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悪魔貴族譚~ノビリタス・ディアボロス~  作者: 中谷 獏天
第17章 蝗害対策と家族。
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14 蝗害。

《リリー様》

「リリー様」

『どうか、リリー様』

『申し訳御座いませんが、ココはあくまでも看護院、医院では無く看護を専門とする場所ですので。緊急を要するであろう事であれば、手短にご相談に乗る事は出来ますので、先ずはコチラに書き込みをお願い致します』


《で、ですが》

『書ける方をお呼び下さい、コレは同意書でも有りますので』

「緊急を要するかどうかなんて」


『唇が紫や青くなっていれば緊急を要します、ですが虚偽の報告を行った場合、相応の金額をお支払い頂きます』

『そんな』


『ココは医院では無いのです、本来であれば、動けない患者さんを専門に世話をする場。こうした方を増やさない為、医療について広めている、そうご説明させて頂いている筈ですが』


《ですが》

「けど」

『でも』

『ですが、無暗に門前払いは致しません、ですので』

「あの、書き終えたのですが」


『拝見いたします』


 チアノーゼ無し、呼吸アリ、意識アリ。

 湿疹、微熱、10代。


「あの」

『緊急を要する心配は無いかと、ですが入浴は控え、いつも通りの飲食物で様子見をしながら医師をお待ち下さい。次の方』

《あ、お願いします》


『はい』


 ココに蝗害の被害は無い。

 だが、人々はストレスから半ばパニック状態が続いてる。


 そうして俺の様な場所に、相談と言う名の不安を解消しに来ようとする。


 分かるが、本来は医者や薬師の領分だ。

 確かに数は少ないが、不安が故に待つ事すら出来ず、ココに押し掛けて来る。


 事前に対策していなければ、流石の俺でもキレていただろうな。


『緊急を要する心配は無いでしょう、ですが薬師にご相談下さい。次の方』

《そんな》


『コチラは善意から見極めさせて頂いているのですが、それともお支払いをして頂けますか、私は仕事が出来ず他の方に仕事を任せている分です』


《い、いえ》

『次の方』


 向こうでも、医師や看護師に良く起きる現象なワケだが。

 正直、こうした場合は賄賂となる何かを十分にくれて、真に受け過ぎないでくれれば良いんだが。


 身内ですら、タダでどうにか情報を得ようとし。

 (あまつさ)え、鵜呑みにした挙句に逆ギレして来るからな。


 本当に、身近に居て、緊急を要するなら別だが。


「お願いします!呼吸が止まり、かかりつけ医が来るまでお願い出来ませんか!!」


『分かりました、ですが虚偽であれば』

「はい!幾らでもお支払い致します!!」


 近隣の男爵家の家紋か、良いだろう。

 だが、もう呼吸が止まっていては、蘇生が間に合うか。


 いや、ココに居るよりはマシだろう。

 俺が居なければ、殆どの者は居なくなるのだから。




『申し訳御座いません』


 婚約者が付き添いを暫く続け、夢現になっていた時、不意に激しく咽ており。

 暫くして、そのまま呼吸が止まってしまった、と。


 まだ暖かいが。

 蘇生させるべき時間を、過ぎてしまっている。


「お願いします!」

《お願いします!どうか》

『残念ですが、このまま蘇生法を試しても、もう話す事すら出来無いかと』


 例え息を吹き返しても、報告通りなら、もう。


《そ、そんな》

『元は、どの様な状態だったのですか』

「はい、少し前に……」


 熱を出し、2日間、寝込んでいた。

 だが、特に体力が無く弱っていたワケでも無い、と。


 最悪は、風邪からの肺炎、そして高熱。

 そうか、暖かったのは高熱のせいか。


『付き添いはいらっしゃいましたか』

「はい、この方が」


 一見すると、本気で落ち込んでいる様に見えるが、どうだか。

 万が一にも毒物が使用されたなら、口元を確認され、動揺を見せるかも知れないな。


『失礼致します』

「あ、あの」


 遺体には、かすかに酒の匂いが。


『この方は、薬酒などは飲まれましたか』

「いえ、薬酒は弱いモノしか無理な方ですので、今回はお出ししておりません」


