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悪魔貴族譚~ノビリタス・ディアボロス~  作者: 中谷 獏天
第17章 蝗害対策と家族。
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9 蝗害。

【アンタ、どうせ童貞じゃないんだろ?】

【しかもココには、処女膜なんて無い】


《や、止めてくれ、頼む》


【そう言ったのにさ、前の領主様は、俺達に】

【させないと言い触らす、税を上げるって】


《私はそんな事をした事も、するつもりも》


【もう、どうだって良いんだよ】

【支配するかしないか、でしょ?】


【前の領主様が、そう言っててさ】

【確かにな、って】


《頼む、止めてくれ》


【恨むなら、前の領主様を恨めよ】

【アイツが全部、壊したんだから】


《止めてくれ!!》

「大丈夫だ、もう問題は無い」


《あ、アナタは》

「東の王族候補、フェルナンドだ」

『コチラが書類となります、どうぞ』


 紙は、確かに本物で。

 印章の指輪も、確かに絵と同じ、けれど。


《何故、ココを、アナタ方が何故ココに》

『蝗害の被害が最も少なく、帝国より報奨金を賜り、視察と女騎士団設立の公表にと村へ寄ったのですが。告知はお読みになりましたか』


 もしや彼らに、握り潰されていた。


《いえ》

『使用人や陪臣は、どうなさったのです』


《民が怯えておりましたので、その殆どを、手放す事に》

「何故、私や伯爵家に相談しなかった」


《私が、誠意を見せ続ける事で》

「だが、蝗害問題が有っただろう」


《もし、実際に蝗害が起きたなら、魔法を得ると》

「であれば、得られなかったか、騙されたかだ」


《では村は》

『壊滅状態です、城から北東に向かい、円形に周囲を視察する予定でしたが。最も、被害が大きい』


《そんな、虫除けの方法も》

「とてもそうは見えなかったが」

『そうですね、まだ幾ばくかしか見ていませんが、あぜ道の修繕は僅か。きっと、アナタが開け放った屋敷にのみ、使われたのでしょう』


 確かに鍵はしていないが。

 開け放つなど。


《そんな》

「では、ココで、一体何をしている」


 私は。

 私は、ココへ、逃げ出した。


《もう、逃げ出す他に、無く》

「書類はどうなっている」


《申し訳御座いません》


 着の身着のままで逃げ出してしまった。

 貴族の職務を放棄し、私は。


「事情が事情だ、そこまで咎める事はせぬ。だがココで、今直ぐ、決断して貰おう」

『外には村人が居ます、選んで下さい、女性としてココから出るか。このまま、男爵として殺されるかです』


 女性として。


《一体、何を》

「魔道具は既に理解しているな」

『この指輪を嵌め、この制服を着るか、このまま出るかです』


 魔道具。

 女性。




「すまんな、騒がせた」

『無事に団員を見付ける事が出来ました、ありがとうございます』

《も、申し訳、御座いませんでした》

『いえいえ、私らも迷う場所、ですから』

《にしても、こんな所に山小屋が有ったんだねぇ》

「あぁ、だな」


 可哀想な領主は、女騎士を選んだ。

 本当に良かったですよ、流石にココでいきなり修羅場が始まってしまったら、私がカナコさんに何かを願ってしまう所でした。


「さ、参りましょうか」

《は、はい》


 珍しい鳥が見えた気がしたので、少し様子を見に行く、と。

 そこから団員がはぐれた、としているので、怯えや恥ずかしそうにしていても問題は無い。


 ですが、あの男が気になります。

 最初は全く興味無さげにししていた筈が、小屋を見付けると直ぐに単独で動こうとした。


 しかも、未だに小屋を覗き込んでいる。

 完全に、アレが犯人の一部でしょう。


「先程の方ですか」


《はい》

「大丈夫ですよ、何も問題有りませんから」


《本当に、申し訳御座いません》

「いえ」


 もし彼に間違いが有るとするなら、きっと善良過ぎた事でしょう。




『失礼します、ルイーズです』


 私は、確かに助かった。

 けれど、全てが終わったワケでは無い。


《はい、どうぞ》

『失礼します、お加減は如何ですか』


《はい、問題は有りません》


 あの小屋は、いつか息抜きにと。

 就任当初に、少しずつ酒や食糧を私財から備蓄を増やし、いつか過ごせる様にと。


『では、改めてお伺い致しますが、事の発端からお教え頂けますか』


《はい……》


 就任以前の視察では、暗く淀んだ様な村だ、そうした印象でした。

 そして就任した際は、先ず領民の怯えが気になりました。


 それ程、以前の領主が酷かったのだろう、と考え。

 出来るだけ使用人を手放し、村人の中でも比較的領主の補佐が出来る者を、屋敷に入れる事にしたのです。


 そうすれば、いつか理解を得られるだろう。

 何も隠し事は無い、だからこそ、いつか。


『手紙などは』


《申し訳御座いません、不信感を拭う為にと、見せていました》


 だからこそ、蝗害対策についても、理解しているだろうと。


 甘過ぎました。

 全ての責は、私に有ります。




《あれ、あの子らはどうしたんだい》

「お貴族様のお仕事の手伝い、だそうだよ」

『はぁ、流石に王族候補様には、何もしないだろうね』


《いや、まさか、単なる貴族とは違うんだ》

「そうそう、字も読めるし計算も出来るんだ、流石にそこまでバカじゃないだろうに」

