10 蝗害。
『ごめんなさい、八つ当たりでした』
「すみませんでした」
《いや、分かってくれれば良いんだよ。それに、もう2度と、同じ事をしないでくれれば良いのだから》
お人好しって、ココにも居るんだな、って感じ。
本当、凄いわマジで。
《この方は、こう言ってらっしゃいますが、彼は東の王族候補が任命した者。その者を害したアナタ達に、東の王族候補の方が何も罰を下さない。それが如何に難しい事か、分かりますか》
クローディア、静かにブチギレてたけど。
言うて優しいよね。
嚙み砕いて、分かるまで待ってくれるんだもん。
「はい」
『はい、罰を、受けるつもりです』
《では先ず、ご自身達で、どう償うべきかを良く考えて下さい。ですが、仕事はこなして頂きますよ、いつも通りに》
「はい」
『はい』
《それと、彼の事はくれぐれも内密に、愚かな村人に彼が殺されては元も子も無いですから》
「はい」
『はい』
《では、向かって》
「はい」
『はい』
後は、この可哀想な男爵なんだけど。
何て言うか、どう、すべきなんだろ。
いや、しっかりした補佐を付ければ良いだけ、か。
《クローディア様、本当に、何とお礼を言うべきか》
《まだ、事は済んでいませんよ。アナタもアナタです、お人好しも大概にして下さい、でなければこうして加害者を生んでしまうのですから》
うん、それは本当にそう。
《はい》
《では、女騎士の文官、私の部下として共に行動して貰います。良いですね》
《はい、謹んでお受け致します》
あ、もしかして、このまま女騎士団員もアリか。
若い子だけってのも、何か夢が無いもんね。
《カメリア》
『ぉお、ユサール君』
《少しだけ呼ばれて来たんだ》
呼ぶ理由は。
『あら、じゃあ』
《ううん、大丈夫。少しお話ししただけで、ちゃんと分かってくれたから》
『すみません、大人だけで対応しきれず』
《ううん、大丈夫、僕は本当に大丈夫だからね?》
ちょっと、変わりましたね。
けどコレ、良い意味で変わった、と言えるんですかね。
きっとユサール君を見せて、自分達だけが最悪だと思うなよ、と。
所謂トゥーリア様方式を採用した結果、改心させられた、と言うか何と言うか。
より下を指し示して、分からせただけ、とも言うか。
『何が有ったかは知りませんが、大体想像は付きます。助けてくれてありがとうございます、ですが、自分を過度に卑下したり』
《大丈夫だよカメリア、事実を言っただけだから。僕もクローディア様も、それだけだからね》
『だとしても、心の中の傷であろうと、傷を見せ付ける事は良く無い事で。ですが、愚か者の為に、協力してくれたんですよね』
《うん、でもそれだけだよ、それだけだから》
こうやって、大人に。
いや、ならそろそろコレも遠慮させた方が良いですよね、ハグ。
しかも、マジで好意が。
と言うか。
『どうやって、こう、私だと』
《オリガ様が教えてくれたんだ》
『ほう』
大人の余裕、ですか。
いや、ミハイルでは無くオリガ、だからですかね。
《ユサール、そろそろ》
《あ、はい》
『あ、ちょっとお待ちを。どうですか、ソチラは』
《あ、うん、大丈夫だよ》
《愚か者を捧げる事で、魔法を得たそうです》
《村全体との契約が出来たんだよ》
『ほう、珍しいと言うか、初耳では?』
《確かに珍しいですが、全く無い事も無いそうですよ、ソチラで言う異類婚姻譚に近いそうで》
異類婚姻譚。
川の竜神様の嫁になり、契約が守られている限りは村を守護する、とかでしょうかね。
『成程』
《じゃあ、またねカメリア》
『はいはい、ではまた、程々に頑張って下さいね』
《うん》
あの愚かな子達には無い、素直さが有るから楽、なんですよね。
ですけどねぇ、素直になれない事情と言うか、そうした環境だったと言うか。
いやでも、群れた弊害、かもですよね。
孤独に過ごしていれば、いつか何処かに助けを求めたかも知れない。
でもなまじ仲間が居たせいで、思考が変質してしまった、とか。
けどじゃあ、お人好し領主が居たんですし、少しは。
いや、以前の領主も最初はお人好しに見えた、とか。
有り得そうでしか無い。
しかも複数プレイが好みとか。
恐ろしい。
恐ろし過ぎる。
そうか、だから彼らを人身御供にした。
で、自分達とは違うのだ、と切り離した。
うん、やっぱり、諸悪の根源は元領主ですが。
領民も幾ばくか担ってしまっている。
『“カヨコさん”』
「“はい、何でしょう”」
『“やっぱり諸悪の根源は元領主、ですが、領民にも幾ばくか罪が有るのでは?”』
「“ですね、あまりの醜悪さに、彼らごと切り離したのだろう。と、ルイーズ騎士爵が仰っておりましたから”」
