7 蝗害。
《はぁ》
「それでも、北で鍛えられたご令嬢なのですか。この程度で、疲れた顔をなさるなんて、さぞアレキサンドリア様やヴラド殿下がガッカリなさるかと」
何よ、偉そうに。
《何よ、たかが庶民の分際で》
「その庶民に何もかも負けている分際で、憎まれ口ですか、何処までも卑しい方」
《貴族令嬢を侮辱したわね》
「最初にアナタが庶民の分際で、と侮辱したのでは」
《あの程度》
「であれば、この程度、我慢なさって然るべきかと。役立たずの無能令嬢、なのですから」
《煩いわね!この年増っ!!》
アナタが悪いのよ。
アナタが煽るから。
「つっ、口で負けたからと言って、今度は手を挙げるだなんて。何処までも下品な」
《煩いって言ってるのよ!!》
「ふっ、ふふふ、悔しかったら私をしのげば良いだけだと言うのに」
《煩い、煩い煩い煩い!!》
許さない。
踏み潰してやる。
殴り殺して、踏み躙って。
「北の令嬢も、大した事は無い様だな」
『えぇ、そうですね』
《アイボリー》
「あぁ、大丈夫よ、どうせひ弱な令嬢の暴力だもの」
「だが手当を、帝国からの使者で有る事に変わり無いのだから」
帝国。
《えっ》
『庶民と言えど、帝国の王城にて家政婦をなさっていた方です、少なくともアナタより地位は高い』
「恥を知れ、庶民と言えど何処の者か、それ次第で変わるのだと教えた筈」
『ですが、忘れてしまっていたのでしょう』
ルイーズ騎士爵なら。
《そ、そうなのです、しかもあの女が》
『残念です、ココで反省し謝罪の言葉を言って下されば、まだ甘い処分が出来ると言うのに』
「あぁ、実に残念だな、見せしめ令嬢が誕生してしまうとは。実に残念だ」
笑っている。
嵌められた。
最初から、私は、見られていた。
『ちょっ、何が』
「あぁ、大丈夫ですよ。単なる見せしめの為に炙り出しただけ、ですから」
「でも、お怪我をなさって」
「大丈夫です。実はこの隊の中に、傷病の回復が出来る方を、帝国よりお貸し頂いているんです」
『けど、だからって、なら私に』
「いえ、アナタ様が傷付けられる事は、更に罪を重くしてしまいます。私は庶民、罪を犯させるには相応しい立場は私だけ、ですから」
『いやこう言っては何ですが、アガットさんが』
「ダメですよ、私の経験や知識は替えが利くのですから」
『でもです、ご相談を』
「カメリア侯爵、先ずは治療を」
『あぁ、失礼致しました』
「いえ、では、失礼致しますね」
「はい」
以前であれば、きっと、私もカメリアさんと同じ意見を言っていたでしょう。
ですが、カメリアさんには立場が有る。
そして私は、未だに守って貰っている立場。
だからこそ、良く分かる。
『ルドルフ陪臣』
「もう、同じ事は2度となさらないかと。今回は、仕方の無い事、と思うしか無いんです」
立場が有る。
だからこそ、背負えない事が有る。
『分かりますが』
「ココが醜悪だからこそ、こうして守られる事になってしまう。少人数の弊害ですが、いずれ誰かが犠牲になり、見せしめが必要になったかと」
庶民だから、と無礼を働いても良い。
他の王族候補からの紹介だから、と尊大で傲慢な態度を取っても良い。
そう考える輩が居る限り、何処でも起こり得る事。
いつか、誰かが不愉快な思いをする。
それが、この国、ですから。
『“あまり、正義感は無い方だと思っていましたが、素手で百叩きの刑に処してやりたんですが”』
「“手が腫れちゃうからダメです、ですが、煽って石を投げる許可は取ってみましょう”」
『宜しくどうぞ』
「はい、お任せを」
おい、アレ見ろよ。
何だアレ。
おい、何て書いて有るんだ?
