第39話 閑話:左京
バシンと――感覚フィードバックのための求心性脊髄路核から前頭野に向かうシナプス回路の一部が灼けた――ような音が聞こえて視界がホワイトアウトし、青年は意識が浮上してくるのを感じた。
『02番:ニューロイジェクト。ニューロイジェクト』
女性の声をしたマザーAIが現在の状況について端的にアナウンスし、横たわる幾つかのカプセルのうちのひとつ、02と書かれたその重い蓋が静かに開けられた。
青年は、コンソールから随分と久しぶりに身体を起こした。
「俺が分かるか、左京」
「――――――――あぁ」
左京と呼ばれた青年は、小さく呟いた。
実年齢は15歳だが、遺伝子操作された身体、幼少期から叩き込まれた電脳訓練、一部が機械化された身体――過酷な環境に適応した15年は、彼を年齢相応ではいさせなかった。
身体中にダイブや生命維持のためのチューブやコードが繋がれた左京は上半身を起こしたまま、そこから動くことは出来ずじっとしている。
「近接型ガイダンスロボットの損傷率は99.25%。宿主が無事だったのは奇跡だな」
「――――あぁ」
「今お前のブレインメモリ・フォーマットを行っている。俺の事がわかるか?」
「――――茨木主任」
「大丈夫だな。セカンドダイブまで出来るだけ条件を整えてやる。――学問はトップクラス、武神流御影派師範の実力者であるお前ならもっと上手くやれると思っていたが……いいのか、そのやり方で」
「――――ガイダンスロボットは俺であって俺でない。あくまで俺の帯状回と海馬が作り出した虚像だ。そう思い通りにはいかない。そういうシステムだと、あんたも分かってるだろう」
「そうだな。すまんすまん。コーヒーでも飲むか?」
「いらない」
左京は神経接続され力の入らない両の掌を見た。
今は剣どころか、コーヒーカップだって握れない。
というより接続されたダイバーの生体管理はこのオーバーテクノロジーのマザーAIが全て管理しているのであって、当然ダイバーは飲食不可能なのだから、これは主任の冗談だ。
「……サツキ」
「あっちに思い入れるのは程ほどにしておけ。皆、お前に期待しているんだ」
「わかっている」
「必ず。生きて帰れよ」
「――あぁ」
『リダイブ開始――10秒前。ダイバーは速やかに待機を。……8……7……』
左京は再びコンソールに身を沈めた。
全身の生体管理を行うカプセルの蓋が閉鎖されていく。
光が完全に消える前に、左京は静かに目を閉じた。