 確かに、それらの容器も何も無いが。

 いや、窓から投棄したか、若しくは小瓶で。


《ごめんなさい、まさか、こんな事になるだなんて》


 まさか、こんな事になるだなんて、とは。


『まさか、横になったままの意識の無い相手に、無理に何かを飲ませたんですか』


《そ、あの》

『誤嚥性肺炎の事を知らないのですか!!』


 誤嚥性肺炎の危険性を、アレだけ徹底していると言うのに。

 まだ。


《けど、でも、本で》

『一体、どの様な本の事でしょうか』


《そ、それは、御伽噺では》

『はぁ』


《でも》

『喉には簡単な蓋しか無いのです、息を吸う為、それと飲食を行う場所が非常に近い。分かりますか、アナタは溺死させたも同然、彼の呼吸を阻害し窒息させたのです』


 肺炎を患っていたのであろう場所は、時に浸水してしまう場合が有る。

 しかも酒なら、更に呼吸を妨げる事になる。


《そ、そんな》

『横になっている時、その蓋は呼吸する為のみの位置に存在し、飲食物を受け入れる様にはなっていない。ましてや、眠っている時や意識の無い時は、特に、蓋は呼吸のみの位置に有ります。例え上体を起こそうとも、意識が無いなら、どうしても肺と言う呼吸を司る位置に入ってしまう」


 だからこそ、呼吸用のチューブが有り。

 だからこそ、食事用のチューブとは別に存在している。


 だが、ココには無い、そして彼女はそれらの存在を知らない。


《そんな事》

『知らなかった、ですが、飲み物が間違った場所に入り咽た事が無いとでも』


 例え量が少なくとも、既に炎症を起こしていたなら。

 最早、トドメを刺したとしか言い様が無い。


 まさか、婚約者に殺されるとは思わなかったのだろう。

 まさか、陸で溺死するとは。


《こんな、まさか》

『婚約者の方も、そう思ってらっしゃるでしょうね』




 私は、寝込んでいる婚約者の為に、薬酒を飲ませようとしただけだった。


 殺すつもりなんて無かった、薬酒に弱いなんて知らなかった。

 まさか、死んでしまうだなんて。


「イヤだ、あの方よ」

《あぁ、病人殺しね》

『事故だって言うけど、本当かねぇ』


「毒を盛ったのかね」

《病で寝込んでいたんだろうに、良くやるもんだよ》

『可哀想に、婚約者に殺されるだなんてね』


 違う。

 殺すつもりなんて無かった。


 本当に、良かれと思って。




「お世話になりました、元婚約者の方は、葬儀の日に御子教会へ帰依なさいました」


『そうですか、お疲れ様でした、さぞ大変だったかと』


「何故、どうしてなのです、何故」

『だからこそ、愚かな方と婚姻を結んではならない。もし今回を生き抜けていたとしても、きっと、いつか痛い目に遭っていたかと。生半可な知識から、怪我や病を悪化させる者は多い。次の生にて、次こそは、賢い方と婚姻なされる様にお祈り申し上げます』


 肺炎による死亡率は、約9%。

 だが、それは向こうでの事。


「はい、はい、ありがとうございます」


 更に老人では、寝ている間に自身の唾液により誤嚥性肺炎を起こし、亡くなる場合が多い。


 それは例え、若年層であろうとも起こり得る事。

 体が弱っていたり、麻痺が起こっている場合であれば、亡くなる事も有る。


 しかも今回は、既に風邪を引いていた状態。

 その肺に、何かが流し込まれれば肺炎となる事は容易い。


 だからこそ、咳をする。

 気管の異物を排除する為、咳をして肺に入れさせない様にする、本能的な防衛反応。


 医療関係者では無くとも、分かるだろう。


 その考えが甘いのだ、と気付かされた。

 徹底的に、教え込まなければならない。


 だが、今回の件は、伏せるしか無い。

 万が一にも悪用されてしまえば、完全犯罪が成立してしまうのだから。


『リリー嬢?』

『あぁ、来客とはカメリア侯爵でしたか、どうなさいましたか』


『ご報告し合おうか、と』

『成程、だからベールなのですね。どうぞ、コチラへ』


『はいどうも、お邪魔致します』


 タイミングが良い、と言ってしまって良いのだろうか。

 今は、この溜飲を、憎しみを紛らわせたい。

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