12 蝗害。
「宜しくお願いします、アルベルト侯爵様、アガットさん」
『宜しくお願い致します』
「あぁ」
《おうおう、俺は庶民だが、この方は侯爵様だ。絶対に、間違っても、裏切るだ何だはしてくれるなよ。死にたいなら他の方法にしろ、死んだ方がマシな状態で、最も屈辱的なままで生かされる事になるからな》
「強制労働所では、見た目が良ければ仕事を取り上げられ、体を開く仕事に転向させられる事が有る。そして反応次第では歯を全て抜かれ、手足を切断される場合もだ、以降は特に気を引き締め行動して欲しい」
ビビってくれたか。
やっぱり、具体例ってのは必要なんだな。
「はい」
『はい』
《さ、仕事だ仕事。お前らはいつも通り、けど少しだけ気を付けて振る舞えよ》
「はい」
『はい』
坊主達には先ず、俺に付き添って道の整備だ何だをして貰う。
だが、問題はココの村人だ。
《どうもどうも、手伝いに参りまして、今日は何をしやしょうかね》
「あ、あぁ」
《じゃあ、向こうで道を、お願い出来るかしらね》
『そうね、お願いね』
坊主達に何を言われるか、何をバラされるかビビってんだよな。
なら、守ってやれば良かったものを。
まぁ、そこもまた後ろ暗いんだろうな。
どう関われば良いかも分からなかった。
どう言ってやれば良いのか分からなかった。
だから、放置した。
だから、手を差し伸べる事もしなかったんだろうよ。
けどよ、今、こうして機会が有るって言うのにな。
本当、何もしないんだコイツら。
《どうもどうも、お手伝いに来ましたが》
『お、アガットさん、手下を連れてやって来ましたか』
《いやいや、俺より学は有るらしいんで、本当はこんな事より帳簿をさせたいんですけどねぇ。まぁ、領主様が行方知れずで、サマンサ夫人が代わりをなさっておいでですから》
『あぁ、じゃあさぞ大変でしょうねぇ。蝗害対策も碌にさせない、しかも逃げ出してるんですし、そりゃ帳簿は酷いものでしょう』
ほら、機会をやるんだから。
言ってくれよ、最悪は誰にも信用されない村になっちまうんだから。
《まぁ、どうなんでしょうねぇ、まだ始めたばかりでしょうから》
『確かに、ではコチラはコチラで、出来る事をしませんとねぇ』
《ですねぇ》
何で俺達の事を連れ回ってるのか、やっと分かった。
「俺達の事を、守ってくれてるんだな」
俺達は魔法を得る事に失敗した。
誰も、何処からも声は聞こえなかった。
『あぁ、うん』
問い詰められる事も無い、脅される事も無い。
今まで通り、いつも通り。
「失敗して、死んでたら、どうなってたんだろうな」
『多分、特に変わらないと思うよ』
フェルナンド様は、俺達の処罰は遠征の最後に決めるって。
けど、もし領主様が心変わりしたら、俺達は強制労働所に送られる事になる。
蝗害対策の邪魔をしたし、魔法を得る事に失敗したし、何より領主様を脅して襲った。
「どうせ死ぬなら、殺してくれれば良かったのに」
僕らは、首を絞められながらされたり、道具を使われたり。
帳簿をさせられたり、偶に美味しい食事を食べられたり、良い服を貰えた。
だから、時には羨ましい、なんて事も言われた。
アンタ1人じゃなくて良かったね。
殺されないだけマシだ、なんせ生きてるんだから。
手足は無事でしょ。
けど良い食事が食べられるんだろう。
字も読めて計算も出来る様になったんだろう。
良い服が貰えたんだ、良かったじゃないか。
何をされてるか知ってたのに。
どれだけ苦しいか。
《おい、顔色が悪いぞ、坊主》
『いえ、まだ大丈夫ですから』
《いや、休憩しろ、コレは命令だ》
『はい、分かりました』
アイツは、ちゃんと願ってた。
けど、僕は願わなかった。
こんな村、滅べば良い。
そう思っていたし、今も思ってる。
けど、領主様には、本当に悪い事をしたと思う。
凄く甘えていたし。
あんなのは、本当に、八つ当たりだったから。
『大丈夫ですか、ヨナ君』
『アナタは、確か』
『カメリア侯爵ですどうも、顔色が悪いですよ、いつ食事をしましたか』
『朝食を、食べました。でも、偶に、有る事なので』
『意識を失った事が有りますね』
『はい、ですけど』
