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悪魔貴族譚~ノビリタス・ディアボロス~  作者: 中谷 獏天
第17章 蝗害対策と家族。
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10 蝗害。

『ごめんなさい、八つ当たりでした』

「すみませんでした」

《いや、分かってくれれば良いんだよ。それに、もう2度と、同じ事をしないでくれれば良いのだから》


 お人好しって、ココにも居るんだな、って感じ。

 本当、凄いわマジで。


《この方は、こう言ってらっしゃいますが、彼は東の王族候補が任命した者。その者を害したアナタ達に、東の王族候補の方が何も罰を下さない。それが如何に難しい事か、分かりますか》


 クローディア、静かにブチギレてたけど。

 言うて優しいよね。


 嚙み砕いて、分かるまで待ってくれるんだもん。


「はい」

『はい、罰を、受けるつもりです』

《では先ず、ご自身達で、どう償うべきかを良く考えて下さい。ですが、仕事はこなして頂きますよ、いつも通りに》


「はい」

『はい』


《それと、彼の事はくれぐれも内密に、愚かな村人に彼が殺されては元も子も無いですから》

「はい」

『はい』


《では、向かって》

「はい」

『はい』


 後は、この可哀想な男爵なんだけど。

 何て言うか、どう、すべきなんだろ。


 いや、しっかりした補佐を付ければ良いだけ、か。


《クローディア様、本当に、何とお礼を言うべきか》

《まだ、事は済んでいませんよ。アナタもアナタです、お人好しも大概にして下さい、でなければこうして加害者を生んでしまうのですから》


 うん、それは本当にそう。


《はい》

《では、女騎士の文官、私の部下として共に行動して貰います。良いですね》


《はい、謹んでお受け致します》


 あ、もしかして、このまま女騎士団員もアリか。

 若い子だけってのも、何か夢が無いもんね。




《カメリア》

『ぉお、ユサール君』


《少しだけ呼ばれて来たんだ》


 呼ぶ理由は。


『あら、じゃあ』

《ううん、大丈夫。少しお話ししただけで、ちゃんと分かってくれたから》


『すみません、大人だけで対応しきれず』

《ううん、大丈夫、僕は本当に大丈夫だからね?》


 ちょっと、変わりましたね。

 けどコレ、良い意味で変わった、と言えるんですかね。


 きっとユサール君を見せて、自分達だけが最悪だと思うなよ、と。

 所謂トゥーリア様方式を採用した結果、改心させられた、と言うか何と言うか。


 より下を指し示して、分からせただけ、とも言うか。


『何が有ったかは知りませんが、大体想像は付きます。助けてくれてありがとうございます、ですが、自分を過度に卑下したり』

《大丈夫だよカメリア、事実を言っただけだから。僕もクローディア様も、それだけだからね》


『だとしても、心の中の傷であろうと、傷を見せ付ける事は良く無い事で。ですが、愚か者の為に、協力してくれたんですよね』

《うん、でもそれだけだよ、それだけだから》


 こうやって、大人に。

 いや、ならそろそろコレも遠慮させた方が良いですよね、ハグ。


 しかも、マジで好意が。

 と言うか。


『どうやって、こう、私だと』

《オリガ様が教えてくれたんだ》


『ほう』


 大人の余裕、ですか。

 いや、ミハイルでは無くオリガ、だからですかね。


《ユサール、そろそろ》

《あ、はい》

『あ、ちょっとお待ちを。どうですか、ソチラは』


《あ、うん、大丈夫だよ》

《愚か者を捧げる事で、魔法を得たそうです》


《村全体との契約が出来たんだよ》


『ほう、珍しいと言うか、初耳では?』

《確かに珍しいですが、全く無い事も無いそうですよ、ソチラで言う異類婚姻譚に近いそうで》


 異類婚姻譚。

 川の竜神様の嫁になり、契約が守られている限りは村を守護する、とかでしょうかね。


『成程』


《じゃあ、またねカメリア》

『はいはい、ではまた、程々に頑張って下さいね』


《うん》


 あの愚かな子達には無い、素直さが有るから楽、なんですよね。


 ですけどねぇ、素直になれない事情と言うか、そうした環境だったと言うか。

 いやでも、群れた弊害、かもですよね。


 孤独に過ごしていれば、いつか何処かに助けを求めたかも知れない。

 でもなまじ仲間が居たせいで、思考が変質してしまった、とか。


 けどじゃあ、お人好し領主が居たんですし、少しは。


 いや、以前の領主も最初はお人好しに見えた、とか。

 有り得そうでしか無い。


 しかも複数プレイが好みとか。


 恐ろしい。

 恐ろし過ぎる。


 そうか、だから彼らを人身御供にした。

 で、自分達とは違うのだ、と切り離した。


 うん、やっぱり、諸悪の根源は元領主ですが。

 領民も幾ばくか担ってしまっている。


『“カヨコさん”』

「“はい、何でしょう”」


