第五十駆
「どうだい少年?」
住職の問いに僕は腕を振ったり肩を回したり身体をひねってみたりしてから答えた。
「大丈夫です。
見た感じピチッとしてましたが着てみたら伸縮性もあって動きやすいですね。」
僕は松木さんから送られてきた大会当日に着るシャツを試しに着てみていた。
大会当日ように着るシャツにキャッチコピーが背中に印刷されているだけで前面には変わった物は入っていない。松木さんが言うには前面にもキャッチコピー等のメッセージが入っているとカメラマンが前面からも映像を撮ろうとする可能性があるため背面のみにしたらしい。
できるだけ僕の顔を撮さないように配慮して貰えるようにも頼んでくれたらしい。
注目して欲しいのは僕ではなく活動の方なのだからそうして貰えると嬉しい。
住職達はこの活動を通してドナー登録の増加や骨髄移植が必要な病気の存在を世間に知らせたりする良い面だけでなく、大会に参加する事で僕の将来に影響がないかを考えてくれているようだ。
注目される事は成功すれば称賛されるが失敗すれば罵倒されたり責められたりもする。
成功しても嫉妬などからいわれのない批判をあびる事もある。僕が大会に優勝できたとして世間からの評価が良い物ばかりではないだろう。
「少年、考え事かい?」
住職に声をかけられ考え事から引き戻された。
「このシャツも練習用のシャツも松木さんから送られてきて色々として貰って申し訳ないなと思いました。
たくさんお金もかかっているので、より優勝しないといけない感じがします。」
「少年、空海様の名前の由来って考えた事はあるかい?」
「えっないです。」
「まぁ、そうだろうね。
一人でできる事なんてたかが知れてるんだよ。
自分がいくら必死に取り組んでも先天的に・環境的に・精神的にと様々な要因で自分より優れた者が現れる。
だからと言ってそこで立ち止まっては成長しない。
成長するためには挑み続けないといけない。
空海様は厳しい修行の中で空と海を見つめるだけの生活を送った。真意は誰にもわからないが余計な事を考えず物事の本質を理解しようとする事が必要なのだとその名に刻んだのではないかと私は思う。
少年が本当に望むのは何かな?
大会に優勝する事?少年の友人の病気を治す事?それとも他の何かかな?
少年が優勝できるならそれが一番良い結果だけど少年が優勝しても友人の病気は治らないよ。
厳しい話だけど骨髄ドナーが増えても少年の友人に適応する人が見つかるかはわからない。
少年が努力を続ける理由は誰かのためではなく、自分の『本当に望む』ものでなければいけないんじゃないかな。少年が優勝したいから頑張るのもいい、友人に病気と闘う勇気を与えるためでもいい。少年が自分の何かを変えるためでも良い。
誰かの期待に応えるために頑張るのは美談だが本人からしたら何の意味もないよ。
少年が何をしたくて何のために頑張るのかは少年本人が決めるしかないと思う。」
「僕が何のために頑張るか………」
僕にはまだ明確な答えを出せなかった。