北より貸し出された、元使者、現令嬢だってよ。
おいおい、何で令嬢があんな事になってんだよ。
アレか、見せしめってヤツか。
らしい、庶民だからって、東の城で働く偉い使用を侮辱し殴る蹴るを行ったってよ。
おいおいおい、マジかよ。
何でたかが令嬢の分際で、庶民をバカにするかねぇ。
何の地位も無い、しかも親が少しでも悪さをしたら、俺達と同じ単なる庶民になるってのにな。
いや、最悪は強制労働所だろ。
じゃあ、この後は強制労働所送りかよ。
いや、書かれているのはさっきのと、令嬢や令息に侮辱されるのが嫌なら石を投げて良いってさ。
そんなの、投げるしか無いだろ。
けど死なれたら困るし、小さいのにしておくか。
但し1回だけ、侮辱の言葉も合わせて良いってよ。
おぉ、やるじゃん。
良いな、よし、投げるか。
「税金を無駄にするなー!」
《侮辱するなら返しやがれー!》
『殴る蹴るの前に働けバカヤロー!』
《くっ》
言い返せば、不味い食事に切り替えられるし、水も抜かれるので大人しくしているだけ。
でしょうね。
何ともまぁ、苦々しい顔をなさる。
それなりの容姿、それなりの家に育ったのに、勿体無い。
《カメリア?大丈夫?》
『あぁ、それなりだったのに、勿体無いなと思いまして』
《そうだね》
また、オッパイを。
『オリガ様、ソレ、他の方になさってないでしょうね』
《うん、カメリアだけだよ》
何か、嫉妬してる様に受け取られかねませんね、コレ。
『いや、お仕事であれば構いませんが』
《大丈夫、勘違いされそうな事は同性にもしてないから》
まぁ、非童貞だそうですし。
しかも、非処女て。
『すれば収まりますか、ソレ』
《あぁ、性欲と好意の混同ね。うん、無いよ》
既に先手を。
流石、手練れ。
『そうですか』
《こうやって一緒に居るだけでも幸せだよ》
自分の容姿が周囲と似た様な土台に立てば、少しはトキメクか、勘違いをしそうになるかと思ったんですが。
何ですかね、異次元的な相手に言われているせいか、宇宙猫と化してしまうと言うか。
急に、離人感、画面越し感が出てしまう。
『では、折角こうして好意や情愛を理解したんですし、良く周囲も見渡して頂けると助かります』
《うん》
百合に興味の無い、百合に好意を持たれた方って、こんなお気持ちなんですかね。
《んふふ~》
「機嫌が良いな」
《だってココ、良い村なんだもん》
「あぁ、被害も無く、犠牲も無いからな」
それに、女騎士団の制服が、やっと完成したんだよねぇ。
今までは男物の衣類を幾つか直して着せてたんだけど、プロの、しかも帝国の仕立てで。
夏服と冬服、それに正装用と常用の4種類に、コートまで有るの。
常用は上着の丈は腰まで、でもウエストはキュッと締まってるヤツ。
でズボンは太股周りがフワッとしてて、腰と足回りがピッタリしてる、動き易さ重視の形。
逆に正装用は、上着は燕尾型で、もう全身がピッタリフィット。
で色なんだけど。
やっぱり常用は灰色、汚れが目立たない様にと、田畑で馴染み過ぎない様にって。
けど、ココで腕章が出て来るんだよねぇ。
ルイーズは団長だから、白色に青で家紋を入れて。
副団長のオリガとアナスタシアのは、逆に青に白、一兵卒は水色に黒。
で正装用よ。
ルイーズのは、全部が真っ青で、刺し色に黒を入れてん。
バリカッコイイ配色で、しかも肩掛けの帯刀ベルトまで有るの、で色は差し色と同じ。
コレで、おトイレも安心して出来る仕様。
向こうの女性警官って男性用の装備と同じだから、トイレの時に装備を全部外すから大変なんだって、海外ドラマで見たんだよねぇ。
でもう、マジで、ルイーズに似合うから。
正直、嫉妬心すら浮かばなかったよね。
あ、で、副団長のオリガとアナスタシアのは、青の上着に白いスラックス。
金髪碧眼に青と白の制服とか、本当にズルいよねぇ。
でシャルルとクローディア(クローディアス)なんだけど、今は一般兵扱いだから腕章は水色と黒。
で礼服は白の予定、流石にまだね、全部は決まって無いから。
けど青を先頭に、白い礼服の子達がいっぱいになる予定。
早く綺麗に揃った姿が見たいよねぇ~。
《早くアナスタシアより強い子、現れないかなぁ~》
「あぁ、ソチラもか、成程な」
以前なら、見た目なんてどうでも良いのでは、と。
些か懐疑的な部分が有ったのですが、やはり見た目は重要なのだと、改めて実感しました。
「私も早く、認めて頂ける様に頑張りますわ」
《私も》
『ありがとうございます、ですがあまり無理はなさらないで下さいね、怪我をしては元も子もないのですから』
「はい」
《はい》
『では』
その特別な何かに惹かれ、人々は努力する。
それが単に見た目の事であろうとも、憧れ、向上しようとする。
ですが、時には何かを煽ってしまう事も事実。
「見た目は良いが、なぁ」
《どうせ、見た目だけ、だろう》
コレは、シャルル騎士爵の事、では無さそうですね。
成程、ココは幸いにも平和ですし。
公開試合を開くには、良い場所ですからね。




