8 蝗害。
『いや~、本当に凄い』
「ですね」
《見直した?》
『まぁ』
今回、制服が揃ったので、初めて公開試合が行われたワケですが。
種目は、肉弾戦。
1番に強いのは、やっぱりルイーズ騎士爵。
そして2番目には、何とオリガ騎士爵。
その次にアナスタシア騎士爵で、時点がシャルル騎士爵。
そしてクローディアと名乗っている、クローディアス侯爵はマジで凄い弱いので、女騎士団の文官だからと棄権。
にしても、あの筋肉に勝っちゃうんですねぇ、ミハイル侯爵。
意外にもガチ強でした。
『では次に、皆様と試合を行わせて頂こうかと、どの様な試合もお受け致しますよ。武器は勿論、模擬刀ですが、全力でお相手致しますよ』
あぁ、何か有ったんですね。
完全に殺すつもりですよ、あの笑顔。
「いやぁ、あんだけ強いんだ」
《流石になぁ、恥をかくのも》
『皆様、遠慮なさらないで下さい。見た目だけだろう、との言葉を女騎士団の者が耳にしましたので。是非ご参加頂ければ、憲兵や騎士も目指せますよ、勝てれば、ですが』
あー、アイツらですか。
『ルイーズ騎士爵~、きっとお怪我の治療費を懸念されていらっしゃるのかと~』
『あぁ、失礼致しました。では勝っても負けても、参加費をお出しする形で、定員は5名までとさせて頂きましょう』
『では支払いは私の私財から~、小銅貨5枚で~』
『ありがとうございます、カメリア侯爵、ではそうさせて頂きましょう』
小銅貨5枚だと、大体の怪我はカバー出来ますからね。
さぁ、乗らないワケにはいきませんよねぇ。
なんせお金は出るし、勝てば、騎士爵も目指せるんですから。
「お前なら、余裕だろ」
《いや》
『折角だ、遠慮すんなよ』
「それとも、口だけかよ」
『まさか、そんなワケ無いよな、自信満々だったんだし』
《お、俺が、出る》
『ではどうぞ、コチラへ』
秒で投げ飛ばされてやんの。
アイツ、どうせ見た目だけだろう、とか言ってたんだよな。
ダッサ。
《かはっ、くっ》
『あぁ、まだ足りませんか、ではどうぞ』
あっ、今度は顔面から。
うわぁ、痛そう。
弱いヤツ程イキがるって、マジだったんだな。
《くっ、クソっ》
『まだ立たれますか』
おぉ、絞め技か。
凄い柔らかいのね。
お強いですなぁ、女騎士様は。
《ぐっ》
『あぁ、コレだと喉仏を潰してしまうか、失神させてしまうかも知れませんね』
お、今度は腕を取ったぞ。
アレ、あのままだと、折れるんじゃないのか。
でもまぁ、バカにしてたんだろ、アイツ。
《い、いや、もう》
『ギブアップ、と言って頂けませんと、失神させる他に無いのですが』
ありゃ折れるな。
えっ、でも。
コレ、どうやって止めるんだ。
《ぎっ》
『見た目だけだろう、でしたっけ』
《ちがっ》
『私が、聞いた本人、ですよ』
《そ、あ》
『あぁ、謝罪は結構ですよ、腕を折らせて頂きますから』
あ、アレ。
いや、まだだ、加減してくれてるんだろうな。
本当、男って負けを認めるのが嫌いよねぇ。
《ギブ、ギブアップ!!》
圧勝でしたなぁ。
本当に、しかもあっと言う間に決着が付いたわね。
おい、お前の家の息子だろ。
いや、どうも。
あの方々をバカにするとか、もし俺達が守って貰えなくなったら、どうするんだよ。
そうよ、どんな躾けしてんのよ。
しかも、ウチの村は補助金まで頂いているのに。
次に何か有って何の情報も入って来なかったら、アンタらの責任だからな。
しかも、帝国からの報奨を貯め込まず、こうして使ってくれてるって言うのに。
いや、ウチは。
『皆様、もう、参加なさる方は……いらっしゃいませんかね……。では、コレにて、公開試合を終了とさせて頂きます、皆様、ご清聴ありがとうございました』
『はい、拍手!』
私は、本当に、恐ろしい方々を敵に回す所でした。
《お疲れ様で御座います、ルイーズ騎士爵》
『どうも、ナオミ嬢』
《いえ》
最初にシャルルと共に東の城に呼び戻された時は、本当に、どう処分されるのかと。
ですが、女騎士団設立の事、そして各重臣方の性別変更について聞かされ。
私は、一体、どうすれば良いのか全く分かりませんでした。
ですが、任命頂いたのです。
女騎士団付きの侍女に。
「本当に素晴らしい技の数々でした」
『いえ、長年の修練の賜物ですから』
「では、殿下も」
『はい、あぁ、ルイス侯爵からその様にお伺いしております』
「成程、さぞ殿下もお強いのでしょうね」
『はい、そうですね、剣技は随一かと』
シャルルも既に、性別変更などの事は知っているのですが。
コレは、敢えて。
《シャルル騎士爵も如何でしょうか》
「あぁ、頂きます」
飲食物は私の管理となっている、それに、毒味も。
『あの、差し入れを、させて頂いても』
《ありがとうございます、ですが、先ずは味見をさせて頂きますね。皆様の苦手な品が、間違いと言えど入ってしまっている、かも知れませんから》
『えっ』
「あぁ、僕は蕎麦が苦手なんです」
『私はシナモンが苦手なんですよ』
《ご馳走様です、どちらも入っていないかと》
『あ、あぁ、はい』