『“成程、それで、ココは”』
「“彼らを引き取り後、あまりの厳しさに持て余していた方を据え、様子見をなさる様です”」
まぁ、馴染みが良い方を据えても、また舐めた対応をするでしょうし。
貴族や領主とは本来、如何なる者か、分からせないといけませんしね。
『“成程”』
「“厳しい方って、こうして求められるモノなんですね”」
『ですね、ビシバシ、厳しくお願い致します』
「はい、承知しました」
内緒話や建前を言語で分ける。
サエコちゃんのこの手法、良いですね、便利だし楽。
「書類は、無事な様だが、何故だ」
幸いにも、書類関係はしっかりと隠し戸にしまっており。
虫の清掃を済ませるだけで、何とか過ごせる様にはなりましたが。
「それは、別に、そこまでは」
『完全に、失職して貰う事は、考えてはいませんでした』
「別に、そこまで悪いヤツじゃないとは、分かってましたし」
『そこまで、追い詰めるつもりは』
「だが、襲ったのだろう」
「アレは、少し、大人しくさせるつもりで」
『本気で、そこまで、しようとは思ってませんでした』
「だが、意図せず逃げられ、虫を招き入れる事態となった」
『はい』
「はい」
少し脅すつもりだった。
ですが、反応が思惑とは外れ、逃げ出させる事態となった。
「では、自分達が如何に感覚が麻痺しているか、理解したな」
本来なら、少しでも実力行使が伴えば恐慌状態に陥るだろう、と想像が付く。
ですが、彼らはそうは思わなかった、思えなかった。
「はい」
『はい』
守り合っているだけでは、正しさや手段を知らなければ、こうして危うくなってしまう。
私も、気を付けなければ。
「では、どうしたい」
『善人に、なりたいです』
「善人とは何だ」
『悪い事をせず、誰かを助けて、誰かを害さない事です』
「残念だが、不正解だ」
『それは当たり前で、普通の事、ですよ』
アナタ達の常識とは違っても、こうでなければいけないんです。
コレからは、特に。
「じゃあ、善人って」
『素直であり真面目、実直でありながら柔軟さも有り、善悪の区別がしっかりと付いている』
「一定以上の正義感を持ち、適切に憤り、効果的な行動が起こせてしまう」
あぁ、アイリス勲功爵の事ですね。
『そして、私欲や私怨より、国や民の為を考え行動する』
「驕らず、弁え、時に厳しい決断も下せる必要が有る」
『そして、賢く考え行動が出来る者こそが、貴族なのです』
「だからこそ、処罰せざるを得ないのは、分かるな」
「はい」
『はい、でも、僕達も悪いので』
「減刑を望むのであれば、お前達が善人である事が前提となる」
『悪人の願いを叶えていては、キリが有りませんからね』
半ば偽悪的だったとは言えど、悪人であった庶民には、難しい事でしょう。
ですが、例え被害者であろうとも、無辜なる貴族に手を出した罪は重い。
『私、カメリア侯爵と申します。ご覧の通り、他国の血が流れる者、そして元は庶民です。ですので、この方々の言う善人が難しい事なのが良く分かります、ですが』
「コレは意図せず出来ている、半ば性質だろうな」
『殿下ぁ』
「コレは元は庶民だからと、随分と自身の価値を低く見積もっているが、実際は先程の全ての事が備わっている」
『更には、知識も詰まってらっしゃいます。この方が諸外国に赴き、知識を蓄え戻って来て下さったからこそ、蝗害対策案が出されたも同然なのですよ』
すみませんカメリア侯爵、さぞ不本意な流れでしょう。
ですが、コレは真実ですし。
殿下の計算内では、アナタが加わる事が大前提、でしたから。
「女だから、庶民だからと、私は区別するつもりは無い。先ずは如何に性根が正しいか、それからだ」
『知識や才能だけでは、本来であれば、貴族としては不適格なのです。前任者に苦労した事には同情致しますが、性根まで影響されては、結果的に誰が喜ぶ事になるでしょうか』
理解して下さい。
影響を及ぼす事こそ、悪人の最も望む事なのだと。
「悔しいならば、変わる事だ。恨みを向けたい者が悔しがるであろう人生を歩む、そう見返す他には有るまいよ」
『まだ生きてらっしゃったなら、皮剥ぎの後、最も最悪な強制労働所へ行かせたでしょう。ですが、もう既に亡くなってらっしゃいますからね。悔しがるだろう人生を送る事こそが、最も効果的な復讐になるかと』
「あぁ、影響など無いのだと示すのが、最も効果的であろうよ」
どうか、理解して下さい。
悪しき者を否定したいならば、その出来事も含め全て飲み込み、消化してしまう事です。
切り離すのでは無く、例え醜くとも、自身の身にしてしまうのが1番なのですから。




