もちろん優勝を目指すにしといたわけなんだ。優勝を目指す人はAなんだって。
あとの数字は自転車屋さんの割り振り番号と先着順らしいね。」
「なるほど。Aだと何か良い事あるんですか?」
「スタート地点が前の方になるんだよ。
一般の部は参加者が多いから、スタート地点が混みあって本気で優勝したい人がうまくスタートできないと困るだろ。タイムトライアルだから個人のタイムで順位が付くけど、本気の人のスタートダッシュと記念参加の人のスタートダッシュでは勢いが違うからスタート地点で事故が起こったりするのを防ぐためにガチ勢を前の方においてスタートさせる事になったらしいよ。
まぁ、怪我人を出さないための対処としては納得できるよね。」
「なるほど。そう言えば田中さんと鈴木さんはどこにおられるんですか?」
「二人には少し離れた所の車に居て貰ってるよ。
サポーターは基本的に移動とかはそれぞれでやることになってるからスタートが近づいたら車ですぐに移動できるように待機して貰ってるんだ。
私も少年の準備ができたら車に移動して先に向かっておくよ。電話は常に繋げとくから何かあったら連絡してくれたら良いよ。」
「わかりました。
住職、僕……優勝します!」
「うん?……そうだね。
そのために頑張って来たんだもんね。
私達もしっかりサポートさせて貰うよ。」
少年の決意表明からは少し悩んでいた様子だった最近の面影はなく、強い覚悟を感じた。
何かあったのかと聞くのも野暮なので
「じゃあ、私も車に行くよ。
スタート地点に行くと係の人がスタート地点に案内してくれるからね。」
「はい、わかりました。」
僕は答えて頭を下げて
「今日までありがとうございました。」と言った。
住職は笑って
「それは終わってから聞くよ、じゃあ。」
住職の言う通りだ。でも今のタイミングで伝えないといけないと思った。
朝起きてスマホを見るとあいつから『頑張れよ。』とだけ返信が来てた。
僕は一層覚悟を決めた。優勝する!その覚悟が僕を前に進めてくれるし、あいつにも背中を押して貰った気がする。
住職の言う通りスタート地点に行くとゼッケンの番号を係の人に確認されてスタート地点に案内された。
最前列の左端からのスタート。
スタート地点に大会実況の人の声が響き渡る。
「さぁ、それではビワイチタイムトライアルチャレンジ一般の部のスタート時刻が迫って来ました。
参加者の皆さん、用意は良いですか?
さぁ、カウントダウンです。
10秒前9.8.7.6.5.4.3.2.1…」
『パンッ』というスターターピストルの音と共に僕は勢い良くペダルを踏み込みスタートした。