『“やっぱり諸悪の根源は元領主、ですが、領民にも幾ばくか罪が有るのでは?”』

「“ですね、あまりの醜悪さに、彼らごと切り離したのだろう。と、ルイーズ騎士爵が仰っておりましたから”」


『“成程、それで、ココは”』

「“彼らを引き取り後、あまりの厳しさに持て余していた方を据え、様子見をなさる様です”」


 まぁ、馴染みが良い方を据えても、また舐めた対応をするでしょうし。

 貴族や領主とは本来、如何なる者か、分からせないといけませんしね。


『“成程”』

「“厳しい方って、こうして求められるモノなんですね”」


『ですね、ビシバシ、厳しくお願い致します』

「はい、承知しました」


 内緒話や建前を言語で分ける。

 サエコちゃんのこの手法、良いですね、便利だし楽。




「書類は、無事な様だが、何故だ」


 幸いにも、書類関係はしっかりと隠し戸にしまっており。

 虫の清掃を済ませるだけで、何とか過ごせる様にはなりましたが。


「それは、別に、そこまでは」

『完全に、失職して貰う事は、考えてはいませんでした』


「別に、そこまで悪いヤツじゃないとは、分かってましたし」

『そこまで、追い詰めるつもりは』

「だが、襲ったのだろう」


「アレは、少し、大人しくさせるつもりで」

『本気で、そこまで、しようとは思ってませんでした』

「だが、意図せず逃げられ、虫を招き入れる事態となった」


『はい』

「はい」


 少し脅すつもりだった。

 ですが、反応が思惑とは外れ、逃げ出させる事態となった。


「では、自分達が如何に感覚が麻痺しているか、理解したな」


 本来なら、少しでも実力行使が伴えば恐慌状態に陥るだろう、と想像が付く。

 ですが、彼らはそうは思わなかった、思えなかった。


「はい」

『はい』


 守り合っているだけでは、正しさや手段を知らなければ、こうして危うくなってしまう。

 私も、気を付けなければ。


「では、どうしたい」


『善人に、なりたいです』

「善人とは何だ」


『悪い事をせず、誰かを助けて、誰かを害さない事です』

「残念だが、不正解だ」

『それは当たり前で、普通の事、ですよ』


 アナタ達の常識とは違っても、こうでなければいけないんです。

 コレからは、特に。


「じゃあ、善人って」

『素直であり真面目、実直でありながら柔軟さも有り、善悪の区別がしっかりと付いている』

「一定以上の正義感を持ち、適切に憤り、効果的な行動が起こせてしまう」


 あぁ、アイリス勲功爵の事ですね。


『そして、私欲や私怨より、国や民の為を考え行動する』

「驕らず、弁え、時に厳しい決断も下せる必要が有る」


『そして、賢く考え行動が出来る者こそが、貴族なのです』

「だからこそ、処罰せざるを得ないのは、分かるな」


「はい」

『はい、でも、僕達も悪いので』

「減刑を望むのであれば、お前達が善人である事が前提となる」

『悪人の願いを叶えていては、キリが有りませんからね』


 半ば偽悪的だったとは言えど、悪人であった庶民には、難しい事でしょう。

 ですが、例え被害者であろうとも、無辜なる貴族に手を出した罪は重い。


『私、カメリア侯爵と申します。ご覧の通り、他国の血が流れる者、そして元は庶民です。ですので、この方々の言う善人が難しい事なのが良く分かります、ですが』

「コレは意図せず出来ている、半ば性質だろうな」


『殿下ぁ』

「コレは元は庶民だからと、随分と自身の価値を低く見積もっているが、実際は先程の全ての事が備わっている」

『更には、知識も詰まってらっしゃいます。この方が諸外国に赴き、知識を蓄え戻って来て下さったからこそ、蝗害対策案が出されたも同然なのですよ』


 すみませんカメリア侯爵、さぞ不本意な流れでしょう。

 ですが、コレは真実ですし。


 殿下の計算内では、アナタが加わる事が大前提、でしたから。


「女だから、庶民だからと、私は区別するつもりは無い。先ずは如何に性根が正しいか、それからだ」

『知識や才能だけでは、本来であれば、貴族としては不適格なのです。前任者に苦労した事には同情致しますが、性根まで影響されては、結果的に誰が喜ぶ事になるでしょうか』


 理解して下さい。

 影響を及ぼす事こそ、悪人の最も望む事なのだと。


「悔しいならば、変わる事だ。恨みを向けたい者が悔しがるであろう人生を歩む、そう見返す他には有るまいよ」

『まだ生きてらっしゃったなら、皮剥ぎの後、最も最悪な強制労働所へ行かせたでしょう。ですが、もう既に亡くなってらっしゃいますからね。悔しがるだろう人生を送る事こそが、最も効果的な復讐になるかと』


「あぁ、影響など無いのだと示すのが、最も効果的であろうよ」


 どうか、理解して下さい。

 悪しき者を否定したいならば、その出来事も含め全て飲み込み、消化してしまう事です。


 切り離すのでは無く、例え醜くとも、自身の身にしてしまうのが1番なのですから。

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