『だと良いんだけれどねぇ、どうやら隣では、補助金とか言うのを貰ったそうじゃないか』


《補助金、けど確か、隣は何の被害も》

「なら、報奨金も同然じゃないか」

『どうやら何の被害も無いと、出るらしいんだよ』


《はぁ、じゃああの子達の作戦が裏目に出たってワケかい》

「俺達が抑え込んで上手くやる、って。けど、やっぱり、所詮は庶民の子って事かねぇ」

『最悪はあの子らだけのせいにすりゃ良いさ、私らは何をしたか、なんて知らないんだからね』


《まぁ、大体は想像が付くけれど、ねぇ》

「まさか、ねぇ」

『賢い子なら、きっと上手くやるさね』


 クローディア、男色家なんだけど、ちょっと違うから大丈夫かなって思ってたんだけど。

 全然、怒ってるんだよね。


 だから今回の件は主導するって言った時は、何も言わなかったんだけど。


《良かったですね、アナタ方の大切な村人の本性が知れて》

《ね、じゃ、正直にお話しに行こうねぇ》

「んんっ、ん」

『ん、んんっ』


 たった2人だけで、この村を壊滅状態に追い遣ったんだよね。

 凄いよね、バカが恨みを持つと、本当にどうしようも無い。


 あぁ、だから、恨むより前を向けって世間は言ってるのか。

 だよね、バカばっかりなんだから。


「んー!」

『んんっ』

《はいはい、君達には、ちゃんと弁解の場が有るよ》

《そうそう、だから正直にね、じゃないと死んだ方がマシな目に遭うから》




 俺達は、以前の領主に手籠めにされた。

 しかも、夫人まで加わってだ。


「若いから、少し容姿が良いから、それだけ」

『アイツらも知ってたんだ、字や計算を覚えられて、羨ましいわねって』


「そうやって、俺達を」

『だから、全部、壊してやるつもりだった』


《では、何故、現領主まで追い込んだのですか》


「それは、アンタ達が、何もしなかったからだよ!!」

『ずっと、待ってたのに、何の音沙汰も無かったじゃないか!!』


 何か、償いが有るんじゃないか。

 何か、謝罪が有るんじゃないかって。


 なのに、何も無かった。


 前の領主を処分した告知も掲示も。

 何も、無かった。


《以前の領主の資料が特に無いから、ですよ。金と帳簿を持ち逃げし、行方知れず、だそうですが。実際には既に事故死、そして内々に身内に処理され、しかもその身内は焼き討ちに遭い殺されていた》


 書類も、証拠も、何も無い。


「そんな」

『まさか』

《何かしらの資料が無ければ、訴えが無ければ、動く事は出来無いんですよ。それとも、何の証拠も無く、何の証言も無いと言うのに罪を裁けとでも仰いますか》




 先んじてはならない、それは単に甘やかすだけ。

 先手を打つのは、明らかに不足しているだろう、そうした事だけ。


 念押しをするのは、それだけ重要な事だから。


「けど」

『でも』

《全てを押し付け、何もせず、何の責任感も無くただ甘えるだけ。それが民なら、子供なら許される、とでも》


 証拠を提出、若しくは証人を伴い直訴すれば良かったモノを。

 敵意を剥き出しにし、無辜なる者に敵意をぶつけ、更には村に被害を齎した。


『誰かが、何かが、残ってると』

《それなりに醜悪な者ですよ、例え愚かであろうと、再編前まで生き残る事が出来ていた。そう仲間が居る事に、思い至りませんでしたか》


『けど、そこにも、何も残って無かった』

《はい、手掛かりや痕跡は、その地の領民により焼き尽くされました》


 愚か者の暴力は、本人達の想像を超える被害を齎す。


『そこは、今は』

《その村に全て、留めさせています、抜け出せば即死罪。何の戸籍も無い、身分を示す物が何も無い、そうした状況ですから》


 管理に手を割く事で、手一杯な状況です。

 自分達で書類を書かせ、村人全員に確認させ、それから正式な書類として受理している。


 そのお陰か、蝗害対策はして頂けましたが。

 魔法を得るまでには、至る事は出来無かったのですよね。




「けど、でも」

《貴族や王族候補であれば、何でも知っていて、何でも出来るとでも》


 違う。

 そうじゃない、そうじゃないから、僕らは。


「だとしても」

『直訴だなんて、思い付きませんでした』

《虐げられた被害者だから、ですか、それとも恥ですか》


「アンタ」

《不思議ですよね、あまり酷い状態が長く続くと、自身がこの世で最も可哀想な者だと錯覚するか。若しくは、自身より更に酷い状態の者が居る、とは想像が難しくなってしまう。ユサール、来て頂けますか》


《はい》


 その男の子の目は、完全に左右で色が違った。

 しかも、腕の色も。


《この子は中央に近い場所で過ごし、目をくり抜かれ、貞操を守ろうとしたが故に腕を切り落とされた元令息。救い出されるまで、誰も助けてはくれなかった、それこそどんな大人でもです。ですが、だからこそ、救いを求める事すら出来無かったのは分かりますが。一体、アナタ達は、何を失ったと仰るんですか》


 僕らの体に、欠けは無い。


「だとしても」

《領主は交代しました、願えば良かったのですよ、手助けを請うべきだった。それとも、彼より中身が子供だから、庶民だからですか。ですが、だから何だと言うのです、助けを請い願う事を禁じられては居なかった筈ですよ》


 僕らは。

 僕らは。


《僕は、僕らは手を差し伸べられて、助けて貰えたから生きています。でも、今まで助けてくれなかった誰かを、恨んではいません。だって、僕も、誰かを助けた覚えは有りませんから》

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