『コレを食べて下さい、それから、決して立ち上がらない様に』
『あの』
『食べなさい。衛生兵の方ー!!急患でーす!!』
『少し休めば』
『アナタは膵臓の病気の疑いが有ります、良いから黙って言う事を聞いて下さい』
『はい』
渡された塊は、多分、お砂糖で。
高い物を食べてしまった、申し訳無いなと思っていると。
《はぁ、はぁ、どうなさいましたか》
『多分、糖尿病です』
《とう、あぁ》
『すみません、低血糖の症状に似ていて』
《はぁ、すみません、運動不足で》
『あの、どうしましょうか』
《大丈夫です、診れます、から》
どうしよう。
大事になってしまっ。
「あの、彼は」
《あぁ、ご心配無く》
『正解は、腸カンジダ、でした』
「腸、ですか」
《はい、ですので低血糖は間違いでは無かったので、お砂糖は正解でした。ですが今回は腸に常在菌が繁殖しており、栄養吸収を疎外していた、と言った感じですね》
『悔しい、流石に専門外なので外しました。てか知りませんでしたよ、腸でもカンジダになるって』
《心因性のストレスは勿論ですが、物理的なストレスも有ったかと。直腸洗浄だとか、異物混入の影響により、腸内の奥まで荒れてしまっていた。それが何度も繰り返され、再発したのだろう、との見込みです》
もしかして、カメリアさんより知識が有る。
しかもココの知識では無い、ですよね。
『あぁ』
《ですがストレスの根源と離れる事が出来ているワケですし、ソバのアレルギーが僅かに有るので、ソレさえ避けていれば繰り返す事は無いかと》
『ですけど、半ば労役者なんですよねぇ』
《あぁ、難しいですねぇ》
この感じは、多分、既にコチラの事は知っているんですよね。
「あの、1つ、お伺いしても」
《あぁ、私は転生者です。しかも医療とは全く無関係な、商業系の被服デザイナー、でして》
『凄い、全くの異業種』
《はい、ですが。実は、当時は、ほぼ治療不可能な。感染性の、病気で》
『成程、それで辛かったので、ココでは医療系に』
《それも、半ば流れで、でも本当に医療には疎くて。助けを求めて頂かないと分からないんです、何がどうなっているかも、どう治せば良いかも》
つまり、カメリアさんが様子見をして正解だった、と言う事ですよね。
『ほう、でも治せちゃうんですよね、便利』
《あ、でもカンジダは無理ですからね。常在菌ですから、完全に消し去る事が出来無いんですよ》
『では癌は?』
《アレは腫瘍や異物と同じで、排出させるか消滅させる事は出来ますが。やはり、あまり老いていたり、体力が無い方は、そう直ぐには治せませんし。治す力を手助けする、だけ、ですから》
『でも治せちゃう』
《いや、患者さんの体の細胞を押すだけ、ですからね。寿命に関係する事や、テロメアや脳細胞には全く触れられないので、癌細胞以外を増幅させるだけですから》
『ふむ、成程、素晴らしい』
《いえ、全然。最初は、痛みを消してあげるだけ、を願っていたのに。こう、大役を、任されてしまって》
『あぁ、お祖母様、とかですかね』
《はい、背中の疼痛が激しくて。せめて、痛みが消せれば、と》
亡くなられてしまっているのでしょうか。
それとも、まだ。
『では、今は』
《あぁ、尿管結石でして》
『あぁ、アレはアレで激痛だそうですからね』
《本当に、心臓病か何かだと思ってたんですが。尿管を弛緩させて、何とか》
『弛緩させられるんですか』
《細胞に水分を多く含ませて、こう》
『あぁ、ほうほう』
『あの!』
『あぁ、サムソン君、ヨナ君は無事ですよ』
《ですが疲れも有る様ですから、起こさない様にしてあげて下さい》
『いえ、無事なら、良いんです』
『遠慮しないで下さい、ほら、行きますよ』
あぁ、カメリアさんって、本当にタラシですね。
容姿が平凡だったなら、きっと。
いえ、あの容姿だったからこそこうなった、のかも知れないんですし。
寧ろ私が出来無い事を、してくれている。
《カメリア侯爵って、凄いですね、元医療関係者の方なんですかね》
「あ、ご存知無いですか」
《はい、東にお2人だけ、似た方が居る。そうとしか、聞いてませんで》
「あぁ、そうなのですね」
確かに、2人だけ、とも言えますね。




