第四十九駆
僕が寺の中でペダルをこぐ練習をしてから休憩をしているとスーツの男の人が近づいてきて
「すみません、私は彦根カルチャーストーリーという会社の情報発信部の部長をしております松木と申します。」
松木さんは名刺を僕に手渡した。僕は何がなんだかわからずに「はぁ?」と答えてしまった。
僕の返答を受けて松木さんは焦ったように頭を下げ
「先日はうちの社員が無礼な事をしてしまい大変申し訳ありませんでした。私も事後報告の形で知りました。
この度は一生懸命に頑張られている事に水をさすような事をしてしまいお怒りはごもっともだと私も社長も思っています。」
僕は相変わらず意味がわからないが、一つわかったことは僕が返した「はぁ」という言葉を怒ってる人が言うような形で受け取られてしまったということだった。
僕はわからないままに適当に相づちのつもりで言ったのに誤解を与えたようだ。僕がどうしようかと迷っていると住職が走ってきて聞いた。
「どうした、少年?」
「え~と僕にもよくわからないです。
この人はこういう人らしいです。」
僕はありのままを伝えて受け取っていた名刺を住職に渡した。住職もそれを確認すると
「ああ、この前の記者の方の上司さんですか。
いったいどうされたんですか?」
「あ、先日はうちの社員が無礼な事をしてしまい大変申し訳ありませんでした。大会に参加される方達に取材を行うのは毎年行っているのですが、色々な事情を抱えて参加される方達に細心の注意を払うようにと申し付けておりましたが、勝手に特集紙面掲載を決めた状態でその了承を得る事なく取材を行おうとしたことに対して大変ご無礼な事であると部長の私も社長も思っています。
本日はその謝罪とお詫びをしたく来させて頂きました。」
「ああ、なるほど。
その件について私は特に気にしてませんよ。
少年には記者が来た事も伝えてなかったので、なんでいきなり謝られたのかわからなかったんでしょう。」
「そうだったんですね。
それは説明が足りず申し訳ありません。
それでお詫びの方なのですが、活動の宣伝用チラシの作成・印刷、大会当日に出店されるお店にチラシを置かして頂くように交渉も行います。
そこで皆さんが何かキャッチコピーのようなものを作られていたら連携できるように教えて頂けないかと思います。皆さんが金銭目的でない以上、お金を渡すよりも活動の支援をさせていただく方向のお詫びを考えさせて頂きました。」
「いや、それはかなりお金がかかるんじゃないですか?
それにそんな特別扱いされたら逆に反感を買ったり、大会の主催者側から怒られたりしないんですか?」
松木さんと住職が話しているのを横で聞くしかできない僕でもやり過ぎているなと思うお詫びの仕方だ。
松木さんは少しきょとんとした顔をしたあと真面目な顔になって、
「大会の主催者はうちの会社なので大丈夫ですよ。
あと、特別扱いについても毎年いるんですよ。
社長が気に入った参加者に対してルールを少し変えたり宣伝用チラシを作ったりするのも。
昨年はパラスポーツの宣伝を目的としたチームに特別な走行を認めたりしましたね。
協賛を色んな所からして貰って単独開催ではありませんが運営から物販等に関してはうちのイベント部の仕事になってます。お金をかけてでも支援したいと社長が思ったのなら我々は基本的に従いますしね。」
「な、なるほど。
では、そのようにお願いします。
ただ、少年が未成年でこれからの人生も色々とあると思うので少年を前面に出すような宣伝はしないで下さい。」
「はい、承知しております。
宣伝チラシの内容に関しては骨髄バンクの運営側から詳しい現状や問題点、ドナーの条件など詳しくヒアリングした上で皆様のご意見も取り入れて作成したいと思っております。よろしくお願いします。」
松木さんと住職は詳細の打ち合わせをするために寺の中に入っていった。僕は住職に任せてそのまま練習を再開する事にした。




