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峠を越えた世界  作者: Making Connection


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第五十三駆

大会前日まで来た。

住職が自転車の最終調整に行ってくれた。

前日という事もあり、今日は練習もしないので家で完全にオフ状態でいるために住職が代わりに持って行ってくれた。大会で使う自転車は必ず前日までに大会運営が指定した自転車屋さんに持っていかないといけない。

痛んでいる所がないかや大会に出る上で不利になるような仕様になっていないかを確認して最良の状態にしたり、ズルができないようにするという面も含めての最終調整である。

その他にも自転車のカスタムや装飾等もして貰えるらしい。シールを貼ったりするのも素人がやると見えにくかったり走行中に邪魔になる事もあるらしいので、自転車の装飾についても住職にお願いした。

そんな僕は何をしているかというとスマホを握りしめ、文章を書いては消してまた書いてを繰り返していた。

大学生の二人にコンビニで会った時にあいつと向き合う事を覚悟したが、どう伝えるのが正しいかを悩んで今日をむかえてしまった。

きっかけは自分に何が出きるかを考えて治療費の足しにするために優勝賞金100万円が欲しかった。

でも、今となってはお金があっても治らない病気という面でそこまで優勝にこだわっていない。

でも、できるだけ優勝はしたい。

一生懸命に頑張るから応援して貰える。

一人でも多くの人に興味を持ってほしい。

やるからには勝たないといけない。

努力してきた事を示すためにも早々にリタイヤでは、僕の存在にも気づかれない。

一生懸命に挑戦するから人の目に止まる。

それがあいつの病気と向き合う強さに繋がり、何かの助けになると思う。

……とこんな感じでどう伝えたら良いのかを考えては文章の書き直しをし続けているわけだ。

まず、あいつが入院してから連絡をしていなかったので書き始めから困っていた。

『久しぶり』では軽い気がする、だからといって『ご無沙汰しております』とかの固い感じも違う気がする。

いきなり本題に入るのも何かが違う。

結局、僕は

『久しぶり。実は明日、開催されるビワイチタイムトライアルチャレンジ大会に参加するための練習をしていました。僕ができる事は何かを考えて少しでも治療費の足しになればと優勝賞金目当てで参加を決めました。

色々な人との出会いがあり、自分の考えが甘かったと痛感している所ではあります。

でも、今は大会に出て自分がどこまでできるかを挑戦してみようと思います。

白血病という難しい病気と闘ってるお前からしたら遊んでるように見えるかもしれない。

でも、大会で一生懸命に走る僕の姿を見てほしいです。

4月の終わりから約五ヶ月でそんなに自転車に乗れた訳でもない僕が200㎞のビワイチを走りきる所を見てください。白血病を治すためには骨髄移植が必要だと知ったので、大会に参加する上で骨髄バンクへの登録を呼びかける運動も取り入れました。

これでお前と適応する骨髄を持った人が見つかるとかそんな奇跡的な事はないかもしれない。

でも、同じ病気で苦しんでる誰かを救う事ができるかもしれない。

僕は小さい頃からお前を追いかけてました。

お前みたいに野球がうまくなりたかったし、一緒に試合に出たかった。

でも、僕には野球が向いてなかった。

どれだけ頑張ってもうまくならなかった。

今回、一人で自転車をこぎ続けたり色んな人と出会って話したりする中で僕は【憧れても意味がない】という事に気づきました。

もちろん【あの人のここが凄いから真似して見よう】とか【あの人のこの習慣なら自分もできそう】と参考にする事は間違ってないと思います。

でも、【あの人になりたい】とか【あの人のように何かをやりたい】は自分にできない事に無理矢理手を伸ばしてるだけでその結果は挫折しかないと思いました。

人に憧れるんじゃなく、自分がどうなりたいのかを考えないといけなかったんだと思う。

野球をしないという選択をした理由があの時に伝えられなかったのはきっと自分でもなぜそう選んだのかわかってなかったからです。

または自分に野球の才能がないと認めたくなかったのかもしれない。

僕は僕にできる事を探していきます。野球ができなくても楽しい事は他にもありそうです。

その一歩として僕は明日の大会で優勝を目指します。

僕にできる事を僕自身が証明するために。

無理にとは言わないけど時間と余裕があったら動画配信がされてるので見てみて下さい。』

僕は送信ボタンを押した。

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