《では、どうぞ》
『ありがとうございます』
「頂きますね」
『は、はい』
味見、とさせて頂いておりますが。
コレは毒味。
「うん、美味しいですね」
『アーモンド、でしょうか』
『はい、そうなんです』
『お気遣い頂き、ありがとうございます』
「携帯食にしますね、ありがとうございます」
『あ、はい、いえいえ』
「僕は菓子作りが全くなので、羨ましい限りです」
『ですね、お時間を頂いてしまったかと』
『え、いえ、大した時間は掛かっていませんので。それに、皆様には、とても感謝しておりますから』
女性が女性に憧れる事が出来る。
それは強さへ、美しさへ。
それは良いのですが。
出来るのであれば、単に憧れるだけでは無く。
ココに加わろうとして下されば、最も望ましい形、なのですが。
《ルイーズ様、シャルル様、そろそろ》
「あぁ」
『すみません、このまま仕事に戻りますので、支度をしなければならず』
『あ、いえいえ、お邪魔致しました』
女騎士団遠征の侍女に、と命を受けた段階で。
味覚と嗅覚を鋭敏にする魔法を、私は得ました。
シャルルの身は勿論、叔父様や各王族候補の方々に何が出来るか。
そして、如何に身を犠牲にせず、魔法を得るか。
そう考えた結果、この魔法に落ち着いたのです。
毒、だけが毒では無いですから。
「何故、僕らの事を何も知らない庶民の方が、差し入れをなさるんでしょうか」
『良く似た見知らぬ存在、畏怖から仲間にしたい、同じ存在なのだと確認したいのでしょう』
「成程、ありがとうございます、ルイーズ様」
『いえ、では行きましょうか』
「はい」
私は、次こそは、決して期待を裏切らぬ様に行動したい。
そう考えております。
《天と地の差が、エグぃ》
「ですね」
魔法を得なかった事は、責められるべき事では無いので、ある程度の対策さえなされていれば補助金は出るんですが。
ココは、本当に、ほぼ何もしていない様にしか見えない。
「領主はどうした」
《そ、それが……》
誰への恨みからか、蝗害が訪れた際に城内を開け放ち、金や書類を持ち出し逃げたらしい。
そして民は、殆ど相手をして貰えず、何とか周囲からの情報で対策を施したものの。
そもそも、蝗害の情報を知った時点で、間に合わせる時間も無かったと。
《嘘、なんじゃよねぇ》
《あぁ、やっぱり、何か変な感じがしてたんだよね》
ドリアードとカナコさんの声は、他人が近くに居る間は私にだけ、聞こえる様にして貰っている。
「殿下」
「あぁ」
「虚偽かと」
こうして耳打ちをするには、やはり男性の体と立場は便利なんですよね。
ルイーズ騎士爵が近寄るだけでも、誤解が生まれてしまう状態ですから。
「では本腰を据え、ココの対策を考えるべきかも知れんな」
「はい、そうかと」
「お前が代理で構わぬか」
《は、はい、私めで良ければ》
「では無事な空き家を幾つか案内してくれ」
《はい、直ぐにも》
その村で、私達は想像以上の醜悪さを目の当たりにする事になりました。
《まぁ、あまりにややこしいで、我が最初から説明してやろう》
《村人が領主を虐げ、領主は逃げ出し、今は打ち捨てられた山小屋にて身を潜めている》
《オセぇ》
『ココから近いのでしょうか』
《いや、村人すら知らぬ山小屋だ、就任前の視察で見付けたモノ》
何か嫌な雰囲気だなって思ってたけど、ココ、マジでヤバそう。
『成程、では救出に向かうべきですが』
「問題は、何処に匿うか、だが」
バツイチの中年男性、なんだよね。
《あ、アレじゃん、性別を変えちゃえば良いじゃん》
『あぁ、ですが善良な者かどうか』
《問題は無い、善良だ》
『ですが、虐げられていたのですよね、村人達に』
《あぁ、男色家による、性的な脅迫行為が行われた》
《はぁ、何て事を》
クローディア、違うっちゃ違うのに。
分かるよ、似た指向、同性だもんね。
『よし、焼き払いましょう』
「ですね」
《うん》
『ですが、特定の人物だけが』
《いや、他の者も知っている。潔癖さを嘲笑い、純血を守ろうとする男を嘲笑い、この結果すらも嘲笑っている》
えっ。
あぁ、純血って、そう言う意味ね。
『では、真面目に取り組もうとしてらっしゃったのですね』
《だが民は対策を講じず、敢えて悪名を着せ、支配しようとしていた》
『まさに極悪集落』
《にしてもバカ過ぎない?自分達の食べ物だって》
《いや、領主の屋敷に隠させている。だが、今回は溜め込んでいた事にさせるだろう》
『何故、そこまで』
《以前の領主がしていた事を、そのまま返している、だけだそうだ》
『あぁ』
《けどさぁ、今の領主は全くの別人でしょ?》
《だが、領主は領主、貴族は貴族だ》
『不味いですね、アレは回収させましょう』
《あ、だね》
《後列にしといて良かったですね、ですが、どう回収させましょうか》
「北より面談の申し込みが有り、護送予定だ」
『はい、そうさせて頂きます』
「では、直ぐに動くとしよう」
遠征には、必ず何か有るとは思ってたけどさぁ。
こんな酷い事が有るとか、想像出来無いじゃんよ。




