13 蝗害。
目の前でヨナ君が倒れた時はもう、どう魔法を得て貰うか、どう交渉しようかと考えていたんですが。
糖尿病じゃなくて、本当に良かった。
『安心しましたか』
「はい、ありがとうございました」
『いえいえ、すみませんね、専門家では無いので。膵臓の病気だと思ったんですが、違いました。お腹にちょっと悪いモノが増えてまして、ですが、ちゃんとしていれば暫くは再発しないそうですよ』
あんなにイキってたのに。
やっぱり仲間が居ないと萎れますか。
「偶に、こうなってたんです。でも、アイツら、仮病だろうって」
『まぁ、愚か者には病気の事なんて分からないでしょうからね』
やっぱり、大人万能神話中、ですかね。
厄介な子ですね本当に。
「どう、気を付ければ、良いですか」
『ソバは食べさせない、甘い物は控える、ちゃんと眠る。それと、本当は嫌な事から離れて欲しいんですが』
「コイツの分まで働きます、だから」
『他人の罪は他人の罪です、アナタが背負っても代わりは出来無い、それが罪なんです。もしそれが叶ってしまったら、親の罪を子が背負わなければならなくなる、どんなに無関係でもです』
きっとユサール君とは違い、誰も手を差し伸べなかったから。
違う意味で、もっと酷い事が有ったから。
なまじ青年期だから、ですかね。
「俺がして良い事って、何ですか」
『良い観点ですね、しちゃいけない事をしないのは、当たり前。戻って仕事をしながら話しましょうか』
「はい、お願いします」
おぉ、相方が倒れて素直になりますか。
宜しい、私に被害は無いですし、領主様は半ば自業自得ですし。
良いでしょう、少しだけ関わりますから、ちゃんと学習して下さいよ。
次に何かしたら、私は関心を持てなくなるでしょうから。
「カメリアさんって、不幸な方に甘いですよね」
分かる。
けど、何で今なの、カヨコ。
『ですよねぇ、今回の件で自覚しました』
《けどさぁ、それってある意味で、無意識に無自覚にバランスを見ての事だと思うんだよねぇ》
「あぁ、確かに」
『そう、なんですかねぇ?』
《誰もが同じ可哀想な子だけに手を差し伸べてたら、凄く不公平じゃん》
「そうなると、ある意味で正義感、ですよね」
《うん、それはそう》
『ん~』
《まぁ、自覚しなくても良いだろうから、別に良いんだけど》
「問題は、そうしたマジで不幸な方に好かれ易いんだろうな、ですよ」
《あぁ、ね?》
すっかり懐かれてるもんね、男子2人に。
『はい?』
《あの子達、凄い懐いてるじゃん?》
「不幸人タラシ、と私は名付けました」
《あぁ、うん、不幸人タラシ》
『えぇ~、普通にしてるだけなのに』
「そこですよ、そもそも彼らは普通に接して貰えない。なのに、既に全てを知っているのに、普通にしてくれる」
《そら懐いちゃうよねぇ》
『いや、でも』
「それと気安さ、かと」
『あぁ、ふぇ』
「良い点だと思いますよ、色んな意味で、もう私には出来ませんから」
《泣かないでカヨコ?》
「もう、涙も出ないんですよね。すっかり整理出来てしまって、あ、あの考察のお陰で整理出来たんですよ。ありがとうございます」
本当、すっかり整理出来ちゃったんだよね。
マジで。
『あぁ、どうも』
「若い男子は、そもそも、性欲と好意が最初から結び付いている可能性が有る。そして群れると強気になり、単独だと弱気な子が多い、コレは彼らや若い村人のお陰ですね」
『ほう』
「そして、私に弄ばれた、と言った子は。確かに、どちらかと言えば単独では気が弱いだろう子、でしたから。友人を自称する子達に、煽られたのかと」
『ですけど、だからって』
「はい、私が死んで後悔すれば良いんですよ、全員」
カメリア。
驚いてるけど、喜んでる。
だよね、嬉しいよね。
『凄い、開き直れたんですね』
「ですね、元から戻りたいとも思ってはいませんでしたし。確かに、娯楽や便利さは向こうには負けますが」
《翻訳が楽しいみたい》
「ですね、新たに勉強しながら翻訳も出来る、しかも生活には困らない。最高では」
『ふふっ、すみません。何か、嬉しくて』
《良い性格してるでしょ、カヨコ》
『ですね』
《本当、箱庭の中はこうだったのに、起きた時は違うからちょっと驚いたよ》
『あぁ、じゃあ、何のしがらみも無かったら。こうだったのかも知れませんね』
今度はカヨコが少し驚いて、喜んでる。
楽しいな、嬉しいな、やっぱり家族って良いよね。
《アンタ、あの方々に本当に付いて行くっ》
「今まで育ててくれてありがとう、けどコレで楽になるだろ」
『お前は何を』
「どう言われてるか知ってんだよ、俺の事も、この家の事も」
《けどもう》
『お前が気にして』
「妹が居るだろ、仕送りもする、じゃあな」
《なんで》
『どうして』
「アンタ達が助けてくれなかったからだよ!!言わなくたって、俺が、俺達が、どんな」
《けど》
『お前だって』
「ほら、だからだよ。コレに署名して送ってくれよ、じゃないとアンタ達が困る事になる、じゃあな」
《そんっ》
『待ちなさい、コレじゃあ追い出したみたいに……』
俺だって良い思いはしただろ。
そう綺麗事を言うだけ言って、結局は追い駆けて来ないだろう、って。
本当に、全部、その通りだった。
「どうでしたか」
「ありがとうございます、ルドルフ陪臣」
「いえ、では行きましょうか」
「はい」
血が繋がってるだけで、家族じゃなかった。
家族じゃなくなった。
いつからかは分からないけど、もう、家族じゃない。
「ちょっと、どうしたって言うのよ」
《コレは、養子縁組の紙じゃないか、何だコレは》
『アナタ達と縁を切りたいからです、僕が辛そうにしていても、助けてくれなかったからです』
「魔法を得ようとして失敗した事は責めないわ」
《そうだぞ、それに次の領主の帳簿の見張りは》
『今までに助けてくれてたら、助けました。でも、アナタ達は助けてくれなかった、だから離れるんです』
「そんな」
《お前だって》
『あんな苦痛を受けるなら、逃げたかった、でも逃げられなかったから甘んじていただけです。喜んで受け入れたワケじゃない、さようなら、今まで育ててくれてありがとうございました』
「ちょっと」
《待ちなさい、コレから……》
言われた通り。
予想通りだった。
まだ、ほんの少しだけ、家族だと思ってたのに。
『お疲れ様です』
『いえ、ありがとうございます、カメリア侯爵様』
『いえいえ、私は大人、アナタは子供。本来なら見守るのは当然の事、ですから』
でも、僕らは当たり前の事をして貰えなかった。
慰めて貰えなかった。
助けて貰えなかった。
なら、助けるワケ無いじゃないか。
『でも、ありがとうございます』
『いえいえ、私に被害は無いですし、もう誰かを害する気は無いかと』
『はい』
嫌な事を嫌だと分かってくれる。
守ってくれる。
優しくしてくれる。
「今日集まって貰ったのは、皆に聞かせたい事が有るから、だが。その前に、何か言いたい者は居るか」
ココに滞在するにも、それなりに費用が掛かります。
ですので、今日が期限、なのですが。
『では、始めさせて頂きます。サマンサ夫人、宜しくお願い致します』
『はい、帳簿についてのご報告です』
明らかに不安げに動揺していますが。
まだ、誰も何も言いませんか。
『では、報告を』
『帳簿にー!問題はー!有りませんでしたー!!』
ありがとうございます、サマンサ夫人。
「だそうだ、しかも私物の持ち出しすら無い為、領主の問題は不問とする」
『確かに現場を離れてしまった事は問題ですが、相当に、バッタが苦手な方だったのかも知れませんし。情報は掲示され、しっかりと告知されていた事が既に証言されていますので、不問とさせて頂きます』
「但し、直訴したい者が居るのであれば、ココで受けよう」
『今回は、特別に、書類の提出は後回しで結構ですからね』
コレは、最後通牒です。
そして、最終確認でも有ります。
彼が本当に仕事をしていたか、していなかったか。
アナタ方が貶めようとしたかどうかが、ココで分かりますから。
『ルイーズ騎士爵、私にお任せ頂いても』
『はい、宜しくお願い致します』
『領主様の罪はー!不問とされましたー!!不服の有る方はー!書類無しでー!受け付けるそうでーす!!』
『ありがとうございます、サマンサ夫人』
『いえいえ、大役を任せて頂きありがとうございます』
分かります、ココで相当にストレスを溜めてらっしゃいましたからね。
「では、受け入れたとするが」
『受け入れたとー!思って良いですねー!!』
「ふふふ、暴漢も逃げ出す迫力だ」
『その為の大声、ですから』
「あぁ、では、去るとしようか」
『はい』
『では皆様ー!さようならー!!』
もう、後から幾ら文句を言おうとも、コチラは決して譲歩はしませんよ。
もう既に、十分に、コチラは譲歩したのですから。




